樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

32.ある意味、難攻不落

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地元の駅の改札を出ると、勝が腕を組んで仁王立ちで立っていた。

「よ、よぅ。勝ぅ。出迎えありがとう」
「あぁ。すっ飛んできたわ」

勝の圧がすごい。怖い。

「で?なんだって?」
「樹が浮気した」
「はぁ?お、俺浮気なんて…!」
「浮気でしょー!他の男とデートしてキスしたらもう、立派な浮気!違う?」
「はぁぁ?」
「あ、いや、その…」

パクパクと口を開け閉めするけど何も言葉が出てこない。
いやでもなんだ?なんか変だ!変だぞ?何で俺が責められてんの??

「誰かの家行ったら、歯止めが利かないと思うから公園いこっか」
「おう」

3人とも無言で公園に向かってテクテク歩く。
両手は雅樹と勝にそれぞれぎゅっと握られたままだ。俺は俯いてトボトボ歩いた。
街頭に照らされた3人の影は、どう見ても捕まった宇宙人のそれだった。

「で?浮気相手は?」
「三条の志木ってやつ。学際で樹を助けてくれたやつだよ」
「そいつか!いつの間に連絡取り合ってたんだ?」
「塾が一緒だったらしい」
「それかぁっ…!」
「しかも、そいつうちに転入してくるらしいよ」
「はぁ?!」
「で、さっき樹と志木が地元デートしてる現場に居合わせたってわけ。しかもあいつ…樹とキスしたんだって。これ浮気決定でしょ」
「浮気以外の何物でもないな」

色々とツッコミたいけど流れるような会話を見守るしかなく黙る。

「はぁ…でも、樹が嫉妬してくれたのは嬉しかったけど」

嬉しそうに笑う雅樹。こいつ完全に頭わいてる。

「樹…お前、そいつの事どう思ってるんだ?」
「え?どうって?」


勝が雅樹に目配せをした。雅樹がうなづく。なんだその阿吽の呼吸。お前らデキてんのかよ。
それから、雅樹に志木とのやり取りをねちっこく尋問された。
気が付いたらその時の俺の心情とか体の反応とかを話していた。
雅樹こわい。

「雅樹、これ気づかせたらやばいやつ」
「うん。そうだね。樹が超鈍感で良かったと言うべきか、そのせいで今の膠着状態なのを先に嘆くべきか判断がつきかねるけど」
「お前らなんの話してんの?」
「「樹は黙ってて(ろ)」」
「あい」

雅樹と勝が2人して深い深いため息をついた。
なんか知らんけど苦労させてごめんね…?

「なぁ、雅樹、勝。俺さ…ビッチなのかな?」
「「は?」」
「だってさ、志木にキスされんの嫌じゃないし、体がえっちぃ反応するし。でも、俺別に男に興味ないんだよ。こんなのお前ら2人だけだと思ってたのに…」
「勝…そらせ」
「はぁ?どうやってだよ!難易度たけぇよ!」
「お前らさっきから何ごちゃごちゃ話してんの?」
「「い、いや別に?」」

俺が真剣に悩んで相談してるのに…。

「樹、樹の中で志木と俺らに対する気持ちっていうか、反応とかは違うのか?」
「うぅん。多分、一緒…だと思う。だから悩んでる。ビッチなのかなぁ」
「「違う。それはない。絶対に、ない」」
「でも、快楽に異常に弱い気がするし…」
「「それは否定しない」」
「だろ?だからさ、誰にでもなのかなぁって」

こんな気持ちになるの2人にだけだと思ってたのに、自分が分からなくなって、不安だし怖いし涙がにじんだ。

「樹…」

勝がひょいと抱き上げて膝の上に乗せた。

「樹、お前はビッチじゃない。確かにちょっと、いやかなり快楽に弱いけど、それは俺らだからだ。他の男に同じ事されたらって想像してみ?」
「うぇぇぇええ!ぜってぇぇぇやだ!気持ち悪い!無理無理無理!!」
「だろ?」

勝が嬉しそうに笑った。目が優しい。
俺の事をすげぇ大事に想ってくれてるのが伝わってきた。

「勝、俺のこと軽蔑してない?嫌いになってない?」
「なるわけねぇだろ。大好きだ」
「はぁ~…良かった。ま、雅樹は?」
「なるわけないでしょ。愛してるよ」
「へへへ。愛…うへへへへ」

嬉しくて勝の胸にぐりぐりする。

「樹、くすぐってぇよ」
「えへへへへ。安心したら涙でてきた。ぐすっ」

勝に優しく頭を撫でられて、雅樹を見て目が合うと優しく微笑まれた。
良かった。2人も俺のこと嫌いになってない。
嬉しくてまた涙が出てきて勝の胸にもっとぐりぐりした。

「ははは。くすぐって…おい!樹!鼻水ついてる!伸びてる!ガキかお前はっ!!!!」
「うへへへへへへ」
「樹…?ちょっと顔あかくない?」

雅樹が俺のおでことか顔、首筋に手を当てた。

「熱でてきてない?」
「確かに、樹がホカホカすぎる」
「ちょっ。熱出てるでしょ!家送ろう」
「お、おう。樹、寝てな」
「うん…」

安心したらなんだかめちゃくちゃ眠くなってきて、お言葉に甘えてそのまま眠る。
一瞬だけ目が覚めたら、勝におんぶされていた。
勝の香水が香ってきて、安心してまた眠りに落ちた。







「参ったな…まさかこんな落とし穴があるなんて」
「俺ら、樹の近くにいすぎたせいで志木ってやつと同じ言動取っても“親友の延長”って思われてるよな。
志木は最近知り合ったやつで、しかも自分を助けてくれた人間だからな。だから自分のドキドキに対して気づく。
俺らがどんなに好きだって言っても、日常の延長にしちまってんだよなぁ」
「まさかここまでとは思わなかったけど。志木に”だけ”特別な感情を抱いてるって思っちゃったら樹の事だから一気に転がり落ちちゃうね」
「どんだけ自分の気持ちにニブちんなんだよ、こいつは…」
「基本的に男は対象外だから、俺らの事を好きなわけないって思い込んじゃってるよねぇ。俺らの事、すごい好きなくせに」
「俺たち厄介なやつに惚れちゃったなぁ」
「ほんとな。まぁ、それでも樹が手に入れば苦でも何でもないけどね」

俺はよしよしと樹の頭を撫でた。最終的にこの子が手に入ったらそれでよし。
まさか自分がこんな風に思う日がくるなんて思いもしなかったけど、けっこう悪くない。1人に縛られるはずなのに、その事実が胸に甘い痺れを走らせて満たされる。それが、樹という人間であることが嬉しい。

ただ――――最悪は、志木ってやつも…。

横からぽっと出で気に食わないけど、樹があいつをも好きだと思うなら、そしてあいつが俺らの条件を呑むのなら―――考えてやってもいい。

樹は俺らのものだし大切な人だけど、雁字搦めにしたい訳じゃない。
どうしてもあいつの方が良くて、あいつじゃなきゃ嫌だというのであれば…
悔しいけど、めちゃくちゃ悔しいから邪魔しまくるけど、最終的には樹が幸せに笑ってくれるのが俺らの望みだから。

「まぁ、それでもそれは最終手段。そう簡単には仲間にしてあげないけどね」
「あ?あぁ。志木ってやつ?まぁ、そうだな。あいつも樹のキングオブ鈍感力の前に悶え苦しめばいい」
「特殊な両片思いっていう意味の分からん地獄にはまればいいんだ」
「それな」


月が、優しく3人を照らしていた。

もうすぐ夏がくる。
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