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第一章 初めての務め
024 英傑
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瑞貴の緊張感は最高潮に達している。
武器を手に入れた後は戦闘が不可欠な要素になると考えてしまっていた。その要素を易々と部屋に置き忘れてくる迂闊さを恨んだ。
しかしながら気持ち的には盛り上がっていた瑞貴が目にした光景は相変わらずの緩いモノだった。
年配の男性二人と複数の子どもたちが熱田神宮の本宮を眺めている。子どもたちは男女混合で十名程。
まだ離れた位置関係ではあるが瑞貴から確りと一団を見ることが出来ているし、他には誰もいない。
――あぁ、絶対に『あれ』だ
瑞貴は確信を持っていた。
こんなに朝早く、お爺ちゃんと子どもたちが集団で参拝していることに不自然さを感じたのではない。
お爺ちゃんが大勢の孫を連れて参拝している可能性だって、十分に考えられるのだ。
年配の男性二人ともが着物姿で『ちょんまげ』なのである。
複数人いる子どもたちの服装はバラバラだった。着物の子もいれば洋服みたいな子もいる。
確実なのは武器が必要になる状況とは思えないこと。
背の低いお爺ちゃんが振り返って瑞貴の存在に気付いた。すると、もう一人のお爺ちゃんの肩をトントンと叩き瑞貴を指さして教えてあげている。
後から振り返った方は少し険しい表情だが最初に振り返った方はニコニコしていた。
――少し汗まで掻いて焦ってたのに……。俺の緊張感を返してくれよ
瑞貴は、その集団に近付くように歩き始めた。
閻魔刀の有無に関わらず戦う術を持っていない瑞貴にとっては歓迎すべき状況になっている。
「おお、其方が『神媒師』か?」
背の低いお爺ちゃんからの言葉で、しっかりと通じた。瑞貴が迷いなく歩み寄ってきたことで相手も確信している。
服装や髪型に時代の違いを感じさせられたが生きている人間との差は無いに等しい。
地獄絵図にあるような亡者ではないので本当に成仏できていないだけの存在なのだろう。
「はい、滝川瑞貴と言います。よろしくお願いします」
集団の前に立って、しっかりと姿勢を正して瑞貴は名乗る。
近付いてみると背の高い方は、お爺ちゃんと呼ぶには少し若い感じがした。それでも、周囲にいる子どもは全員が十歳未満に見えるので年の差は歴然である。
「此れは此れは、儂らのような死人に対しても礼儀正しく名乗ってくれるとは感心」
小さなお爺ちゃんはニコニコしながら瑞貴を見ていた。
「儂は、豊臣秀吉。……それで、此方は織田信長様。」
「……えっ?……えっ!?」
眼前の男性二人を見比べながら瑞貴は驚きが隠せない。
数分前まで戦闘になるかもしれずに緊張していた時よりも胸が高鳴っている。
「お?ここにくる途中に飾ってあった看板には、その名で説明が書かれておったから、それで分かるのであろう?」
本宮に向かって参道を歩いていると熱田神宮の歴史を紹介した看板が並んでいる。そこには二人の紹介は大きく飾られていた。
「あ、えっと、分かるんですが……。えっと、本物なんですか?」
「本物かと聞かれれば、本物ではないのかもしれんな。既に死んで、この世には居らん存在なのだから」
「あぁ、そうか、そうですよね。……有名な方だったので驚きました」
「異な事を申すな、其方は『閻魔大王』の使者であろう?『閻魔大王』の方が儂らよりも遥かに有名ぞ」
この場合は、どちらの方が有名とかの問題ではない。
リアリティのある有名人は『豊臣秀吉』や『織田信長』であり『閻魔大王』はオカルト系な有名人になる。
そのオカルト系有名人『閻魔大王』の指示で行動している瑞貴の存在も他者からは興味の対象になり得るだろう。
織田信長は50歳手前、豊臣秀吉は60歳過ぎ。瑞貴が知っている二人の没年齢は、それくらいだったはずだった。
信長の方は瑞貴の身長と近いが、秀吉の方はかなり低く感じられる。歴史で学んだ情報としては合っているように思えていた。
「お二人は死後400年以上経っていると思うのですが、ずっと成仏されてなかったのですか?」
変な質問だと分かっている。成仏していないから、この場所にいるのだ。
「まぁ、天下統一を成し遂げて死後に各地を巡っておったら、どんどんと悲惨なことになっていって……。それを見ている内にな」
豊臣秀吉は天下統一を成し遂げた戦国武将だが、泰平の世を築くには至らなかった。天下統一したことで満足していれば既に成仏していただろう。
だが、織田信長からは、
「其方も儂が成仏できぬ理由は分かっておるのだろう?」
一言に込められた重みが違った。『本能寺の変』夢半ばで潰えた未練が原因で成仏出来なかったことになる。
歴史ドラマでは、燃え盛る本能寺の中で『是非もなし』と言い敦盛を舞う演出があったりもしたが、成仏できないほどに悔しかったのかもしれない。
