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ノロイの人形

前編(2)

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「あ!メガネ!こんなところにいたのか!!」



後ろから大きな声が聞こえた。

振り向くと、3回生の美人先輩が立っていた。



「チビ王子!!」



まやちゃん、聞こえちゃうよ。



「…なんスか。先輩」



メガネ先輩、声のトーンがすっごい下がりましたけど。



「なんだじゃない!例の病院跡に行くって約束してただろう?」



「あ~…そういやそうでしたね。設楽先輩にこれ渡してからでいいスか?」



面倒くせぇ…メガネ先輩がボソリと呟いた。

な、仲良くないんかな?



「あぁ。いいぞ。でも、お前はなんで携帯に出ないんだ」



ぶつくさ美人先輩が文句を言っているのを無視して

先輩が僕に向き直って、再度プリンのお礼を言ってくれた。



「早くいくぞ!」



「へいへい」



美人先輩の後をかったるそうにメガネ先輩がついて行く。



「くっ付いて歩いているのは逆だったか…まさかチビ王子が金魚のふんだったとは…」



うん。僕もそう思ってた。

ごめんなさい。メガネ先輩。



「なんていうか、2人の印象が変わったね」



「うん。メガネ先輩、思った以上に感じが良かった。

できれば、あのハクちゃんのこともっと聞きたかったさぁ。あ!友達になっておけばよかったぁ~!」



友達って、そうやってなるもんだっけ?



ガシャーーーン!



学食中に、食器が床に落ちる派手な音がした。



「おい!大丈夫か?!」



慌てたような声がして、そっちを見ると、1人の男子学生が苦しがって床で悶えていて、

周りの友達が驚いて声をかけている。



「あげっ!あれ、しに(超)やばい!!」



まやちゃんの焦った声が聞こえた。



「え?なに?どういうこと?!」



顔が真っ赤からどす黒い赤になった男子学生が床で泡をふいてビクビクと痙攣している。

学食は騒然とした雰囲気になっていて、女子学生の悲鳴も聞こえる。



「ちょっと、行ってくる!」



まやちゃんが倒れている男子学生の輪の方へ走り出した。



「ちょ、ちょっと待ってよ」



僕もまやちゃんの後を追いかけたけど、

ふと、異質な空気を感じてそこを見ると

女子学生が喧騒の輪から外れたところに1人立っていていた。



ぞくっとした。



だってその子、うっすらと笑っているんだもん。

目が離せなくてその子を見ていたら、視線を感じたのかこちらを見た。



ぞわぞわとしたものが背筋を這い上る。

だって、その子の目が真っ黒に見えたから。

その子が踵を返して去っていくまで僕は動けなかった。





チッ!!」



まやちゃんが倒れた男子のそばで何かをしている。

慌ててそこへ駆け寄った。

ちょうどそこへAEDを持った人も到着した。



「いや。AEDはいらない。心肺停止したわけではない。

呼吸も少しずつ落ち着いてきている。医務室に運ぶのを手伝ってくれ」



「持ってきてくれてありがとうね。誰か運ぶのを手伝ってくれる?」



あれ?美人先輩とメガネ先輩だ。



倒れた男子の友達が数名、名乗りを上げた。

担架を持った人も駆けつけてきて、僕らは医務室へ向かった。



「あらあらあら。どうしたの?」



学校医の先生が僕らに聞いてきた。

誰も明確なことを言えずに、突然苦しんで倒れたとだけ友達が答えた。



「とにかく処置をするわね。君たちは戻っていいわよ」



医務室から出て、ぞろぞろと歩いているとき

彼の友達たちが驚いたなと話しているのを聞くとはなしに聞いていた。



「やっぱり、あいつの日ごろの生活じゃねぇ?」



「まぁ、悪くは言いたかないけど、色々乱れてるもんなぁ」



隣でうずうずした空気を感じた。

まやちゃん、気持ちは分かるけどパパラッチ根性はダメだよ?



