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ep.10-6
しおりを挟む「ぼく、にも…ちょう、らい…」
ピルケースを指差すと、彼は怪訝に顔をしかめた。
「聖は今、薬はダメって言われただろう?」
山野井先生から、身体をオメガの状態に自然に促すようしばらく治療してから、この発情期が来るまで薬など外的なものに頼ることを一切禁止された。あくまでも、自分の身体の治癒能力を使って、元あるべきオメガの身体に戻す治療法をとったからだ。それが一番、身体の負担がなく、自然にあるべき姿に戻れる最良のものだったからだ。
そのことはちゃんと、わかっていた。
けれど、僕は首を横に振った。
「や…、さくと、一緒がいい…」
本能ままであるなら一緒でありたかった。僕だけが乱れて、彼だけが正気でいることは、羞恥と共に寂しさが残る。もし、二人とも正気でいられるなら、それもまた彼との大切な思い出として心に残すことができるだろう。
お願い、と彼の指先を辿って、絡めるように握りしめる。ほろ、と涙がこめかみを伝って、視界が晴れる。目の前の彼は、眦を赤く染めて、じ、と僕を見つめ、荒い呼吸をつく。そして、ごくり、と生唾を飲む音が響く。
「今日くらい…」
興奮と甘美に震える吐息を飲み落として、ゆったりと彼の香りを吸い込んで、とろりと溶けた瞳のままつぶやいた。
「本能のままに、愛して…」
(僕も、本能のままに、愛したい…)
急に視界が暗くなったと思ったら、彼が目の前にいて、唇が塞がれていた。そのまま彼との場所が入れ替わって、僕はベッドに横たわるようになっていた。性急に彼の舌が僕の唇を舐め、こじ開けて、口内にある舌を吸い出した。彼の首に両腕を回して、瞼を落として必死にキスに応える。
ぐぐ、と身体の奥に彼の大きなモノが埋め込まれ、与えられた唾液を飲み込むと、全身が彼に浸食され、支配される。それを、心地よいと、嬉しいと、身体が震え、さらにほしくてナカがきつく疼く。一気に引き抜かれ、寂しさに瞼を上げて訴えると、光る瞳が細められて、強く奥を穿つ。
「んううっ、んっ、…んう、っ…」
ゆっくりと抜かれ、また奥を打たれると、天井の前に見える爪先が大げさなほど、快感に揺れているのが見えた。
また抜かれて、思い切り奥をいじめられることに期待している身体は、優しく撫でるように挿入されて、ぐぢゅう、と奥と彼の頭が濃密にキスをするように合わさると、押し込むように腰を押される。
「んぁ、あっ…んん…、きもち、ぃ…ん、あ、くう…」
舌がぐるりと口内を一周して、彼が首を逆に倒して、さらに深くを味わうようにキスをする。同じように腰も深くに突き刺したまま、ゆすゆすとされると、腰が勝手に前後にゆらめいて、さらなる刺激を求めてしまう。彼の腰使いがどんどんと速度を上げていく。
「聖…っ、俺の、聖…、好きだ…っ」
「さく、ん、あ、っんう…さくぅ…、っ」
彼の舌を吸いながら、僕は抱き着いて喘ぐことしかできない。ピストンが細かくなっていくと彼のフェロモンの濃度がさらに高まっていく。今までと違うナカの奥に、彼の熱情が叩きつけられて、全身が新しい悦楽の渦に落ちていく。息苦しいのに彼の唇を離すことができなくて、離れようとする彼を抱き寄せて首を伸ばして吸い付く。
「さ、う…、ん、ぁ、す、き…ぃ」
「ひじ、り…っ」
汗ばんだ腰に足を巻き付けると、息をつまらせた彼が僕のナカで果てた。
奥底の壁に、びゅっ、と勢いよく吐精されて、とくとく、と温かくなっていく。さらに、腕の中の彼が大きな身体を振るわせて、眉を寄せて汗を滴らせて快感に乱れる姿を見て、僕も曖昧にたらたら、と射精した。
「ふ、あ…ぁ、ん…、あ、ぅ…」
「聖…、ん…、好きだ…好き…」