「それで色々と見て回っている内に、サルと偶然出会ってな」
400年に亘る出来事を超圧縮して話してくれているのだが、瑞貴は信長の言葉にあった『偶然』が気になっていた。
武器を手に入れた後は戦闘が不可欠な要素になると考えてしまっていた。その要素を易々と部屋に置き忘れてくる迂闊さを恨んだ。
しかしながら気持ち的には盛り上がっていた瑞貴が目にした光景は相変わらずの緩いモノだった。
年配の男性二人と複数の子どもたちが熱田神宮の本宮を眺めている。子どもたちは男女混合で十名程。
まだ離れた位置関係ではあるが瑞貴から確りと一団を見ることが出来ているし、他には誰もいない。
――あぁ、絶対に『あれ』だ
瑞貴は確信を持っていた。
こんなに朝早く、お爺ちゃんと子どもたちが集団で参拝していることに不自然さを感じたのではない。
お爺ちゃんが大勢の孫を連れて参拝している可能性だって、十分に考えられるのだ。
年配の男性二人ともが着物姿で『ちょんまげ』なのである。
複数人いる子どもたちの服装はバラバラだった。着物の子もいれば洋服みたいな子もいる。
確実なのは武器が必要になる状況とは思えないこと。
背の低いお爺ちゃんが振り返って瑞貴の存在に気付いた。すると、もう一人のお爺ちゃんの肩をトントンと叩き瑞貴を指さして教えてあげている。
後から振り返った方は少し険しい表情だが最初に振り返った方はニコニコしていた。
――少し汗まで掻いて焦ってたのに……。俺の緊張感を返してくれよ
瑞貴は、その集団に近付くように歩き始めた。
閻魔刀の有無に関わらず戦う術を持っていない瑞貴にとっては歓迎すべき状況になっている。
「おお、其方が『神媒師』か?」
背の低いお爺ちゃんからの言葉で、しっかりと通じた。瑞貴が迷いなく歩み寄ってきたことで相手も確信している。
服装や髪型に時代の違いを感じさせられたが生きている人間との差は無いに等しい。
地獄絵図にあるような亡者ではないので本当に成仏できていないだけの存在なのだろう。
「はい、滝川瑞貴と言います。よろしくお願いします」
集団の前に立って、しっかりと姿勢を正して瑞貴は名乗る。
近付いてみると背の高い方は、お爺ちゃんと呼ぶには少し若い感じがした。それでも、周囲にいる子どもは全員が十歳未満に見えるので年の差は歴然である。
「此れは此れは、儂らのような死人に対しても礼儀正しく名乗ってくれるとは感心」
小さなお爺ちゃんはニコニコしながら瑞貴を見ていた。
「儂は、豊臣秀吉。……それで、此方は織田信長様。」
「……えっ?……えっ!?」
眼前の男性二人を見比べながら瑞貴は驚きが隠せない。
数分前まで戦闘になるかもしれずに緊張していた時よりも胸が高鳴っている。
「お?ここにくる途中に飾ってあった看板には、その名で説明が書かれておったから、それで分かるのであろう?」
本宮に向かって参道を歩いていると熱田神宮の歴史を紹介した看板が並んでいる。そこには二人の紹介は大きく飾られていた。
「あ、えっと、分かるんですが……。えっと、本物なんですか?」
「本物かと聞かれれば、本物ではないのかもしれんな。既に死んで、この世には居らん存在なのだから」
「あぁ、そうか、そうですよね。……有名な方だったので驚きました」
「異な事を申すな、其方は『閻魔大王』の使者であろう?『閻魔大王』の方が儂らよりも遥かに有名ぞ」
この場合は、どちらの方が有名とかの問題ではない。
リアリティのある有名人は『豊臣秀吉』や『織田信長』であり『閻魔大王』はオカルト系な有名人になる。
そのオカルト系有名人『閻魔大王』の指示で行動している瑞貴の存在も他者からは興味の対象になり得るだろう。
織田信長は50歳手前、豊臣秀吉は60歳過ぎ。瑞貴が知っている二人の没年齢は、それくらいだったはずだった。
信長の方は瑞貴の身長と近いが、秀吉の方はかなり低く感じられる。歴史で学んだ情報としては合っているように思えていた。
「お二人は死後400年以上経っていると思うのですが、ずっと成仏されてなかったのですか?」
変な質問だと分かっている。成仏していないから、この場所にいるのだ。
「まぁ、天下統一を成し遂げて死後に各地を巡っておったら、どんどんと悲惨なことになっていって……。それを見ている内にな」
豊臣秀吉は天下統一を成し遂げた戦国武将だが、泰平の世を築くには至らなかった。天下統一したことで満足していれば既に成仏していただろう。
だが、織田信長からは、
「其方も儂が成仏できぬ理由は分かっておるのだろう?」
一言に込められた重みが違った。『本能寺の変』夢半ばで潰えた未練が原因で成仏出来なかったことになる。
歴史ドラマでは、燃え盛る本能寺の中で『是非もなし』と言い敦盛を舞う演出があったりもしたが、成仏できないほどに悔しかったのかもしれない。
「それで色々と見て回っている内に、サルと偶然出会ってな」
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