カミサマカッコカリ

ミヤタ

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カミサマカッコカリ

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「信じてもらえるかはわかりませんが」
「信じるよ。われら長老衆はすべて知っている。この宇宙の成り立ちから第八層にいたるまでの巨大な層をなす世界を。榛名や。お前さんの魂が落ちてきたときのことをわしは良く知っている。危険視されていた第五次元がついにこちらに手を伸ばしてきたのだな。では許す。そのゼロ次元の子を第一次元のわれわれの仲間と認めよう。久しぶりに人が増えた。天野がああなってしまったからな。おぬしが、おらぬ間に天野の代わりの子が生まれたのだよ」
「あの、部屋は天野が自室を使ってほしいと言っていました」
「えっ」
 その言葉に今のいままで硬直していた松宮が素っ頓狂な声を上げた。
「松宮君」
「あ、すみません。はじめまして、っていうかえ?」
 衝撃の後は混乱しかないのだろう。
「ここは第一次元、君のいた世界でいう「神様の国」となるな」
「ああ、先生の生まれたところですね」
「そう。悠久の時を生きるわれらは星を作りゼロをはぐくむ仕事がある。ゼロは原初。最初。基本、基礎。この宇宙の土台であり、この宇宙の始まり。それはわかるかな?」
「はい」
「よろしい。榛名からいろいろなことを聞いていると思う。君が榛名の代わりに彼のつくりだした世界の神となる。例外だが長老衆は君を一次元の子と定義づける。許す」
 びくりと松宮の体が跳ね上がる。
「せんせ」
「ああ。おめでとうこれで正式に君は一次元のものになった。君を構成するプログラムがこの次元で確定され、君にはこの次元の枠がはめられる」
「そういうことじゃ。今までゼロでもなくここでもない中間だったからの。プログラム自体はすでに書き換わっていたようだが」
「私の生まれ故郷で」
「なるほど。ならば何も言うまい。われらの世界も脅かされておるのだから。天野の部屋を彼に。榛名よ、お前はどうするのだ」
「私もここに居ますよ。というか第三次元にいても違和感がありますし」
「そうか。ならば許そう」
「ありがとうございます」
「榛名、松宮君、君たちには苦労をかけてしまう。許してくれ」
「大丈夫ですよ。長老。心配なさらず」
 それではと腰を上げる榛名が松宮を促す。廊下に出るとこっちだと先導する。それについていきながら松宮は口を開いた。
「俺、一生分の驚きをここ一月の間に与えられてる気がします」
「そういえば、ドラゴン倒してからどのぐらい経過している?」
「二週間になります」
「二週間。うわぁ」
「そりゃあ、死に掛けてたんですから。みんな心配してましたよ」
「君の顔みてりゃわかるよ」
 自分の目の下をなぞるように示せば、ああ、と松宮は頷く。
「先生の治癒プログラム維持したり対抗ウイルスかけつづけなきゃいけないから。あんまねむれなくて」
「がんばってくれたね」
「はい。よかった。でもぜんぜんよくねぇ。なんですか両目真っ黒とか馬鹿なの?何したんです。両手も真っ黒ですよね?」
「あ、ウイルスの核は取ったけれど表面にいた全部を体内に収納したらこんなになっちゃってね。大丈夫大丈夫。今からちょっとそれらの始末するから。ここ、ゼロ次元の部屋。私たちが星を作り生み出した後に浮かべて定着させる次元の狭間というのか部屋というのか。ここはゼロ、君たちの住む星が浮かぶ最初のレイヤー。次元」
 外回廊からつながる橋を渡り、榛名は松宮を伴い部屋の中に入る。締め切ってしまえば宇宙に自分が浮かんでいるように見えて松宮は驚く。
「すげぇ」
「これが君の住む生まれた星」
 パネルを操作すると目の前に一枚の大地となった自分の生まれた星が現れる。
「えっ、世界ってこんな風になってるんだ」
 モニターを開き、流れるプログラムを見せる。ドン引きするほどにウイルス汚染されたプログラム。そのプログラムをつまんで丸めて手のひらに入れてしまう。ぐしゃぐしゃと揉み、足元に開いたゴミ箱へと何かが消えていく。ぱらぱらと落ちていくそれから手を広げ、真っ白いプログラムと赤黒いプログラムをつまんで引っ張る。引き剥がした赤黒いプログラムはその場で燃やしながらゴミ箱へと落とす。真っ白いプログラムだけが残り、それをモニターへと返す。上書き保存を行い、いったんモニターを閉じる。ウイルスをすべて除去したのだ、本来の姿に戻らねばならないのにそれが無い。もう一度モニターを開き、プログラムを表示させて流す。途中、手を止めた。
