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ep.1-3
しおりを挟む「あぅ…」
長い快感に浸り、彼の舌を夢中で吸っていると、ちゅぱ、とそれが唇から逃げていった。ようやく思考が戻ってきて、彼が身体を起したことに気づいた。
「さく…?」
僕の上から退いた彼は、ベッドの淵に腰掛けて、ベッドヘッドにあるティッシュを数枚抜いた。それで僕の足を拭こうとしていて、その手首をつかんだ。
「ぃや…、いっぱいするって、言った…」
身体を起すと、下半身からぐちゅりと生々しい音が聞こえて、頬を熱くなる。けれど、彼が遠くに行ってしまうことの方が嫌で、回らない頭で彼を見上げて拙い言葉で伝える。彼は、眉を下げたまま困ったように笑って、僕の手を押しのけようとした。その前に、ぎゅ、と強く、彼の手首にしがみつく。
「な、で…? さくは、嫌なの…?」
そう思うと、どんどん身体は冷めていき、涙がこみあげてきた。先ほどまでのものとは、明らかに違う、冷たい涙だった。彼は眉を上げて、すぐに皺をつくった。
「そんなわけない!」
「じゃあ、なんで…?」
大きな声で否定するくせに、問い詰めると視線を泳がしていた。彼の太腿に手をかけると、大げさなほど身体はびくりと跳ねて、僕の手をやんわりとどかそうとする。けれど、今度は身体を寄せて、その手に体重をかける。
「僕が、変、なの…?」
こんなに身体が熱くなって、彼をいやらしく見てしまう、僕が特殊であって、いけないのだろうか。性にうとい自分では、正解が見えずに不安になる。
上目でちらりと彼をのぞくと、彼は奥歯を噛み締めて視線を反らしていた。
「どれだけ、我慢してると思ってるんだ…」
低く唸るようにつぶやいた言葉を僕は聞き取れなかった。でも、彼のことならなんだって知りたくて、顔に耳を寄せようとする前に、肩をつかまれて、正面に見据えられる。
「何にせよ、まだその時じゃない…」
瞼を閉じて、大きく深呼吸した彼が、笑顔を貼り付けて、また今度な、と僕の頭を撫でた。その手を捕まえて引き寄せる。
「じゃあ、いつ?」
「いつって…」
もう随分、昔のことのように思えてしまう。
約半年以上前に、彼に抱かれた。色々とすれ違って、愛憎ひしめいた中だった。けれど、それでも、彼がベッドの上で、執拗に僕との情事を続けたことは覚えている。何度果てても、彼は終わらなかった。僕もそれに必死についていって、気持ち良くて、彼のことが好きだということ以外何も考えられなくて、甘く名前を囁かれるしあわせでたまらなかった。その時の僕は、それは刹那的なもので、彼が飽きるまでだと冷めた心持ちであったのも記憶にある。
だから、こんな簡単に引いていく彼に、不安になってしまうのだ。
「僕の、好きって気持ち、受け取って…?」
彼が、何を気にかけているのかはなんとなく想像ができた。
僕を傷つけたくないと彼は言った。優しくしたいと。
だから、まだひどくしてしまうことを恐れているのだ。
彼が求めないなら、別に性的なことがなくてもいい。そのせいで彼と離れることになってしまうのなら。ただ、裸で彼と溶け合うあのしあわせを、僕は味わいたかった。もっと、いろんなことを一緒にしていたかった。
そう思っている僕が、おかしいのだろうか。
じ、と彼を見上げていると、彼の喉仏が、ぐ、と引っ込み、顔を下げた。長い前髪がはらり、と落ちて、彼の顔を隠してしまう。それから搾るように彼が声を漏らした。
「止まらなくなる…」
そ、と前髪をかき分けて、彼の両頬を包んで、口づけをした。しっとりと当たり前のように心地よく触れ合えることに、改めて嬉しいとうなじが痺れる。
「いい…、さくになら、何をされても…」
次の瞬間、ぐるん、と視界が回った。胸元を軽く彼に押されたようだった。ぽす、と柔らかなベッドに身体が沈むと、彼が僕の上に跨った。勢いよくネクタイを抜き去り、シャツを横に引き裂かんばかりに脱ぎ捨てる。隆起した筋肉が身体にまとわれていて、大人の男の身体に目を見張る。熱い吐息をつく唇がつややかに光る。
