樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

31.過保護な親友

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うんうんと頭を抱えて考える俺を見て、志木ははぁ~っと深いため息をついた。

「まぁ、いいや。なんとなく予想ついたわ。ちょっとだけそいつに同情してる」
「えぇっ?!なんで??」
「そういうとこだよ」

なんだよ。具体的に言ってくれなきゃ分からんぞ。

「でもまぁ、考え方によっちゃ俺にも勝機はあるわけだ」

うんうんと1人で納得しているし、まぁいいか。

「んじゃま、駅まで送るぜ」
「ありがと…志木、手ぇ気になんねぇの?」
「あ?これ?全然?樹ちゃんは?」
「あー…俺はなんかもう、免疫ついちゃって」

ハハハと乾いた笑いが出た。
そう。以前は人前で男と手を繋ぐなんてあり得なかったんだけど、人前で勝に抱っこされるわ両サイド手を繋がれて
迷子か囚われの宇宙人か、てな具合を日常茶飯でされてるうちに性別の前に人と手を繋いでいる、という認識になってしまった。

「ふぅーん。調教済み…ね」
「なんか言ったか?」
「いや別に。俺としては堂々と繋げてむしろラッキーだな」
「そ、そうか」
「そいつも平気なんだろ?」
「う、うん。むしろあいつらが積極的に…」
「あいつら?複数?!」
「え?あ、うん。親友2人のボディータッチがオープン過ぎて、今じゃクラスでは当たり前の光景になってるっていうか…」
「へぇ~…」



「―――樹?」


声をかけられてそこを見ると、女子と手を繋いで一緒に歩く雅樹がいた。
繋いでるっていうか、腕に巻きつかれてる??

「雅樹。こっちにいるなんて珍しいな?」
「樹こそ…そいつ、誰?」
「あぁ。志木だよ。学際で助けてくれた」
「へぇ。そいつがね」

ひぇっ。なんでそんな冷え冷えした目ぇしてんの?
雅樹の目線が、俺らの繋いだ手に止まって眉間にしわを寄せた。

「どーも。樹ちゃんと(まだ)お友達の志木です。よろしくな」
「どうも。樹の親友の篠田です」
「鳳凰に転入予定で同じ学年だから、よろしくな」
「はっ?うちに転入?!」


ギギギギ…と雅樹がこちらに顔を向けた。


「こいつ、転入してくんの?」
「う、うん。だから今一緒の塾なんだよ」
「はぁ?!塾も一緒だぁ?」
「ひぃ!そ、そうだよ。雅樹、どうしたんだよ?」

雅樹はこめかみを指で押さえて深いため息をついた。

「樹、お話しがあるから一緒に帰ろう?」
「は?その子とデートなんじゃねぇの?あ。その子って…」

雅樹の影になってて気が付かなかったけど、ひょこっと顔を出したその子は東十条さゆりちゃんだった。
相変わらずの可愛さだな!

…あれ?なんか胸がぎゅっとなったぞ。んんん??

「こんばんは…」
「こんばんは。雅樹とデート?」
「はい!」

満面の笑顔でぎゅうっと雅樹の腕に絡みついた。

「さゆりちゃんを家まで送ったらすぐ来るから駅で待ってて!絶対に待ってるんだよ?分かった?」
「えぇ~…」
「わがまま言うんじゃありません!」
「えっ…雅樹先輩、もう帰るんですかぁ?」
「ほらっ。さゆりちゃんもそう言ってる…し…」

雅樹に冷ややかな目で見返されて途中で黙った。こんな時の雅樹に逆らうとやっかいだ。

「勝にも連絡しておく。帰りは家まで送るから絶対にいて」
「えぇぇ?!なんで勝も?」
「分かった?」
「はい…」
「じゃあ、さゆりちゃん行こうか」
「は、はい」

雅樹の圧に気おされてさゆりちゃんも素直に返事をした。

「樹ちゃん、あいつが親友の1人?」
「うん。すげぇ過保護なんだよ。まぁ、あんな事があったから仕方ないんだけど」
「それだけじゃねぇな」
「え?どういう意味?」
「なんでも。まぁ、樹ちゃんの“親友”に挨拶が出来て良かったよ」