伏せていた瞳を光らせて、彼は眉を下げて今にも泣きそうな顔をしながら、僕にキスをした。僕のナカで彼がまだ出し切っていないのは、心地よさからわかる。
好きなアルファに、求められて、与えられることは、身体の奥底から心地よく温かな何かが溢れてくる。ただの快楽だけでなくて、もっと深く、柔らかで、それでいて陶酔するものに心が満たされていく。
(もっと、好き…)
彼の頬を伝った汗を撫でると、頬を緩めた彼が僕の手を包んで擦り寄った。それから、手のひらにキスをして、瞼を降ろして好きだと囁いた。手のひらからもじんじん、と痺れる何かが伝わってきて、身体のナカが反応してしまう。すると、まだ射精をしているのに彼のペニスが、くん、と硬度を持ったのが、弱いしこりをこすられ気づいてしまう。思わず声が漏れ、背中がしなってしまう。彼の厚い胸板に僕の胸がぶつかってしまい、尖った先端がこすれてしまった。
僕も射精してすっきりしたはずなのに、意識はさらに混濁していく。
彼の両手を掴んで、胸元へと誘った。
「もっと、きもちく、して…」
彼の指先が跳ねて固まった。瞠目して僕を見下ろしていたが、彼の硬い手のひらに先端がこすれて、甲高い声が勝手に出てしまう。それを皮切りに、彼の手首を胸元に固定して、爪先をシーツにつっぱねる。手のひらにこすれるように背中を反らし、ナカがイイところに当たるように身体を上下に揺らす。その度に後ろから、くぷ、と彼の吐精したものが溢れ出てくる感覚があって、それがさらに肌を粟立てる。
「あ、あぅ…さくの、出ちゃった…だめ、出ちゃ、だ、めぇ…っ」
せっかく出してもらえたのに、それが外へと流れ出てしまうことが寂しくて、後孔に手を伸ばそうとした。そこに届く前に、僕の身体は反転させられてしまった。もふ、と柔らかい枕に頬を押し付けるようにうつぶせにひっくり返されてしまう。彼の顔が見られないのが嫌で、振り向くと、すぐに唇が塞がれて、長い舌が僕の上顎の奥の弱いところをくすぐってくる。
さらに、両手で薄い胸元を鷲掴むように揉まれると、女性に与えるような愛撫に、全身が目の前のアルファのメスなのだと感じ入り、腰が跳ねてしまう。たっぷりと甘露な唾液を与えられて、飲み下すとさらなる枯渇感に襲われて、舌に巻き付いたり吸い付いたりして、彼に甘えるしかなくなってしまう。
早く乳首をこすってほしいのに、わざと、周りの皮膚の薄い部分をくるくると彼の硬い指先が撫でまわす。
「んう、んん、…っん」
重い瞼を上げて彼に抗議するように声を出す。しかし、彼は目元を緩ませて、僕の舌を味わうのだ。いじってほしくて、いじめてほしくて、反らせた腰で彼に擦り寄ってしまう。すると、奥をぐり、と質量を増してきた彼の頭が押し込んできて、また爪先がびりびりと痺れてしまう。きゅうきゅうとナカが彼に抱き着いてしまうと、芯を持ちすっかり赤く勃ちあがっていた両乳首を彼の爪先が、きゅう、と強くつまみ上げた。突然の痛みに驚いたはずなのに、じりつく乳首を慰めるかのように、弱い先端をすりすりと優しく撫でられると頭の中が真っ白になってしまった。
「ぁ…、ん、う…っ、んぁ、さくう…う…」
名前をつぶやくと、瞳を潤ませた彼がさらに舌を差し込んできた。親指と中指で尖ったそれをつまみ、人差し指が先端をとんとん、と叩いたり、くねらせたりさすったりする。それだけで内腿の震えが止まらなくなり、腰が言うことを聞かなくなる。彼も同じようで、抽挿が大きくなっていく。しこりを撫でて、その奥にある弱いところをいじめるように、彼は腰を巧みにくねらせていく。そして、張り出したそこで腹側の薄い皮膚を掻くようにして出ていく。そして戻ってくる。繰り返される悦楽の世界に、僕はただ惑わされるしかない。
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