「聖…」
身をかがめた彼は、僕の胸元に顔を寄せた。唾液をたっぷりと含ませた唇で、サテン地の上から、僕の乳首に吸い付いた。びり、と強い快感が急に脳内を荒して、後ろがきゅう、と収縮した。今まで意識していなかったけれど、それに気づいてしまうと、彼が、じゅ、じゅ、と音を立てながら吸い付く快感によって、きゅんきゅん、と嬉しそうに反応している羞恥に身体が震えた。
「あぅ、さ、くう、ん、んうっ」
もう片方は、親指が丁寧に頭を撫でるように擦ってくる。いい子だと言われているみたいなのに、身体には欲が溜まっていく。先ほど出したばかりだというのに、股間に熱が集まっていく。さらけ出された下腹部を彼の湿った手のひらが撫でる。下生えをさわ、と混ぜてから、濡れた会陰を撫で、その下にある秘めた場所に触れた。反射的に腰が引けて、胸を押し出すように仰け反ってしまう。その動作によって、彼のアルファらしい犬歯に乳首がかすめ、強い痺れが駆け巡った。
「ひゃ、あっ、あ、ん、ぁ…っ」
にゅる、と彼の長い指が簡単に胎内に侵入してきた。オメガでもない自分の孔に易々と挿入されていることに目を見張ると彼も同じような表情をしていた。彼にしゃぶられて、生地が貼り付いてはっきりと勃ち上がっていることがわかる乳首を、彼の赤い舌がいやらしく舐めていた。それだけで混沌と頭の中が濁っていく。
「聖」
「ん…」
鎖骨を吸われ、首元を舐められる。そして、顎先に軽く犬歯が当たったと思うと、唇が合わさった。何度か吸われて、舌が僕の口内を甘やかすと、頬を擦り合わせて、耳元で彼の吐息が鼓膜を痺れさせる。それだけで胸が張り裂けそうで、必死に彼に抱き着いた。耳元で、僕にしか聞こないかすれた甘い低音が囁かれる。
「聖、濡れてる…」
「ゃ…あ、っ…」
ぐちゅう、と彼の指が奥深くに挿入される。ナカをじっくりと味わうように撫でられると、ぞわぞわ、と秘められた場所を開かれていく快感に声が漏れてしまう。
「かわいい…聖、好きだ…」
大好き…、と彼が熱で浮かされたように、何度も好きだと囁く。それだけで、達しそうになってしまうからやめてほしいのに、嬉しくて強請るように、ぎゅうぎゅうと抱き着く腕に力を強めてしまう。その間にも、後ろへの意地悪は止まらなくて、ある一点を彼の指の腹が撫でた。びりり、と強い電流が生まれて、足先がぴん、と宙へ浮いた。
「んあ、あああっ…や、それ…あ、あ…っ」
長い指が、とんとん、とノックするように軽く叩くと、今度は押し込むように撫でられてしまう。
「や、やあ、だめ、だ、めぇ…っ」
いつの間にか増えた三本の指が、それを摘まむように揉むと、泣き叫びたくなるような快感が全身に滞留していく。うなじがざわざわと違和感があって、耳の裏が熱い。彼がそこに鼻を差し込んで息を吸う。そのかすかな空気の流れでさえ敏感になっていて、肩が跳ねてしまう。
「聖、いい匂い…もっと…」
「ぁう、ん…さ、くう…っ、ぁ…」
ぢゅ、と柔らかいうなじに吸い付かれると、全身が、か、と熱くなる。すると、彼の濃密になった甘い匂いが一気に溢れて、身体に流れ込んでくる。それだけで、呼吸することが精いっぱいになって声が出なくなってしまう。その間も彼からの愛撫が止まらなくて、身体は混沌を極めていく。
「や…だ、め…、きもち、きもちい…、あ…さく、さ、ぅ…」
視界が滲んでいって、全身がぴくぴくと痙攣しているようだった。ただ、腹の奥には強い飢餓感のような寂しさが募り続けていった。きゅん、きゅん、と事ある事に存在を示し続けるそこのことしか考えられなくなっていく。
(ほしい…、後ろ…、さくが、欲しい…)
彼の広くて、でこぼことした背中を撫でる。ぴく、と彼が反応すると、さらにフェロモンが香った。嬉しくて、もっと欲しくて、するする、と手を滑らせていく。引き締まった脇腹を撫でて、たくましい腰回りにたどり着く。スラックスの前をくつろげている。そこには、大きく張り出した彼のアルファが下着の中で窮屈そうにしている。目の前の、好きな人が裸で、フェロモンを溢れさせている事実がリアルに伝わってきて、どんどん僕の身体も何かで溢れていくようだった。
