初恋と花蜜マゼンダ

麻田

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ep.1-2

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 柔らかな下唇に吸い付くと、そのまま唇を食まれてしまう。必死にはふはふと息づきをしていると、ぬ、と彼の甘い舌が侵入してくる。くるりと舌を舐められると、それだけで全身がぞくぞくと悪寒のようなものが走るのに、熱は高まる一方だった。

「んう、んっ…ん…」

 きれいな輪郭に指先を添えるだけで、僕は何もできなかった。長い指先が頬を撫でて、こめかみを通り、地肌をなぞった。それだけで肩が跳ねて、身体が強張ってしまう。大きな手のひらが僕の頭を包むと、分厚い身体が、そっと僕を押し倒した。急な浮遊感に、咄嗟に彼の首に腕を回すとより身体が密着して、熱が生まれる。舌先を吸われながら、うっすらと瞼を上げると、睫毛が縁どった宝石のような瞳がきらきらと光って僕を一心に射抜いていた。恥ずかしくて、それを遮りたいのに、身体の奥底から強い衝動のようなものが湧き上がって、彼の舌を舐めた。ざらり、と上顎の感触があったと思うと、ぐちゅりと音を立てて、舌が口の中で大きく巡らされた。そして、柔らかな舌裏の筋肉をじっくりと味わうように舐めつくされてしまうと、彼の口内に誘われるように舌を突き出してしまう。そこで、彼の発達した犬歯が淡く舌に突き立てられると、ぞく、と腰が重くなった。

「ん、んっ…ぁ、んぅ…」

 彼の名前を呼びたいのに、唇は離してもらえない。声を出したいのに、その巧みな舌にすべて吸い込まれてしまうようだった。
 肌触りの良いシルク地のパジャマの上から二の腕を、長い指が撫でる。そして、肩を手のひらで包まれて、そのまま下へと確かめるように滑っていく。肋骨をなぞり、肩がぴくぴくと小さく跳ねてしまう。薄い脇腹を撫でられると、ぞわりと肌が粟立って、内腿を擦り合わせてしまう。今度は脇腹からへそに触れて、上へと指がなぞり上げてくる。胸元にくると、大きくを円を描かれる。ぴん、と中央で小さな突起がシャツを押し上げ、擦れてしまうだけで、先端からびりびりと甘い電気信号が送られてくる。ちゃんと触ってもらいたいのに、彼はそこには触れてくれない。円を描いたり、手のひらで包むように揉む。

「ゃ、あ…ん、ん…あ、ゃ…っ」

 唇を何度も角度を変えて、ちゅ、ちゅ、と吸われる。胸元と唇から同時に送られてくる快感に、頭の中は蕩けきっていた。ようやく唇が解放されると、つ、と二人分の唾液が口端から零れて、首筋に流れる。それすらも気持ちよくて、シーツを踏ん張ってしまう。顎をあげて呼吸を整える。酸素が身体に送られるだけでも、身体が勘違いして、脳が痺れるような心地よさがあった。ぎ、とベッドが揺れて、視線を落すと、彼が僕の身体の上に乗り上げていた。暖色のベッドライトが彼の堀深い顔に影をつくる。その光を集めて輝く瞳は、僕の瞳と混じると、細められた。頬に小さく吸い付くと、頬ずりをされる。心地よくて、そのまま首に腕を回して深呼吸をする。彼も背中に手を回してくれて、ぴったりと僕たちは触れ合う。お互いの心臓が、早鐘を鳴らして、薄い皮一枚で隔たれていることに悔しさすら感じられた。

「聖…好きだ…」
「んっ…」

 耳元で甘く彼の声が響いた。じわ、と何か滲むような感じがして、身体がか細く震える。こり、と胸にあるしこりが彼のたくましい身体で擦れて、びくん、と内腿が震えた。恥ずかしくて、内腿を擦り合わせて誤魔化したいのに、彼の大きな身体が割り込んでいて、それぞれの腿が彼の脇腹に触れるだけだった。彼がすぐそこにいるということを実感してしまい、頬を合わせてゆるんだ身体が硬くなってしまう。

「好きだ…好きだ、聖…」

 その僕に気づいたのか、彼は何度も愛らしいリップ音を鳴らしながら僕の頬や耳朶、眦に雨を降らした。

「んう…さ、くう…」

 彼からの惜しみない愛情表現に、腹の奥がきゅんきゅんと主張され、腰が熱くなっていく。直接的な刺激がないせいで、余計にありありと自分のいやらしさに気づいてしまう。彼に気づかれないように身体を離したいのに、腕は、ぎゅう、と彼にしがみついて離れない。

