樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

30.親友といたしているけど…はて、あれはなんだろうか?

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「ここが何気に穴場スポット」
「おー!河原が見下ろせんだな」


今日は志木の地元の祭りに来ている。神社の裏手に当たるここに案内された。
足元は草木が生い茂っているから直に座ってもケツが痛くならない。
遠くに祭囃子と人のざわめきが微かに聞こえて、雰囲気がいい。


「一応、虫よけスプレーしとけ」
「お、おう。サンキュ。お前、オカンみたいだな」


シューシューと志木が俺にスプレーをかけまくる。


「樹ちゃんはお世話されるの慣れてるよな」
「そうかぁ?」
「うん。自然と身についてる。でもってオカン気質を引き寄せるタイプ」
「なんだそれ」


思わず吹き出してしまう。


「うぅ~~!可愛いっ!」
「だから、なんだよそれ!!」


男に抱き着かれるより女子に抱き着かれたいっ!!
何で俺は男にばっか抱き着かれんだ。解せぬ。


出店で買い込んだ食べ物を広げてどんどん食べていく。
腹が減ってたからどれ食べても美味い。


「転入に向けての勉強どうだ?」
「順調。樹ちゃんと同じ学び舎に通うという新たな目標も出来たから、励みになってんぜ」
「それはなにより。いつくらいから来る予定?」
「出来れば、修学旅行には行きたいから夏休み前か、遅くとも新学期からかな」
「そっか。無事に転入できるといいな」
「うん。すげぇ楽しみ」
「俺も」
「ふふふ。そっか。楽しみに思ってくれるんだな」
「もちろんだろ?」
「あはは。そっか」
「おう」



―――このあと、19時30分より打ち上げ花火を始めます


アナウンスが流れた。あと15分くらいか。


「樹ちゃんさぁ、恋人いんの?」
「ぶっふぉぉ!」
「大丈夫かよ」


食べ物が変なところに入ってしまって、咳込んでしまった。志木が背中をさすってくれる。


「ごほっ。ごほ。あ、ありがと。もう大丈夫」
「あーらら。涙目になっちゃって。苦しかったな。お茶飲むか?」
「ん。もらう。けほっ」


志木にお茶をもらって流し込む。落ち着いた。


「んで?いんの?」
「いや、いない。いな…い?」
「あははは。なんだよそれ。なんで自信なさそげなの?」
「志木は?いんの?」
「最近すげぇ気になる子が出来たから別れた」
「ほほぅ」


もしや、巨乳ロリ事務員か?!
そうかそうか。こいつ、意外とちゃんとしてんだな。
見た目で勝手に判断してごめんな。


「俺、俺さぁ…付き合った人数ならそれなり?にあるんだけど、すぐ振られちゃってさ。そういう意味で回転が早いんだよな」
「え゛?!樹ちゃん経験人数けっこうあんの?!」
「や、だから、そんな関係になる前に振られちゃうの。友達みたいって言われてさ。だから俺、自分の見た目とかにコンプレックスあんの」


あははと笑って志木を見ると、思った以上に真剣な眼差しで俺を見ていて笑いが引っ込んだ。


「樹ちゃんは、可愛いよ」
「だから、女子っぽく感じちゃうんだってさ!志木みたいに男っぽくなりたかったなー」
「可愛いって言われて嬉しくないだろうけど、樹ちゃんは可愛い。最近はちょっと色っぽくなって綺麗になったな」
「は…?」


志木が優しい目で俺を見ながら頭にぽふんと手を乗っけて、わしゃわしゃと撫でた。やめろ!髪の毛が乱れる!!


「樹ちゃんの髪の毛触り心地がいい。艶々でサラッサラだな。学際で会った時より綺麗になってる。お手入れしてんのか?」
「お手入れっていうか…親友が俺の髪の毛を毛づくろいするのが好きで、暇さえあればブラッシングすんだよ…」
「へぇ…」
「それでかな…志木?」


髪の毛を撫でてた手がゆっくりと下りて、俺の輪郭に沿ってそっと添えたまま動かない。
優しく目のきわを親指で撫でられている。
居たたまれないというよりも、ドキドキして顔が赤くなっているのが分かった。


「…嫌がらないんだな」
「ちょ、ちょっとびっくりして」


ふっと笑って顔から手を離した。
ちょっとだけ、残念と思ってしまったのは、きっと、気のせいだ。


ドンッ!パラパラパラパラ…


腹に響く音がして打ち上げ花火が上がった。


「おぉ…すげぇ。ここ特等席だな!」
「だろ?」
「こういう所って、カップルの穴場になりそうだけど」
「あぁ。いるぜ。ただ、お互いに暗黙の了解で離れた場所に座ってんだよ互いに目の入らない距離で」
「暗黙の了解…?」
「そっ。花火・夏・カップル、暗い所。盛るだろ?」
「さっ、さか…!」