「あ、これ先生の体に入ってた核じゃないですか」
「核は小さいけれどこれは楔だね」
「楔?」
「そう。第五次元からこちらへわたろうとするその穴を開けるための楔。これをはずさなければならないというわけだ」
「ここではずせないんですか?」
「無理だね。ほら」
 と、赤黒いそれに触れて、はじかれる」
「ってことは、こちら側からでは無理ってことっすか」
「中から一個ずつ壊すしかない。あとは天野が散らかしてる私にも埋め込まれた核ね。あれを除去かな」
「ええ。めんどくせえ」
「実体化させてしまったのでとりあえず強化プログラムで壁をつくりましょうか」
 どれだけ相手に効くかはわからないがそれでもプログラムを組み上げる。他次元からの干渉をブロックするプログラムで保護し、それをさらにロックする。
「もう一枚」
 先ほどとはまた違う、触れた瞬間に相手に強力なウイルスを撒き散らすプログラムを組みあげてそれを外側に掛ける。
「多少の時間稼ぎにはなるでしょう」
「先生すごい。でも俺が居る必要はないのでは?」
「この白い部分の運営維持、核の除去。あといつもどおりバグ修正」
「アッハイ」
「私一人の手じゃ足りないから君を神様に据えたんですよ。申し訳ないけれどね。君の存在が次元を超えたから、もう田村君や狐日君と同じようにすごすことは出来なくなりました。君の時間はここに固定される。悠久の時を生きていくんだよ」
「あー」
「君の意思を聞くことも無く横暴なことをしたけれど、申し訳ないね」
「申し訳ないと思ってない態度で言われましても。もういいっすよ。大丈夫。でも、先生。俺ぜんぜん弱いんですよね。神様になったのにぜんぜん変わらないんですよ」
「そりゃあそうでしょうよ。強くなったけれど最初から。ですから。私と同じようにタイムラグ無しで展開できるし、複数の同時展開なんて息をするように出来るでしょう」
「だけど、先生と同じような厚みやバランスではないってことですね」
「そういうこと。そして私も似たようなものだからね。ちょっとチートさせてもらうけれど」
「何」
「保護プログラムは掛けたから、第三次元の私の力をそのまま振るっても大丈夫なようにプログラム自体を強化させる」
「それ、俺が維持するんですよね」
「先生、鬼か!」
「鬼ですよ」
「知ってた!」
 手早くプログラムを打ち込んでいく。保存し、正常に作動していることを確認すると部屋を出た。そのまま天野の部屋へ案内する。
「ここが君の部屋なんだけれどまたしばらく帰れないから、君の精霊たちはまだ選定中っぽいね。私の精霊たちに頼みましょう」
「あいつの部屋ですね」
「ああ。君に使ってほしいってぶほっ」
 苦虫を噛み潰したようなすさまじい顔をする松宮に思わず吹き出して笑う。天野の言ったとおりになってしまい笑いが止まらない。
「何笑ってるんですか」
「天野の言うとおりになったなと。彼はもう死にましたよ。彼の外見だけをのっとった第五のやつがくるでしょう。それを、殺します」
「先生」
「ちゃんと、体も安らかに眠らせてあげないと。それが遺言ですから」
「しかたねえな」
 ため息をついて、天野は両手を合わせた。
「天野さん、使わせていただきます!」
 部屋に向かって一礼すると部屋の中から妖精たちが起き出した。
「えっ」
「なにこれ!」
 驚いたのは松宮だけではない。妖精は契約者が死ねば一緒に死ぬのだ。
「天野?」
 思わず彼らのマスターである友を呼ぶ。
「お前たち、天野の精霊だろう?」
 眠りから起きた精霊たちが頷く。
「なぜ」
「マスターの命。次のマスターが来るまで仮死となって眠ること」
 そう告げた精霊たちは一斉に松宮の前に集まり頭を垂れる。
「新たなマスター、契約を」
「えっ」
「松宮君、名乗って。そして、「己が名において生涯を共に」と」
「はいっ。 松宮です。えっと、己が名において生涯を共に。未熟者ですがよろしくお願いします」
 契約が完了する。新たなマスターを喜ぶ精霊たちに榛名が維持を頼む。心得たとばかりにはしゃぐ彼らに自分の精霊たちが現れ嬉しそうに交流を深める。