「あっ!」

 身じろぎしようとした瞬間、彼の腹筋をなぞるように僕の身体の一部がこすれてしまった。火花が散るような強烈な衝撃が神経内を駆け巡る。大きな声が出てしまって、僕自身も驚いた。急いで口元を手で覆うが間に合わず、羞恥で視界が滲んだ。彼が身体を起そうとするが、今、顔を見られたくなくて、必死に身体にしがみつく。観念した彼は、耳元でくすり、と甘く笑う。その吐息さえも簡単に快感にしてしまい、余計に下腹部に熱が集まる。

「聖…」

 彼の手のひらが僕の膝に触れた。それは生地の上をするすると滑り、太腿を撫でる。

「んうっ、ん、ん…」

 ただそれだけなのに、身体は全然言うことを聞かなくて、大げさにぴくん、ぴくん、と跳ねてしまう。その度に、彼の身体に、勃ち上がった先端がこすれてしまい、唇を噛み締めて恥ずかしい声が出ないように堪える。

「聖…、脱がしていいか…?」

 彼にきつく抱き着いていたせいで、より近くで彼の甘い声が身体の中へと送り込まれる。

「んあ…、っ」

 それだけでまた声が漏れてしまって、急いで奥歯を噛み締めるが、恥ずかしくて涙が零れた。

「聖、かわいい顔見せて…」
「や、だ…っ、んんっ」
「聖」

 返事も出来ない。彼を離すこともできない。ただ、震えながら彼にきつく抱き着くことしかできなかった。彼は何度も僕の名前を呼んで、肌にキスをして、僕の腕がほどけるのを辛抱強く待っていてくれた。どちらかというと、ずっと、足の付け根や腿を撫でられて、たまらなくなって泣きながら、もう力の入らなくなった腕を降ろすしかなかったのだけれど。
 その頃には、もう僕はぐずぐずに泣いていて、彼はようやく僕の顔を見ると、とろけた笑みを見せて、涙を拭ってくれた。

「気持ちいいか?」
「ん…や、…」

 両手で僕の顔を包む手のひらにすら、ぴり、と電気が走る。腰は鈍く重い。足にも力が入らなくなってきた。どうしていいのかわからなくて、ぐす、と鼻をすすると、彼はくすり、と笑って涙を吸い取った。

「かわいい…聖、好きだ…」

 どうか、泣かないでくれ。と額を合わせて、彼は小さい子に囁きかけるように優しく唱えた。
 あまりに糖度の高い彼の声に、そろり、と雫を吸って重い睫毛を持ち上げると、視界いっぱいに彼がいて、その整った美しい顔を僕にだけ見せていた。

「今日は、やめとこうか?」

 汗で張り付いた前髪を横に流しながら、彼が柔らかく問いかけた。その意味を理解して、僕はすぐに首を横に振った。彼は眉を下げて小さく笑ってから、額にキスを落した。

「無理しなくていい…聖が、ここにいてくれるだけで、俺は…」

 ぎゅう、とそのまま抱きしめられると、彼の胸元から濃密な匂いが鼻腔から全身へと広がっていく。それだけで、くらりと眩暈が起きそうだった。けれど、彼の言葉に首を振る。

「や、ぃや…」
「…聖?」

 彼の大きな身体を押すと簡単にはがれてくれた。何度か深呼吸をする。じ、と僕のことを待ってくれている彼に胸がいっぱいになる。意を決して、涙で潤んだままの瞳で見上げる。

「電気、消して…」

 ぼんやりと部屋の中を温かく照らすベッドライトすら恥ずかしくて、彼にそう強請る。久しぶりの彼との、夜のひと時。ましてや、恋人として彼と迎えるちゃんとした情事は初めてなのだ。経験の多い彼を満足させられるかということも、自分自身が上手に振る舞える自信もなかった。少しでもその羞恥がなくなるように伝えたのに、彼は、僕を見たまま硬直していた。

「さ、く…?」

 どうしたのだろうか、と気に病み、シーツを不安気に握りしめると、彼が意識を取り戻したかのように、のそりと手を伸ばして、ライトの紐を引っ張った。その際に、かがんだ彼の喉元がすぐ目の前にきて、ごくり、と大きく張り出した喉仏が音を立てて上下された。ぱ、と辺りが暗くなるが、すぐそこに彼がいるのがわかる。
 彼の身体の下に膝を折りたたんで差し込む。そして、きし、と小さくベッドが鳴る。僕は下着ごとズボンを、するり、と足から抜いた。外気に触れて寒さを感じる。カーテンの隙間から差し込んだ月明かりが、僕の白い脚を照らして、その目の前に彼がいて、彼の瞳がちら、と反射した。

「さく…」

 顔が熱くて、足を開くことはできなかった。擦り合わせたまま横倒しにして、彼に向けて手を伸ばした。すぐに彼の首は見つかって、抱き着くと首元で彼が大きく溜め息をついた。何事かと一瞬焦燥するが、吐息があまりにも熱くて、皮膚がじりり、と焦げ付いてしまいそうだった。

