神媒師 《第一章・完結》

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第二章 信者獲得

064 曇り空

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 瑞貴は神媒師として最初の務めを無事に果たしており、両親も出張から戻ってきていた。クリスマスツリーは残したままになっているが年越しに向けた大掃除も進んでいる。

 出張から戻ったばかりの父から。

「……全部、鬼から聞いてる」

 瑞貴は言われていた。
 今回の件については瑞貴が説明するまでもなく鬼が報告をしてくれていたらしい。神出鬼没の言葉通りではあるが鬼には似つかわしくない優しさある。
 瑞貴が『閻魔刀』で生きた人間を斬りつけたことも含めて事の顛末は鬼から報告されていた。

「お前に閻魔刀の使い方を教えるように頼んだのは私だが、心配はしていた。……ただ、あまり余計な口出しはしたくなくて連絡は控えることにしたんだ」
「それで鬼が連絡係になってくれた?」
「……おかしなところで、責任を感じるヤツだからな」

 その点については瑞貴も同感である。瑞貴は閻魔刀の使い方を鬼から聞かされただけであり、その選択まで強要されたわけではない。
 実際には閻魔刀を使用したのは織田信長と豊臣秀吉の二人になってしまったが、全てを覚悟の上で使うことを決めたのは瑞貴である。戦国武将コンビがいなかったとしても瑞貴が間違いなく斬りつけていたのだから同じことで『罰』も受けている。

「よく頑張ったな、お疲れさま」

 瑞貴が選択したことに対して、父が意見を言うことはなかった。
 正しかったのか正しくなかったのか、そんなことは誰にも分からないことだと言われている通り父にも正解は分からない。
 現在、神媒師となっているのが瑞貴である以上、瑞貴の判断で行動することが求められていた。前任者であったとしても状況が違う中で助言することは避けたかったのだろう。

 しかし、父親として息子を心配するのは別物だ。鬼は父親として心配していることを理解して行動してくれていたのだろう。

「父さんは足のこと、後悔してないの?」
「あぁ、これか……」

 右足を擦るような動作を見せて、瑞貴の質問に微笑みながら答えてくれた。

「後悔はしてないな。……ただ、母さんがいてくれたから後悔しないでいられるだけかもしれない」
「……結果論ってこと?」
「だな。……それでも、あの時、閻魔刀を使ったことは今でも間違っていなかったと思っている」

 それが原因で足が動かなくなったことも結果論でしかない。その時に正しいと思ったことを素直な気持ちで押し通すしかないのかもしれない。

 瑞貴も閻魔刀を使う覚悟を持てないままで最後を迎えてしまえば、心穏やかに瑠々を送ってあげることはできていなかった。

「……そうだね。……俺も何があったとしても後悔はしてなかったと思う」
「親としては困った判断だと思うが、お前の人生だ」

 父子としての会話だったが、母が息子の危険な行動を知っているのかまでは分からない。だが、飾ったままのクリスマスツリーをそのままにしてくれて秋月のことにも一切触れてこない。

 秋月に渡してあった家の鍵を母に返した時も『あっ、忘れてた』と笑いながら受け取っただけである。出張に出かける前、秋月を連れ込んだ強引さから比べれば不自然な反応だった。
 それでも、大黒様が母の作った食事を一生懸命に食べている姿を見て、

美味しくないご飯で我慢したもんね?」

 と声をかけたりしているので、おおよその事情は理解していると考えて良さそうだった。それでも何も聞いてこない様子を見ていると『母さんがいてくれたから』後悔しなかったと言っていた父の言葉を思い出してしまう。


 そして、この年最後となる朝の視察を終えて帰ってくると清水幸多からの着信音が鳴った。 

「……もしもし?」
『おぅ、おはよう。……朝早くからゴメンな。』
「あぁ、おはよう。ちょうど散歩から帰ってきたところだし大丈夫だよ」
『散歩?……お前、こんな朝から散歩なんかしてるのか?』
「犬と一緒に、だけど……。日課になってるからな。ところで、大晦日にどうしたんだ?」
『おっ、おう……、お前って、クリスマスに秋月さんと一緒だったんじゃないのか?』
「えっ!?……な、何言ってるんだ?……そんなわけないだろ」
『そうなのか?……おっかしいな、全員一致の見解だったんだけど』
「全員一致って、誰なんだよ?……俺の言葉だけで信用できないなら秋月さんにも聞いてみたら?」