「じゃ、私の部屋に帰りましょう」
「へあ」
「部屋」
「あの、精霊さんとやら、またしばらく先生と一緒に自分の世界に帰るから、留守にします。ごめんね。維持お願いします」
 しょんぼりとする双方の精霊にごめんねといいながら部屋を出て榛名の部屋へ戻る。
「疲れた」
「まあ、確かにね」
「先生からだ大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ。あとはこのウイルスどうにかしますんで、君はご飯食べてなさい。お茶とご飯つくってあげて」
 榛名の周りにいる精霊たちに告げる。その間、自分のディスクに座るとモニターを立ち上げ、自分のプログラムを開く。ウイルスプログラムを一括し、それを情報として別枠へと引っ張る。
「うっ」
 わずかに痛みが走る。それは無視するとウイルスプログラムに目を通す。難しいなと思いながらもプログラム自体に手を入れ始めた。
「時間かかるのかな」
 食事を終えて、自分で皿を洗う。おろおろとする精霊たちにこのぐらい自分でできるよと笑う。
「寝るなら、自室にベッドがあります」
「ありがと」
 精霊に案内を受けて先生が終わったら起こしてと、疲労で目の下のクマが濃いままあくびをひとつ。皿洗いを終えて出されたマグカップをひとつ。お茶をすすって元天野の部屋へと向かう。
「精霊さんたちよ、寝たいので静かにお願いします。あと、榛名先生のプログラムが終わったら起こしてください。ベッド借ります」
 と告げるとサイドテーブルにマグを置いてぼすんとベッドに体を投げ出し、眠りに落ちる。それを見て精霊たちは光が入らないよう、寝室を暗くするとそっと部屋から離れる。
 指先はすべるようにキーボードの上を走る。自分の力を使いながらうまいことウイルスを共存させるように組み替えていく。第五のウイルスと相殺するようにそれでいて第五次元のプログラムのままという荒業を成していく。成さねば勝ち目はないのだ。
「難しいことを言う」
 没頭する彼の姿を精霊たちはため息を持って見守っていた。

 気配がした。目を覚ました目の前に、榛名が立っている。
「ひっ」
「松宮君、帰ります」
「あ、はいっ」
 あわてて起き上がる。背伸びをして体をばきばきと言わせる。
「あの、先生。この格好は恥ずかしいのですが」
「ああ。そうか」
 榛名の部屋に戻り、洗濯物を受け取る。
「どのぐらい寝てました?」
「まるっと一日」
「えっ」
「一日たってますよ」
「すみません」
「大丈夫。こっちもさっき終わりましたし。さて、今から戻ります」
「先生、休まなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫。心配しなさんな」
「目の色元に戻ったんですね」
 着替えが終わり、榛名の目をまじまじと覗き込む。
「左半身は全部黒いですけどね。ウイルスを濃縮還元した結果、半分程度に収まりました」
「濃縮還元」
「そう」
 真っ黒のコートに真っ黒のハイネック。左手には黒い皮手袋を装着している。右手は何も無い。普段のいでたちに手袋が加わったぐらいだ。左手の手袋をはずせば赤黒いうねりが見えた。
「うわぁ」
「さて、後始末に行きましょう」
「え。どこに?」
 にやりと笑う榛名をみて、ああ。先生なんだなーと松宮はしみじみと思った。

 時間を指定し、消えた五分後ぐらいに戻る。薄暗い世界は朝を迎えようとしていた。時間は四時半。厨房では朝食の仕込が開始されている頃のはずだ。顔を出して、榛名が無事を告げれば調理場からコックたちがあわてて出てくる。良かったと泣くので、出かけてくるから心配するなと伝言を頼み、松宮と共に出て行く。ギターとアンプをバギーに積み込み、二人は山を登っていく。細いが二人乗りのバギーならなんとかいける程度。山脈超えの街道ではなく、町を一望できる場所があると聞いていた。徒歩で行くことが出来るその場所は結構な広さを持っているが割と標高は高い。その代わり王都が朝日にきらめくところが見れるのだという。砂漠まで一望できるその場所へたどり着いたときにはうっすらと空が白み始める。
「居ると思ったよ」
 バギーを止めさせ、バギーから降りる。それは手の平から赤い何かを空へと飛ばす。きらきらと輝きながらその赤い何かの粒が散っていく。
「あっ!」