「どういうことだ?」



美人先輩がしれっと聞いた。



彼らは質問されると思ってなかったから、ちょっとざわっとした。



「え?あーっと…あいつ、今の彼女と付き合ってから必死なんですよ。

彼女のライフスタイルに合わせて、夜な夜な朝まで遊び歩いてて。

最近は講義も欠席しまくってて。不健康な生活してるから…」



「ふぅん…あの男、誰かに恨まれてないか?」



みんなギョッとした。

先輩って、まやちゃんと同じ世界の住民だったんだ…。



ちょっと戸惑った空気が流れたけど、

おい、あれじゃないか?いやでも…

みたいな感じで友達がわさわさ話し合っている。



「あいつ、数ヶ月前に付き合ってた子をこっぴどく振ったんですよ。

今の彼女が学年でも高嶺の花っていうか、美人で人気の子で。

その子と付き合えて有頂天になったのか、元カノに対して酷い対応してて。

でも、それとなんか関係あるんですか?」



「いや。なんとなく気になってな」



友達は、はぁ…と言うと、釈然としない顔をした。



「ごめんね~。この先輩、ちょっと不思議ちゃんだから」



メガネ先輩がフォローにならないフォローをした。



「おい。なんだ?不思議ちゃんて」



先輩、もしかして天然ですか?



「先輩は黙ってて。ちなみに、その元カノさん大学きてる?」



「最近見るようになりましたよ。ちょっと気の毒になるくらい痩せちゃって、

俺らも見てて居たたまれないっていうか…」



「でも昨日みた時、ちょっと雰囲気変わってて不気味だったわ」



「あ。俺もみた。前は愛嬌ある感じで可愛らしい子だったのにな。

なんか、別人かってくらい雰囲気かわってた」



「そっか~。ありがと。ごめんね。お騒がせしました」



メガネ先輩がニコニコ笑って言って、美人先輩を促して立ち去ろうとした。

おい!僕はまだ話し終わってないぞ!!

とかって騒いでいる先輩に業を煮やしたメガネ先輩が、美人先輩をひょいと小脇に抱えた。



わーわー言いながら手足を振り回している先輩に

はいはい。行きますよ~と言いながら歩いていく。

残された僕らはポカンとして見送るしかなかった。



最初に我に返ったのはまやちゃんだった。



「聞きたいことあるってば!追いかけよう!!」



走りながら、僕はまやちゃんに聞いた。



「ねぇ、あの時さ、なんかしてたよね?」



「うん。あれ、呪い。あの人、呪い掛けられてる」



えぇぇぇぇぇぇ…。



「せんぱーーい!ちょっと待ってくださーーい!」



メガネ先輩はまだ小脇に美人先輩を抱えたままだった。



「ん?どうしたの?」



「メガネ先輩!あの人に呪いが掛かってるって分かったんですか?」



「メガネ…。まぁ、いいや。

うーん…ハッキリとではないけどね。気づいたのはハクと先輩だよ」



「え?チ…先輩も視えるんですか?」



まやちゃん、今、チビ王子って言いかけたでしょ。



「あぁ。視えるな。僕の場合は色で区別を付けている。お前たちも面白い色をまとってるな」



なんだか偉そうだけど、まだ小脇に抱えられたままだ。



「君、なんか面白いことしてたね。解呪ってやつ?」



メガネ先輩がまやちゃんに聞いた。



「一時的ですけど。あのままだと多分、あの人死んでました」



ぞっとした。

そんなに怖い呪いが掛かってたの?



「あと、最近、大学内なんか嫌な感じしませんか?変なぁニオイする人もいて」



「僕はニオイでは分からないが、黒いものをまとってる奴らが増えたな」



「俺も分からないけど、ハクが落ち着かないな」



「あのっ!!LIN交換しませんか!!!」



まやちゃん、それが目的だったでしょ。

唐突すぎるよ。



先輩たちはちょっと驚いた顔をしたけど、快くLIN交換をしてくれた。

まやちゃんに巻き込まれてなんでだか、僕も。



ほくほく顔のまやちゃんを促して、お礼を言って先輩たちと別れた。

美人先輩は結局最後まで抱えられたままだった。

仲良しなのかな?
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