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第1.5話
しおりを挟む「彰くんと僕、本当に相性いいよね」
隣で名前も知らないオメガがぴったりと素肌にくっついてくる。
「僕、彰くんとなら番ってもいいよ?」
鼻につく臭いが嫌で身体を起し、制服を身にまとう。
「ごめんごめん、もううざいこと言わないから」
シャツのボタンをしめている手に細くてしなやかなオメガらしい指が絡みつく。後ろからフェロモンを漂わせてくる。
「彰くんといると、何度でもしたくなっちゃう…」
もう一回しよ、と肩に触れた髪の毛は、柔らかくて、つややかな黒髪だった。
頭を枕に押さえつけて、下着から自分の性器を取り出す。頭を撫で、やっぱり頭の形が違う、と毛先だけをくすぐるように弄ぶ。
白い肌に浮かぶ背骨を一つひとつ、確かめるように撫でる。
「ん、んぅ…あき、らくぅ、ん…」
「黙って」
甘ったるい声に邪魔をされ、頭を押す。先ほどまで穿っていた尻たぶはやや赤みを持っていて、そこに自身を挟む。前後に揺らし、瞼を閉じる。
(依織…)
背筋を辿って電流が腰へと溜まる。ひくん、と硬度を持ったそれを、ひくひくと疼いている孔へと埋め込む。
「んん、んうっ」
「…っ、ぉり…」
両手で白い肌をなぞり、前方に動かし、胸元の飾りを摘まむ。ぎゅう、とナカをきつくされ、内腿が震える。
「あ、あん、あ、あき、らくう、んぅ」
「…声出すなって」
わざとらしいほどの声に、危うく萎えてしまいそうになる。その前に、口内へと指を突っ込んで黙らせる。そのオメガは必死に、俺の指に吸い付いて、鼻息を荒げる。
「ねえ、きもち、い?」
ぱちゅ、ぱちゅ、と先ほどまで何度もして緩んだ孔からは、粘着質な水音がする。それらが陰毛を濡らし、尻とぶつかる度に嫌に目立つ。
鼻息荒くも、うなずくオメガの黒髪は柔らかくて、依織に似ていた。思わずそこに頬ずりして、鼻をうずめる。
(違う…)
しかし、そこには俺を惑わす甘い香りはない。
小さく舌打ちをして、思い切り奥を穿つ。
「ぅ、ひゃ、ううっ、う、う、ん、んんっ」
細い肩は桃色に染まり、しっとりと汗ばんでいる。早いピストンに、依織の黒髪がはらはら、と揺れる。
(依織…、依織…)
依織のナカが、俺を求めて、一生懸命に奥へと誘い、行き止まりが先端に吸い付いてくる。柔らかい臀部に腰骨をぶつけると、たぷ、と波打つような気がする。オメガらしい体つきが愛おしい。
(好き、好きだよ…好き…依織、依織…)
「ん、んうっ、ぁ、ん、ううっ」
「あー…、イク…、ナカで、飲んで…」
ベッドに押し付けるように、上から乱暴に、ただただ欲をぶつける。ごりゅ、ごりゅ、と腰を打ちつける度に、ナカの行き止まりに深くキスをする。その度に、きゅ、ぎゅ、と強くしめるから、俺も負けていられない。
(依織、依織…俺で気持ちよくなって…、俺のものになって…)
「んうううーっ!」
肌と肌が強くぶつかる音と共に、身体の下にある依織もどきは痙攣をはじめ、俺は依織のナカへと射精した。
長い長い射精をしているときは、大好きな依織を孕ませることが出来る快感に揺蕩える。
しかし、それが終わると、残酷な現実が俺を、打ちのめすのだ。
俺が射精をした相手は、やっぱり依織には似てもに似つかない、所詮依織もどきでしかない。
いつもそうだった。
初体験は、高校に進学して、初めて出会ったオメガだった。
そのオメガは、上級生らしく、俺を狙って発情フェロモンを放出して、俺をヒートへと陥れた。無我夢中で発散する性はたまらなく気持ち良かった。
なぜなら、俺の中ではすべて、依織が相手だったから。
その先輩は、黒髪で、依織と同じ身長だった。
次のオメガは、依織と同じ、手首にほくろがあった。その次も、耳に髪をかける癖が同じだった。他にも、瞳の色が似ていた、唇の厚みが似ていた、髪型が同じだった、声が似ている気がした…。それぞれに依織の影を感じれば、すぐに抱いた。
長年、自分の中に鬱積していた欲は、凶悪なものとなっていた。とにかく腰を打ち付けて、長い射精を胎内で受けさせる。後腐れがないように、目の前でピルも飲ませる。
依織が、自分の番にはなれないとわかっていたから。
だから、代用品で我慢した。
毎日、目の前にいる依織に、唯一無二の優しい親友としての彰でいるために、代用品に思いをぶつける。
俺が、依織の隣に居続けるためには、それしかないと思っていた。
「僕、ずっと彰のことだけが、好きだよ」
うっとりと頬を染めて、背伸びをして俺にキスをする。
(これが、依織だったら、どんなに嬉しいだろう…)
高校三年生。
もうあと一年もしないで、依織は本当に兄さんのオメガになってしまう。
毎日、焦燥していて、地に足ついていないような気分だった。
家から言われて嫌々やる生徒会の仕事も、もう少し。
学校で無駄ことに時間を割きたくないという理由から、親衛隊なるファンクラブも承認した。それによって、俺に告白する人間はいなくなった。親衛隊の中から適当に今日の代用品を見繕うことも出来た。
賢く、すべてを総括する能力がある者を先輩に選んでもらって、適当に決めてもらった。
それが、目の前にいるオメガだった。
(唇の形が、依織に似てるんだよなあ…)
柔らかく、しっとりとした唇が、俺に媚びるように甘く吸い付く。長い睫毛を震わせる姿は、その辺の男であれば煽情的な姿に必ず答えただろう。
(潮時だな…)
好きだとか、付き合おうとか言われても、無理なものは無理だ。
なぜなら、お前たちは依織ではないから。
冷ややかに見降ろしていると、後ろで足音が聞こえた。薄い肩を押して振り返るが、そこは静寂に包まれた廊下であり、誰もいなかった。
「ねえ、彰…っ、僕、本気だよ…!」
潤んだ大きな瞳で訴えかけてくる。依織以外にする笑顔を貼り付けて見下ろす。
「弥栄とはこれからも、大切な友達でいたい」
最近なんとか覚えた名前を思い出して、甘く囁いて頭を撫でる。ぽう、と瞳を溶かして僕を見上げるオメガは、これからも面倒くさいやつらの相手をしてもらわないといけない。卒業までは。
心底面倒だけれど、依織と過ごすために、このオメガは使える。
言葉の意味を理解したのは、じわじわと大粒の涙を目にためてオメガは俯く。
「僕…、諦めたくない…、諦められないよ…っ」
胸元に飛び込んできて、しくしくと泣いている。漏れそうになる大きな溜め息をかみ殺して、ゆっくりと呼吸する。求めているとは違うにおいがする。
「俺が、大田川じゃなかったらね」
違う人生があった。
(依織を番にできる人生が…)
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