「もうきたの。早いね。榛名」
 振り向いた顔は天野。死んだと聞いていた松宮は驚いてアンプを落としそうになった。
「君をね。ちゃんと葬りに来たよ」
「ははっ。面白いことを言う」
 指先を向けるそのタイミングで松宮は防御壁を張った。一撃で砕かれるが、立て続けに襲い来る赤いそれは榛名に打ち込まれた核。瞬時に防御壁をはりそれが砕かれる。それを続けるとわずかに天野の顔が曇る。
「ちっ。いちいち邪魔をするな!」
 叫ぶ声に松宮は挑発に乗らないようにぐっと息を呑む。
「消えろ」
 指先を開いて横に凪ぐ。五つの赤い核が射出された。
「うるさい」
 それを右手で横に凪ぐことで相殺し、弾けさせる。
「へぇ」
「天野の体を返してもらう」
「はは。何を言ってるんだ。榛名。俺は俺だというのに」
 ため息をひとつ。
「もう少し擬態するならがんばれよ」
 あきれたように告げて、地面から黒い蔦でがんじがらめにする。
「っ。炎」
 体に巻きつく蔦を炎で焼ききる。
「神火」
 キュンと高く鳴る音と共に光の槍が天野へと突き刺さる。
「馬鹿か!」
 赤い半円の防御壁がその槍を逸らす。はねて空を突き抜けていく光の槍が見えなくなった。プログラムを消去させると松宮はあせったように榛名を呼ぶ。
「なんで!」
「君弱いんだから。神火跳ね返されちゃう」
「そうなんですか?」
 首をひねる。
「榛名、お前もうちょっと、しつけとけよ」
「いや、申し訳ない。若干、申し訳ない」
 ちょっと恥ずかしい思いをしながら、榛名はそれでも攻撃の手を止めない。
「爆炎」
「氷壁」
 目の前に現れた分厚い氷が壁となって榛名の爆炎を防ぐ。
「ロープ」
 松宮がロープで体を拘束する。
「うっとおしい!黙ってろ!」
 あっさりとちぎられたロープが消える。とっさに防御壁を張ろうとした松宮に向かって手のひらを下げる。圧力がかかり、地面にたたきつけられる。
「がはっ」
 体を打ちつけるものの上から掛けられる圧力で体が動かない。みしみしと体中の骨がきしむ。松宮に意識が向いた事に榛名が気づかないわけも無かった。細い針が天野の体に吸い込まれた。
「えっ」
「さようなら」
 左手がぎゅっと握られ開かれる。ぼんと、体の中から無数の真っ白いとげが体を突き破って出現する。
「は?」
 驚いた顔をする天野が驚愕した目を榛名に向けた。
「うそだ ろ」
「だから、言っただろう。天野の体は返してもらうと」
「ちっ」
「ウイルス」
 左手からずるりと赤黒いウイルスが伸びて天野の口の中へと消えていく。
「あがああああああああああああ」
 絶叫が響き渡る。彼の中を食い荒らすのは自分と同じ第五次元のプログラム。中に入っている何かが絶叫し、体を軋ませる。内側から縫いとめられて逃げることも出来ない。だが最後の力を振り絞った彼は自分の胸に手をつきたてた。にやりと笑って、体が破裂する。破裂した天野の体から赤い核が無数に飛び出し、世界中に散らばって赤い雨を降らせた。
「うそだろ」
 呆然と眺め、その赤雨は地面にたどり着くことなく空中で消える。世界中に巻かれたバグ。それを一つ一つつぶしていくとなると時間がかかる。幸いにもこの国に降った数は少ない。破裂し、ばらけた体を榛名は集めていく。
「すまない」
 最後まで、助けられないのかと悔しく唇をかみ締め、榛名は彼の体に炎をつけた。すべてが燃え尽きて灰になった頃、太陽が顔を出し、砂漠を金の海へと塗り替える。細く長くたなびく煙は空中に消えていく。
「天野。本当にさようならだ。またいつか」
 燃え尽きて崩れ去った灰はプログラムとなって消える。
「先生」
「後片付けは終わりました。ギターを。この国に落ちた核を壊し、プログラムを平定させます」
「はい」
 ギターとアンプを持つ。増幅装置のついたギターの弦をかき鳴らし、崖の縁から眼下に広がるベルラウ市から砂漠へと視線を落とす。眠りから目覚めはじめるこの国は砂漠と荒野が広がる。喉に触れて、調整を行うと、ギターをかき鳴らした。増幅装置をへて国の隅々まで届くような高く、澄んだ声が広がっていく。大気を震わせ風が音を運ぶように吹き抜けていく。燃え尽きた灰は完全に消え去り、眠りから目覚めた人々はその歌声に耳を澄ませた。
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