「ぅあっ」
彼が急に声を漏らして、身体を大きく震わせた。それは、僕が、下着の中に手を入れて、彼のたくましいアルファを筒状にした両手で、外に出して擦り上げたからだった。すると、勢いよく何かが、びゅっ、と吹き出して、僕の頬を叩いた。それは何度か拭き上げてきて、瞼にかかり、腹にかかり、へそに溜まっているようだった。むわ、と強い花蜜の香りと青臭い匂いが混じりあって、ひどく僕の理性を犯した。目の前で彼は顔を下げて、びく、びくん、と身体を震わせていた。手の中のアルファも同じように震え、とろとろ、と液体をあふれさせた。
(す、すごい…)
こんなに一瞬で果ててしまうほど、彼も張りつめていたのかと驚いた。けれど、同時に、僕と同じなのかとわかると、ひどく安堵した。胸の奥がきゅう、と痛いのに、なぜか温かい気持ちでいっぱいになる。
たら、と輪郭を撫でた液体に舌を伸ばして舐めてみる。苦い中に、彼のフェロモンらしいまとわりつくような甘さがあって、濃厚な彼の精液を求めて、後ろがきつく締まり、ナカにいる彼の指に抱き着いた。
(足りない…)
それだけでは足りなくて、きゅ、きゅん、とナカが勝手に収縮し始めてしまう。指に回り付いた彼の残滓を口元に運び、吸い付く。愛おしくて、少しでも多く自分の体内に収めたかった。ちゅ、ちゅ、と舐めていると、その手を捕まれてシーツに貼り付けられてしまう。
「聖」
シーツか何か、布で僕の顔を彼が拭った。それから目を開くと、彼が瞳を縦長にさせて、ぎらりと僕を見下ろしていた。本能に刻み込まれたものが反応するように、圧倒的強者のアルファに身体が縮む。それと同時に、愛しいアルファが目の前にいる歓喜に身体の熱が増幅していく。ちら、と犬歯が光ったのが見えた。それを舐めたい、とのぼせた頭で思って、キスをしようとしたが、それは逃げて行ってしまった。
「あ…」
手を伸ばそうとすると、彼は大きな身体を縮こまらせて、僕の腹に何度か吸い付いた。キスしたい、と強請ろうと重怠い身体を少し起こすと、僕の屹立の前で長い舌を伸ばした彼と目があった。
「え…?」
さく…?と名前を呼ぶと、彼は口角をあげてから瞼を降ろして、大きな口内にすっぽりと僕のそれを飲み込んでしまった。ぬかるんだ温かなそこに、敏感なそれを入れられてしまうと、知らない刺激に全身が自分のものではないように、跳ねてしまう。
「ひゃああっ、あ、ああっ、や、やら! それ! あ、あぅ、だめぇっ…!」
頬をすぼめた彼の熱い口内は、にゅるにゅると舌が僕の弱い溝をたくさん撫でて、じゅぽ、じゅぽ、といやらしい水音を立てながら上下に動かされた。勝手に腰が、かくかく、と動いてしまい、恥ずかしいのに止められなくて、僕の命令なんか一つも聞かなくなってしまった。
「やっ! やだ、やだっ、それ、だめっ! も、でちゃ…っ! すぐ、でちゃう、からぁ、あっ!」
全身を奪う快感は、目の前で精悍な、誰もが振り向く美しい顔をした彼が僕の卑猥な棒を舐めているだけではなくて、後ろからの愛撫も同時に僕を責め立てていた。彼が折り曲げた指が弱いそこと、さらに奥にあるもう一か所を長い指が同時に撫で犯す。
やめて、と彼の髪の毛に指を差し込むのに、腰も振ってしまうから余計強請っているような倒錯さにどんどんおかしくなっていく。
「さく、さくっ! はな、してぇ…も、ほんとに、あ、ああ…でちゃうぅ…っ!」
彼が、頬を染めて、潤んだ瞳をちらり、と僕に向けると、それを嬉しそうに細めてから、思い切り喉奥で締め上げた。後ろでも、こりゅう、としこりを押し込まれてしまって、僕は両足を宙につるされたように突き出して、がくがく、と身体を震わせながら、思い切り快感の渦にさらわれた。
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