「聖、煽りすぎだ…っ」
「さ、んぁ、っ」

 どういう意味か問いたかったのに、次の瞬間には、強く首筋を吸われて、一点に熱が集中した。ちゅ、と唇が離れると血液が一斉にそこに集まって、僕に彼の所有印をありありと感じさせているみたいだった。しかし、すぐに彼は反対の首筋に同じように吸い付いて、軽く犬歯をたて、べろり、と熱くぬめった舌で弄ぶ。その快感に震えていると、そろり、と彼の手が腿を撫でた。しっとりと汗ばんだ彼の手のひらは、吸い付くように僕の肌にぴったりと馴染んだ。

「ぁ、…んっ、んん…」
「聖…」

 普段誰にも触られない、皮膚の薄い腿の裏側を撫でられて、きゅう、と足を力いっぱい閉じてしまう。それをほどくように、彼の手のひらは内腿を撫でたり、臀部を柔く揉んで僕の身体をほぐしていく。脇腹を手のひらが這うと、びくびく、と大げさに身体が震えてしまい、彼の頭に必死にしがみついた。喉仏の下の薄い部分を強く吸われると、息がつまって苦しいのに、僕は酩酊とする。
 そうして身体が緩んだ瞬間に、彼の骨ばった手は足の間にするり、と入り込む。下着を脱いだ時に、すでにそこが勃ち上がり、濡れているのはわかっていた。彼が指先で僕の足の付け根を撫でると、くちゅり、と音がした。咄嗟に、手を身体の間に差し込んで、彼の手首を両手で握りしめた。それから視線をあげて、涙がぽろぽろと零れる瞳で、彼を見上げて、首を横に振った。

「や、だめ…っ」
「…どうして?」

 僕の先走りは身体をしとどに濡らし、周囲がべちゃべちゃになっている。彼はそれを知らしめるように、長い指を付け根に這わせて音を立てる。彼がそんなところを触れているという非現実感があるのに、粘着質な音を聞くと今が現実なのだとまざまざと見せつけられる。

「で、でちゃ…すぐ、でちゃう、からぁ…」

 唇を噛み締めて、快感を押し込もうと必死に彼にか細く伝えるのに、僕を見下ろして、ぽたり、と汗を垂らす彼は壮絶な色香を放っていて、それにすらくらくらと脳がバカになっていく。
 本当にすぐにでもこすってほしいのに、でも未知なる快感が待っている気がしてその恐怖で、涙がいっぱいだった。

「出していい」

 彼は眉根を寄せて、頬を染めたまま微笑む。情欲に色濃くする瞳が月明かりしかない部屋でも見えてしまう。彼が会陰を塗れた指でなぞるから、全身がびくん、と跳ねてしまう。もう片方の手で僕の唇を親指で撫でた。噛み締めていた前歯を軽くタッチされ、唇を解放すると、割り開くように優しく親指が侵入してくる。ちゅう、とそれに吸い付くと彼は、さらに目を細めた。

「だめ…、僕が、出したら…終わるでしょ…?」

 恥ずかしい。でも、彼が全身で、僕へのめいっぱいの愛情を示してくれて、気持ちいいこの時間を、まだまだ堪能したかった。だから、首を振るのに、彼は困ったように笑うのだった。

「たくさん出せばいい」
「ほ、んと…?」

 ああ、と彼は返事をして、柔く僕の唇に吸い付いた。じわ、と頭の奥が溶けゆく音がして、彼のことしか考えられなくなる。

「いっぱい、して、くれる…?」

 すぐそこにある唇に、何度も吸い付きながら、甘く尋ねると、彼は溶けた瞳で、ああ、と返事をした。彼がそう言ってくれて、僕は身体に残っていた最後の理性を欲で焼き切らせた。
 彼の手のひらに自ら、腰を緩慢にゆすり、こすりつけた。大きな手のひらに、僕の双丘がころり、とぶつかると、びりり、と内腿が痺れた。首に手を回して、夢中に唇に吸い付きながら、きし、きし、と淡くベッドを鳴らした。濡れた瞳で僕を見下ろした彼は、大きく口を開けて、僕の口を覆ってしまう。それから、ようやく、双丘を撫でて、裏筋に手のひらをあてて、ゆっくりと僕の竿を優しく握りしめてくれた。すっぽりと覆われてしまう僕のそれは、愛しい彼に包まれて、歓喜で震え、ひとつ、無意識に腰をゆすってしまったら、全身が強い電流に支配され、先端が灼熱の棒を突きつけられたように熱くなり、勢いよく白濁を散らしてしまう。

「んう、んっ、んんんっ!」

 叫び出しそうなほどの強烈な快感なのに、唇を覆われて、すべて彼に飲み込まれてしまう。荒い鼻息はどちらのものともわからなかった。ただただ、彼が愛しくて、ずっと傍にいてほしくて、彼の広い背中のシャツを力いっぱい握りしめて皺をつくった。


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