樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第二章

74.樹、ぴんち

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「あ、あの…小鳥遊君」

トイレから会場に戻るために歩いていると朱雀に遠慮がちに声をかけられて、胸がざわっとしてしまうが、懸命に押し殺した。

「朱雀どうしたの?」
「あ、あのね…今度、委員会の後にお茶しない?!いや、してくださいっ!」

物凄い前のめりで熱烈なお誘いを受けてしまった。

「お、おう」
「本当?!絶対?絶対だよ?わーい!嬉しいっ」
「そ、そんなに喜んでもらえると俺も嬉しいよ」
「えへへ。実はね、マサ君から小鳥遊君の事色々聞いててさ。お話したいなぁと思ってたんだ」

朱雀の口から雅樹の名前が出てドキッとした。一体、どんな話をしているのか知らないけど、その内容は聞きたくない。
ただ、純粋に俺と話したいと思ってくれている朱雀の笑顔を見ていると、さっきまであった警戒心が徐々に薄れていくのが分かった。
そうだよな。朱雀はなにも悪くない。俺が勝手にイラついたり嫉妬したり不安になってるだけだ。

「それに、最近は大我からも…」
「ん?大我??」
「うふふ。樹くんって、魔性だねぇ」
「はぁ?」
「大我ってさ、すっごいすっごい硬派なんだよ?面倒見いいし優しいけど、積極的に相手に踏み込むようなタイプじゃないんだ。しっかり一線を引いててさ。
だから隙がなくって、大我に群がるネコちゃん達は毎回玉砕してるの」
「は、はぁ…」
「友人として、これからも是非、大我と仲良くして欲しいと思ってるんだ。もちろん、僕とも!」
「あ。それは俺も思ってた!」
「本当?嬉しい!」

朱雀と話していると、段々楽しくなってきて気が付いたらじゃれるように歩いていた。

「志木…あの絵面癒されねぇ?」
「あぁ。可愛いのがキャッキャして平和な空気がたまらんな…」
「なんかよ、最近見た目は可愛いのに重くて黒い空気に纏わりつかれて疲れてたからあの平和な可愛さが目に染みる」
「同感。樹ちゃんの可愛さは癒し以外のなにものでもないな」
「お前の、例の美人…あれはなかなかに一筋縄ではいかないぜ」
「分かってる。お前のあの可愛い子ちゃんもな。あれも同じくらいヤバいかと」
「あぁ…」
「はぁぁ~…なんだってこんな事に」
「本当にな。あぁ…樹を抱きしめたい。キスしたい。セックスしてぇ」
「俺も…樹ちゃんが不足して最近、睡眠不足なんだが」
「同じく」
「もう少しの辛抱だ。頑張ろうぜ」
「だな。一番辛いのは雅樹だしな」
「あぁ」

俺は2人が疲れた顔でそんな会話をしていたなんて知らずに、朱雀と少し打ち解けたのだった。



◇◇◇◇◇◇



朱雀とは徐々に打ち解けていったものの、雅樹との距離は縮まずにいた。俺はまだ向き合う勇気がなくて逃げ回っていて、雅樹もよそよそしい。
雅樹からの着信は無視して、メッセージには適当に返せそうなやつには返して返せないやつは既読スルー。このままじゃマズイなと分かってるけど、まだダメだった。
ヘタレだなと思っても、恋愛遍歴が初心者すぎる俺にはどうしたらいいのかまったく分からなかったし、勝たちにも相談できない。

「樹」
「大我…」

今日も今日とて中庭ベンチに避難していた俺を大我が探しに来てくれた。大変申し訳ない。だがしかし、目の前でイチャコラしている3バカ恋人を見るに見かねて休憩がてら出てきたのだ。俺は悪くないぞ!…多分。

「ごめん、大我。一応今日の分は終わらせてから休憩に入ったんだけど…でも他にもやる事あるよな。もう戻るよ」
「いや、いい。俺も休憩だ」

うそつき。俺に気を遣わせないために休憩って事にしたんだろ。なんだこいつイケメンか。いや、イケメンだったな。イケメンは余裕があるから他者にも優しさを分けてあげられるんだろうか。俺の3バカ恋人も非常に優しい。今、あいつらに纏わりついている奴らもそういった優しさがキッカケだった。
恋人が周りに優しいのは嬉しいけど、こういう展開は複雑だ。

「大我ってモテそうだよなー。イケメンだし頭いいし気配り出来るし、なにより優しいし」
「俺は別に優しくない」
「優しいよ。今だって俺に優しい」
「休憩に来ただけだ」
「ふふふ。うん。そうだったな。でも、ありがとな」
「…」

頭に大我の手がポンと乗って、くしゃりと髪の毛をかき乱されたかと思うと、乱した髪の毛を梳いて戻された。

「…なにしてんの」
「樹の髪の毛は障り心地が良くってな」

…下手な慰め方だなと思ったら笑えてきた。

「俺、大我好きだな。いっつもありがと」

大我の手が一瞬ぴくりと止まったけど、また頭を撫で始めた。

「俺も、樹が好きだ。こちらこそいつもありがとう」
「おう!」

大我に優しい目で見られてちょっと、ドキドキした。





「あれー?」

俺は今、ぴんちだ。とってもとってもぴんちだよっ☆
目を覚ましたらなぜか俺は倉庫みたいな所で両手足を後ろ手に縛られて転がされてるのだ。どうしてこうなったんだと記憶を反芻する。

大我と教室に戻ってから、直しが入った行程表を大我とチェックしつつペットボトルのジュースの残りを飲んでたら尿意をもよおしたからトイレに向かって、そんで…

「そうだ!用を足して手を洗ってたら個室から出てきた奴に…」

後ろから布で鼻と口を押さえられて、その後の記憶がない。下を向いて手を洗ってたから相手の顔も見てない。

「ちょっと頭が重いし体もだるい…なんだってこんな事に」

目が覚めておーいおーいと声を上げたけど、全然人が来ないし倉庫の周囲にも人の気配がなく遠くで部活動の音がする。聖上は敷地が広い。ここは校内でも外れの方なのだろう。

「熱い…」

体が熱い。倉庫内が暑いんじゃない。俺の体が発熱している。ずくんずくんと下半身に重い刺激が微かにした。熱いしなんか腰がビリビリするし、俺の体になにか異変が起きているのは間違いない。なんだかとっても————

「嫌な予感しかしない」
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