急にここが淫靡な場所に感じてしまってドキドキしてくる。
そのまま無言で花火を鑑賞した。
綺麗なんだけど、なんでだか隣の志木が気になってあまり集中できない。

ふっ…と地面に置いたお互いの指先が触れて肩が跳ねた。
志木の指が俺の指を撫でている。でも、嫌じゃない。

そのまま指を絡めて握られた。
バクバク心臓がうるさくて、手に汗をかいてるのがわかったけどどうしてだか離したくなくてそのままにした。
くいっと腕を引かれて隣の志木を見ると、俺を見つめていた。
志木の、瞳に花火の光が反射してキラキラと光って――


「…綺麗だな」
「なにが?」
「志木の目。花火の光が反射してキラキラしてる」
「樹ちゃんの目もだよ」
「そっか」
「うん」


どちらからともなく顔が近づいて、俺らはキスをした。


ちゅっ…と微かなリップ音がして志木の唇が離れた。
もっと、もっとキスしたい。
ズクズクと甘い刺激が腰にまとわりつく。


「樹ちゃん、すっげぇエロい顔してる」
「してない」
「してる。押し倒したくなるから、自重して?」
「知らないよ!んなの!」
「あははは!無自覚ほど恐ろしいもんはねぇな」
「――志木は」
「ん?」
「志木は、嫌か?男とすんの」
「あぁ。興味ないね」


ズンッと胸に重石が乗った感じがして血の気が引いたのが分かった。


「じゃ、じゃあなんでキスなんか…」
「樹ちゃんは別」
「は?」
「樹ちゃんだけは別。今すぐ押し倒したいけど、さすがに初めてでここはねぇしな。男は大変らしいじゃん」
「…」


そう。
男は大変だ。色々と、大変だ。


「それに、樹ちゃんは丁寧に抱きたいんだよ」
「ん…?抱く前提で話してる?」
「おう。だから、今日はキスだけで我慢」
「は?…んっ」


さっきまでの軽く甘いキスではなく、舌を絡ませて互いに唾液を交換する深い深いキスをした。
歯列を舌でなぞられて、舌を軽く甘噛みされて気持ち良くて声が出てしまう。


「ははっ。樹ちゃんの声すげぇ可愛いな。腰にくる」
「んっ。はぁ……ちゅっ。きもちい」
「んんんんっ!堪えろ、俺。ここは外」
「しきぃ。もっとちゅーしよ?」
「だぁぁぁ!スイッチ入った樹ちゃん凶悪だな、おい!…おい?」
「えへへへ。これでいっぱいちゅーできる」
「勘弁してくれよ…振り切れそう」


志木ともっとキスしたくて、密着したくて志木の膝の上に座って抱き着いた。


「樹ちゃん、すげぇガチガチになってんな?」


ぴんと指でちんこを弾かれた。


「やぁん!」
「って、俺もガッチガチでいてぇけど」
「んっ。ちゅっちゅっ。じゅるちゅぱっ。しきぃ…」
「樹ちゃんやめて!俺の足にちんこスリスリすんのやめて!俺マジで限界っ!!!エロい!エロすぎる!あぁ…顔が凶悪に可愛いぃぃ!!」


志木の絶叫が花火の音でかき消された。




「ごごごごごめんな…」
「いや、いい…」


花火が終わったら志木がヨボヨボになっていた。


「なんか一気に老けたな?」
「誰のせいだよ、もう…」
「す、すまん」


食べた後のゴミをまとめた袋は志木が持ってくれた。俺らはなんとなく自然な流れで手を繋ぎながら夜道を歩く。


「あーーー…俺、ぜってぇ鳳凰行くから」
「うん。待ってるよ」
「それまで、誰にも食われんなよ?」
「ふぁ?!食われ…?んん?何で??」
「はぁ?この流れでそれ聞くかぁ?…ちょっと待て。樹ちゃん確認させろ」
「な、なに?」
「樹ちゃん、童貞だよな」
「う、うん。残念ながら」
「処女?」
「はっ?!」
「後ろ。処女かって聞いてんだよ!」
「そっ…それは…」
「…ちげぇんだな」
「うぅ…はい」
「でもさっき、恋人はいないって言ったよな?」
「うん。恋人…ではない…な?うん」
「どういう関係だよ!爛れてんな!」
「お、俺はビッチじゃねぇぞ!!」
「…」
「な、なんだよ、その目はっ!!」


た、確かに親友2人としてるけど!
あれは、あれはだな!…はて、あれはなんだろうか。
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