初恋と花蜜マゼンダ

麻田

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第43話

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「ひーちゃん、大丈夫だよ…僕と、しあわせになろうね…」

 は、は、と短い呼吸で、ぼんやりとする頭を、柊が涙を拭うように手のひらで撫でる。すると、身体の震えが収まって、呼吸も安定してくる。柔らかく微笑む柊は、愛おしそうに僕に何度もキスをしてくれた。

「しゅ、う…」

 瞼を降ろして、目の前の唇に吸い付く。僕には、目の前のアルファに縋るしか道がないのだと本能的に知らしめられた気がした。僕の様子に、目を細めた柊は、自身のペニスを僕の後孔に挿入した。いきなりのことに目を見開き、肩を押そうとするが、きつく身体を抱きしめられて、首に回すようにされていた僕の腕は動かすことが出来ずに、唇も離されることなく、ただ呻くしかなかった。

「ん、ぅ、んんっ、んーーーっ!」

 めりめりと割り開くように硬く太い肉棒が挿入される。ぎち、と入るところまで挿入されると腰が止まり、唇が解放された。その瞬間に、一気に酸素を身体に取り込む。同時に、柊の強いフェロモン香が体内を巡り、血が沸騰する。
 どっくん、と強く心臓が鳴ると、血液が熱湯のように全身をびりびりと痺れさせる。すると、腹の奥がかゆくてかゆくてたまらなくなり出す。

 熱い…かゆい…

(やめて…)

 奥欲しい…

(だめ…やだ…)

 欲しい…アルファの精子…

(嫌だ…違う…!)

 欲しい…アルファが、欲しい…

 心の中で自分自身がせめぎ合っていると、柊がふふ、と軽やかに笑い視線をあげる。汗を滴らせて微笑む甘い端正な顔は、間違いなくアルファで…

(違う…僕のアルファは…、目の前のアルファ…、違う違う…)

「ひーちゃんかわいい…腰、揺れてるよ?」
「んあ、…?」

 柊が、そろりと僕の腰を撫でて微笑む。柊の視線に促されるように、自分の身体を辿って視線を降ろすと、シーツに踏ん張って、腰を前後に揺らめかす自分の下半身が目に入る。

「な、んでぇ…あっ、んう」

 揺らいでいた腰が、すり、とナカのしこりを撫でて、びりびりと身体が痺れて跳ねる。それを柊は目を細めて見つめていた。

「やぁ、あっ…あ、ぁ…」

 顔を背けて手で隠すと、その手にキスを落されて、指を絡められてシーツに貼り付けられてしまう。こめかみにキスが降り、耳朶をへこみに沿って舌が這い、柔らかい耳たぶを甘く歯が立つ。

「あぅ…」

 ぎゅう、と下腹部が締まると、柊のペニスの形をありありと感じてしまい、それだけで渇望した身体は、ぴくん、ぴくん、と甘く達する。

「あ、あ…しゅ、ぅ…しゅう…」
「なあに、ひーちゃん」

 瞼をあげると、目元に桃色の柔らかい唇が吸い付き、涙を舐めた。神経が、焼き切れるように熱く、脳がずっと痺れていて、何も考えられない。

「…ぃて…」
「ん?」

 柊がつぶやく唇に吸い付いて、下唇を食んで離さない。

「…ぅ、いて…」

 離さない唇を、僕は舌で、ちろり、と控え目に舐めた。ちゅぽ、と唇が離されると、じぃん、と淡い熱が、ナカを締める。重い腰を、浮かして揺らめかす。

「ナカ、ついてぇ…」

 柊のたくましい胸は、ふっくらと柔らかくて、空いている手でそれを揉む。むにゅ、とスポンジケーキのように柔らかくて気持ちが良い。それを合図に、柊は身体を起して、僕の膝裏に手を差し込んだ。がば、と膝が肩についてしまいそうなほど持ち上げられて、あ、と思うと、どちゅん、と奥に柊の熱い肉棒が突き立てられた。苦しくて、息が止まって、目の前にちかちかと星が飛び交った。それでも、柊は腰を止めてくれない。

「あっ、あっああっ、しゅ、ううっ!」
「あ、ひ、ちゃ…あっんぅ」

 体重をかけてナカを穿たれる。ず、と抜けていくとナカはもの寂しく絞り、その硬くなったナカにもう一度突き立てられる。その苦しさが、快感に替わり、気づけば僕は自分の精液が顔にかかった。それにすら気づかずに、喘ぎ続ける。

「あっあ、きもち、きもちいっ、あっあっ」

 跳ねる腰を柊が両手でつかんで、強く打ちつける。ぐにゅ、と奥を柊の頭が押しつぶすように当たると、ぞくぞくぞく、と全身がアルファの登場に悦び粟立つ。

「も、と、もっとぉ、いいっ、きもちいっ、ひゃあっ、あんっ」
「あっ、だめだっ」

 柊が唸ると、勢いよくナカから熱が抜ける。その瞬間すらも身体は、淡くざわめき悦に浸る。強い力で転がされてうつ伏せにされると、大きい手が腰を掴んで持ち上げて、膝立ちにさせる。そして、ゆっくりとまたペニスが挿入される。

「あ…あ、あ…」

 仰け反ってその侵入を全身で悦んでいると、大きな頭を飲みこんだあとは、奥まで一気に突かれた。その衝撃に、また僕は、ぴゅっと射精する。ぎゅうう、と強くナカがうねると、柊が奥歯を噛み締めて、僕の背中にのしかかり、宣告もなく項に歯を立てた。