親友にやけに力を込めた志木が謎で首をかしげた。志木も俺と親友になりたいのか?
親友って、なろうぜ!って言ってなるもんじゃないけど、そこまで思われたら悪い気はしない。

「へへへへ」
「どうした?」
「べっつにぃ」

嬉しくなって、繋いだ手をぶんぶん振った。

「あいつが戻ってくるまで一緒に駅で付き合うよ」
「えっ。いいよ」
「いーの。俺がそうしたいんだから、樹ちゃんは甘えろ」
「うへへへ。うん。ありがと」
「どうしたしまして。あんまり可愛い顔すっと、ここでちゅーすんぞ」
「そ、それはダメっ!!」
「人前だから?」
「人前だから!!」
「人前じゃなきゃしていいのか?」
「ぴゃっ?!う、うん…」

ふふふんと満足そうに笑う志木を横目にぷしゅぅ~って頭から湯気が出た気がした。
志木は突然まっすぐぶっ込んできて不意をつかれるから照れる。
ん?あれ?雅樹と勝もか?

「樹、おまたせ。さっ、行こっか」
「おう」
「志木も樹に付き合ってくれてありがとう」

志木と繋いでいた方の手を取って、志木の手をペイっとした。おいコラ、失礼だぞ。

「樹は俺が家まで送っていくから(おめぇはお呼びじゃねぇんだよ)」
「おう。じゃあ樹をよろしくな(仕方ねぇから託してやるよ)じゃあ樹ちゃん、またな。ラインするわ」
「うん。今日はありがとな。楽しかった!」
「俺も。またデートしような」
「あはは!デートな!おう!」
「…」

苦々しい顔をして志木を見ていた雅紀がため息をついてぎゅっと俺の手を握った。
もちろん、恋人つなぎだ。子供じゃあるまいし、ここまで絡ませんでも大丈夫なのに。

車内はそれなりに混んでて、雅紀が扉に持たれて俺を腕で囲う。
これじゃカップルじゃんか。俺の身長だとちょうど雅紀の胸の辺りに顔がくる。
だから、非常に良い背もたれになる。今は向かい合ってるけど。

「雅紀の匂いがする…落ち着く」

雅紀の胸に顔を埋めて息を吸い込んでスリスリした。

「はぁ…樹、俺一応怒ってたんだけど?そんな事されたら怒るに怒れないでしょ」
「何で怒ってんだ?」
「なんであいつとデートしてんの」
「地元の祭りと花火大会に誘われてさ。特等席で見れてラッキーだった」
「特等…席?」
「うん!」
「ねぇ…それって人気がない暗い所?」
「暗くはあったけど、人気がないっていうか…」
「周りはカップルだらけ?」
「うん。そう」

はぁぁ~と雅紀が深いため息をついた。

「ほんとにもう、この子は…それだけ?」
「へぁ?!」
「見てただけ?他には何もしてない?」
「う、うん…」


俺の目が泳ぎまくる。


「樹?何もしてないよね?」
「なにもっていうか…キス?」

モゴモゴと言うと、拘束が強まった。

「雅樹、くるし…離して」
「ダメ。許さない」
「なんでそんな怒って…」
「俺ら以外の男とデートした上にキスまで…」
「なんだよ!お前だってさゆりちゃんとデートしてたくせに!腕まで絡ませちゃってさ!家まで送ってあげて…」

雅樹の片眉がくいっと上がった。

「嫉妬?」
「は?」
「嫉妬しちゃった?」
「べ、別にぃ」
「ふぅ~ん」

くすくすと笑われて耳がかぁっと熱くなる。

「そっかぁ。ふふふ。嫉妬ねぇ」
「し、してない!…ちょっとだけ、チクッとしただけだ」
「樹ぃぃぃ!!」
「ぐぇぇ」

雅樹に思い切り抱きしめられて苦しくて変な声がでた。
車内の人たちの注目を浴びてたけど、嬉しそうな雅樹を見てたらどうでもよくなった。
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