 嘘をついている瑞貴からは怪しさを感じ取られてしまうが、秋月は嘘をつくことなく否定してくれるのだから信頼度は高くなる。秋月の中には瑞貴と過ごしたクリスマスの記憶など存在していないのだから真実になる。

『その秋月さんが、クリスマスで誰から貰ったか分からないプレゼントがあるって言ってるみたいなんだよ』
「……ふーん、何だか気味の悪い話だな……。」

 これで閻魔大王の雑な仕事が瑞貴にも知られることになったのだが、一生懸命に選んで渡した物が気味悪がられているとすれば多少なりショックではあった。
 精神的なダメージを瑞貴に与えることも含めて閻魔大王の罰だとすれば陰湿なものと感じてしまう。

『本当に知らないのか?』
「あぁ、悪いけど本当に知らない」

 清水は納得いかない返事をしていたが、それ以上の追及はなかった。秋月と仲が良くなってからも学校で会話することは少なかったので周囲に秋月との関係を怪しまれていたこと自体が驚きだった。
 本人たちが気が付いていないだけで普段とは違う雰囲気になっていたことが分かっていない。

「……そんなことを聞くためだけに、大晦日に電話してきたわけじゃないよな?」
『もちろん!……明日、みんなで初詣に行かないか?』
「はぁ?みんなで初詣?」
『そうなんだ、クリスマスに集まった時の流れで決まったんだ。……その時の参加者全員ってわけじゃないけど、どうかな?』

 これが学生生活を満喫している姿なのかもしれない。瑞貴にはないマメさを清水は持っていた。

「ごめん、明日はダメなんだ」
『えっ!?何か予定でもあるのか?……秋月さんも参加するって聞いてるぞ?』

 おそらく清水は、秋月と瑞貴は一緒に初詣へ行くと考えていたのだろう。それが、秋月がみんなとの初詣に参加することを知り、予定の空いている瑞貴に連絡してきたのだ。

 秋月がもらったプレゼントの話の流れで初詣に秋月が参加することは瑞貴にも予想はついた。学校が始まれば秋月と会うことを避けられないが、それ以外での接触は避けておきたかった。
 ストーカーもどきも排除してあるので瑞貴が関わる必要は既にない。

「秋月さんは関係ないって……。せっかく誘ってもらったんだけど、ちょっと用事があるからダメなんだ。悪いな」
『まぁ、それなら仕方ないけど。また誘うから、次は良い返事を聞かせてくれよ』
「あぁ、ありがとう。」

 断ってばかりの瑞貴に『また誘う』と言ってくれていることに感謝はしている。誘われなくなる前に、誘いに応じる機会を得られることを願うしかなかった。

 電話を切った後、瑞貴は大黒様に話しかけた。

「初詣は熱田神宮に行こうと思っていたんですけど、子どもたちとお別れした神社で済ませますね」

 どちらに行こうか迷っていたこともあるが、清水たちと鉢合わせするのは気まずい。小さな神社ではあるが気持ちの問題だった。

「今は偶然にでも秋月さんと会うことは避けておきたいので、よろしくお願いしますね」

 大黒様にお願いをしておけばニアミスは避けられる。シヴァ神としての力ではないかもしれないが、犬の嗅覚で秋月の接近を察知することができる大黒様は信頼できる。
 両親が戻ってきて、食事にも不満はなくなっているので瑞貴のお願いは大黒様に聞き届けてもらえると考えていた。

「……それにしても、天気が悪いな。……明日も雪になるかもしれないみたいだし」

 全国的に初日の出は絶望的な状況になっていると予報では言っていた。どんよりとした天気で気分も沈みそうになるが、穏やかな気持ちで新しい年を迎えたかった。

「さすがに正月早々から神様も頼み事とかしてこないとは思うけど、少しは静かに過ごしたい気分だな」

 独り言を漏らす瑞貴を大黒様は見つめていた。
 この時点で次の神様が現世での活動を始めていることを大黒様は感じ取っていた。それは天候にも影響を及ぼしている。
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