「ああああっ!」

 ぶつりと肌を食いちぎり、いきなり与えられた強い痛みに、熱い身体の爪先は氷のように冷たく感覚をなくして、項だけがどくどくと灼熱のように熱く痛い。しかし、浅ましいナカは、柊の射精に感激して収縮を強く繰り返していた。脳天を強い電流が打ちつけて、僕は力なく柊の腕の力で支えられるだけだった。柊が力を抜けば、僕は簡単にベッドに倒れ込んだ。びく、びく、と身体はずっと痙攣していて、ペニスからはたらたらと白濁とした液体が漏れていた。視界はぼやけていて、よく見えない。

「ひーちゃん…、これで、ひーちゃんは、一生、僕のものだ…」

 ぎ、とベッドが鳴ると身体が重いものに押し付けられる。熱いそれが柊の身体で、僕を抱きしめて、首筋に何度も吸い付いてくる。それだけでも、身体はふるふると快感として感じてしまう。

「あ、ぅ…ゃ、あ…」
「ずっと、ここに思い切り噛みつきたかった…」

 キスマークや歯型だけじゃずっと物足りなかったんだ…。
 そう続けて囁く柊の言葉の意味を理解できなかった。そんなことあったっけ…。そういえば、彼に連れていかれた日に、たくさんキスマークがあるのを怒られたっけ…あれって…。

「ひーちゃん…」
「んう…」

 顎を掬われて、唇を覆われる。熱い舌が、慰めるように優しく僕の舌を撫でてくる。柊の舌を唇で食んで応えると、柊は素直に嬉しそうに眦を赤くしてゆるめた。

「好き…大好き…」
「んぁ…あ…」

 また柊が腰をゆったりと動かし始める。ぐぅ、と質量と硬度が増して、敏感な場所をたくさん撫でてくれる。

「しゅう…んん…」

 嬉しくて、その舌にちゅ、ちゅ、と吸い付くと、腰が奥をついて、ぐりぐりと腰を回される。そうされると、何もできなくて、ただ震えることしか出来なくなる。するり、と顎から指が離れていくと、膝を掴んで向き合うように身体を反転される。

「しゅ、ぁんう…っ」

 持ち上げるように胸を手のひらで包まれる。人差し指が器用に、弱い先端をこねる。後ろが、ぐしゅ、とさらに濡れるような感覚に肌が粟立つ。

「僕の育てたおっぱい、かわいいね…」
「え…、ゃ、あっ」

 言葉の意味がわからずに首をかしげようとするが、すりすりと周囲のふっくらと柔らかい桃色の部分を撫でられると、もっと直接的な刺激が欲しくて、手首を握ってしまう。この手の感触を知っている、と身体が叫んだ気がしたが、そんな訳ない。
 それに、もう、どうだっていい。
 柊は、唇でその小さな飾りを食んだり舐めたりして飴のように遊んだ。その度に、腰が跳ねてしまい、ナカが物欲しそうに、柊のペニスを抱きしめる。
 なんだっていい。

「やあ、しゅ、う…うご、ぃてぇ…」

 柊の広い背中に手を回して、するすると手を降ろして、腰を回り、下腹部を撫でると、ひくり、と柊の腰が震える。血管が控え目に浮き出ていて、ざり、と立派な下生えをかき混ぜるように指を絡める。いくつか、僕の愛液か柊の精液かで毛束を作っていた。僕の後孔にはすべて入り切れていないことを指先で知る。そのはみ出た竿を、指で輪をつくって、くちゅ、くちゅと緩く扱く。柊は眉を寄せて、息を飲む。それから、ぎらついた瞳で口角をあげて僕を見つめる。

「ひーちゃんわかってる? これは交尾じゃなくて、セックスなんだよ?」

(なんでもいい…どうだっていいから…気持ちよくして…)

「うん、うん…だから、ぁ…つ、ぃてぇ…」

 もう柊の言葉の意味はわかっていなかった。それでも、うなずく。とにかく、気持ち良くしてくれるならなんだっていい。
 僕は、目の前のアルファに、早く快感の中に落としてほしくて、それしか考えられない。

「じゃあ、僕のこと、好き?」

 その言葉にだけは、うつろな頭でも即答できなくて、首をかしげた。
 どういう意味だっけ。好きって。なんだっけ。あれ、僕が好きなのって…

「ぁんんっ」

 柊が僕の胸を持ち上げると、柔く山が出来て、そこに強く吸い付かれた。ちゅぽ、と唇が離れると、白い肌に赤黒い鬱血痕が残って、その背徳感に、びりびりと全身が痺れる。

「ほら、言って?」
「んううっ…あぅ、ま、ってぇ…」

 ずりゅ、と柊が腰を引いて、逞しいそれが僕のナカから逃げていく。急いで力の入らない両手で腰をつかむ。

「ひーちゃん? 好き?」
「んう、ん、す、き…」

 張り付いた前髪を長い指先が、優しく払ってくれて瞼をあげると、はら、と涙が零れて視界が開かれる。柊が、頬をゆるめて、長い睫毛に涙が伝った。つ、と僕の頬にそれが落ちてきて、枕にこぼれていった。

「僕も…ひーちゃんのこと、大好き」
「ぁ、ああんぅっ」

 どちゅん、と奥まで突かれて、腰が痺れて跳ねてしまう。びくん、びくん、と大きくナカで締め付けながら腰が浮いて、いいところにたくさん当たってしまう。しかし、またそれが抜けて行ってしまう。

「や、やぁ…」

 柊に涙しながら抜かないでと訴えると、にこりと笑って動きを止める。言葉を待っているのだと靄がかった頭で考える。

「す、き…」
「そうだね」

 頭を撫でられて、またナカをめいっぱい熱い肉棒で埋めてもらえる。それを繰り返している内に、僕はどんどん快楽の虜になっていく。心はぼろぼろと壊れていくのに気づかずに。




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