樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第二章

62.さゆりちゃんの説教タイム

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「へー。鳳凰にもあんだな、こんな部屋」
「うん。お昼はここで食べてんだ」

 お昼になって、いつも来ているサボり部屋に志木を案内した。笑いつつキョロキョロしながら部屋を見渡す志木を見て感慨深い気持ちになる。本当に、俺らのクラスメイトなんだなぁって。
 志木が俺らと同じクラスになったのは奇跡の偶然でもなんでもなく、選択したコースによるものだ。俺らの高校は1学年に10クラスあって、そのうち2クラスが特進クラスで主に私大を含めた難関大学受験を目的とした人が集まる組だ。うち1クラスが国立だとか、更に超難関大学受験を目的としたクラス。残り8クラスが普通科。
 俺はバカだけど、一応特進クラスだ。(その中でポンコツっていうな…)

 志木の編入は難関大学への進学が志望動機でもあったから、試験もそれに合わせた内容になる。見事突破したから俺らと同じクラスになったという訳だ。
 超難関コースの奴らはもう、俺には天上人よ…。

「鳳凰は、しっかり勉強してれば見た目はあまり厳しくないのがいいよな」
「そうだね。———ところで、志木のそのピアス…」

 にっと笑った志木が得意気に言った。

「そっ。樹ちゃんとおソロ♡な?」
「う、うんんん…」

 あ。なんか雅樹たちから冷気がっ!
 夏前に開けたピアスホールがある程度定着して、俺は志木とお揃いの黒い石のピアスを付けていた。ぎりりと雅樹から歯軋りの音が聞こえたんですが、気のせいですかね?

「樹っ!!!俺もおソロにしたいっ!」
「俺も!俺もしたいっ!!もう2つ開けね?」
「えぇぇぇぇ!?やらよ!いてーしこえーもん!」

 口に入れた唐揚げを噴き出すところだった。

「「愛が足りないっ!!!」」
「えぇーーー…」
「まぁ、いいじゃん。お前らは恋人だけど親友としての特別な既に絆があるだろ?」
「まぁ、そうだけど…」
「俺はさ、お前らと違ってそういうのねぇからさ。物理的な楔っていうの?それを樹ちゃんに刻みたかったんだよ」

 え。そんな事考えてたの?重っ…

「そ、それでもやっぱり目に見えるのが羨ましいんだよ…」

 デカイ図体をしょんぼりさせて言う勝に不覚にもキューンとした。
 俺の彼氏可愛くね?

「わ、分かったよ…。が、頑張って開ける」
「「マジ?!」」
「———樹ちゃんって、恋人に甘い?意外と尽くし系?」
「じゃ、じゃあ今度選びに行こう?」
「お、おう。雅樹もそーいうの嬉しいのな?束縛を連想させるのは嫌いかと思ってた」
「嫌いだよ。でも、樹は別。俺が縛りたいからね」
「ね、熱烈ぅ……」
「とーぜんでしょ。樹は俺らのお嫁さんだからね?」
「お、おう」

 ボンッと顔が赤くなってぷしゅうと抜ける。体がへにょんてなって、顔がにやけて直らなくなる。正式に恋人同士になってから、俺はずっとこんな感じだ。
 そんな俺を見てこいつらがデロ甘な顔するから益々、直らない。
 山田に「バカップル」と言われているけど、それすら嬉しい。頭沸いてる。

「そのイチャイチャ、分かってはいたけど目の当たりにすると結構イラつくな」

 志木が何かをこらえるように言って、ちょっとビックリした。
 雅樹と勝は結構、嫉妬深い。特に雅樹。これは最近、恋人になってから改めて2人を見て気づいた事だった。
 志木はそんな素振りってあんまり見せてこなかった…というか、あんまり接点なかったからかな。

「我慢しろよ。俺らからしたらお前はポッと出なんだからさ」

 雅樹、キツイ!怖いっ!

「あぁ。分かってる。分かってはいるんだが———」
「あのあのあのあの!あ、あんまりさ、その、ケンカみたいなのは…まぁ、元をただせば1人を選べなかった俺が悪いんだけど」

 シュンと落ち込んでしまう。俺の多情が悪いんだよな。。

「あぁぁぁ!樹!落ち込まないで!違うから!樹が俺も選んでくれたってだけで嬉しいからさ。自分を責めないで?」

 雅樹が慌てて俺を抱きしめて顔中にキスを降らしてきた。
 こいつ、束縛激しいけど一番俺に甘いよな。ゲロ甘よな。
 うぅぅ…そんな気持ちに付け込んだ俺ってば、やっぱ悪い男だ。

「雅樹…呆れてない?やっぱビッチやだなーとか思ってないか?」
「んな事思う訳ないでしょ!」

 慌てながらあちこちにキスされてくすぐったくて、でも幸せでくふふと笑ってしまう。

「うん。樹が笑ってくれると俺はすごい幸せだな」
「へへへ。ありがとう」
「樹ーーー!俺もだからな!俺も、樹が笑ってくれるだけで幸せだぜ!」
 勝が俺らに抱き着いて頭にキスをちゅっちゅする。
 ———こいつも大概だな。
 イヒッと笑ってふと志木を見れば、ちょっと固まっている。
 あ。かなりアウェイ的な?だよな。すまねぇ。

「志木?こっちきて?」
「お、おぉ」

 そろりと側に来てくれたから俺は嬉しくて志木の手を両手でキュッと握った。

「志木、俺の恋人になってくれてありがとうな。見ての通り、俺ってば大体こうなってるんだ。やっぱ嫌か?」

 志木はじっと俺を見てからふっと笑った。

「いいや。そりゃ樹ちゃんを独り占めしたい気持ちは変わらないけど、今の樹ちゃんまるごと俺は好きになっちゃったし、俺も選んでくれた事は素直に嬉しい。
 正直、こいつら2人はむちゃくちゃイイ男だろ?それなのに俺も受け入れてくれた。
 今はそれで充分だ。これからも遠慮せずに樹ちゃんに愛を注ぐから受けとって?」
「う、うん…」

 俺の彼氏ってばイケメンばっかり!じわーっと喜びを噛みしめていたら、ケツ穴がきゅんとした。俺ってマジでビッチ!!!!



 ◇◇◇◇◇◇

「小鳥遊先輩ッッッ!!!」

 珍しく俺が単独で歩いていると、可愛らしい声で呼び止められた。
 この声は———。

「さゆりちゃん…」
「ちょっと!小鳥遊先輩!どーゆー事か説明してくださいっ!」

 のっけから怒ってるんだけど、俺、何かした?



 超絶可愛い女の子に物陰に引っ張り込まれたら普通、健康な男子高校生は色々期待しちゃうよな!だけど、俺は違う。この子がこういう時は遠慮なく俺をディスる時だ。

「な、なに?こんな人気のない所に連れ込んで…さゆりちゃんのエッチ♡」
「ばっかじゃないですか?相変わらず頭わいてますね」
「スイマセンデシタ…」

 氷点下の目線で蔑まれた。綺麗な顔がそんな顔すると真面目に怖い。
「三条からイケメンが転入してきたらしいじゃないですか!
 なのにさっそく先輩の毒牙にかかってるって噂聞いたんですけどっ!!!」
「はぁ?」

 毒牙ってなんだ、毒牙って!さっそくって!!!

「いや、志木はそーいうんじゃ……」
「じゃあなんですか?あ!三条のイケメンて、あの人じゃないですか?
 前に雅樹先輩とデートしてる時に一緒に居たイケメン!!!手、繋いでましたよね?」
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