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2章.変化(へんげ)の儀式

4.洗礼①

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その翌朝、僕が教室につくと既に羽川さんは教室にいて、数人のクラスメートと談笑していた。
僕のことはチラッと見たものの、特に声をかけたりはしてこなかった。
席に着くと否が応でも教壇が目に入ってきて、昨日の記憶が甦ってくる。
僕はあの場所でクラスメートの女の子の前で自慰をした上に、射精するところまで見られてしまった。
そのことを思い出すと、背中のあたりをザラリとした舌で舐められたような感触が走る。
僕はそれを振り払うように一限目の用意を始めた。

昼休みの終わり頃、スマホに短いメッセージが入った。
羽川さんからだった。
「今日の放課後、昨日と同じ公園まで来て」
羽川さんを見ると、何事もないようにクラスの女の子達と話している。
一瞬だけ僕のほうを見た羽川さんが笑ったように見えた。
僕は到底断ることなどできないことを悟って目をそらすしかなかった。

ホームルームが終わると、喧騒を避けるように羽川さんはすぐに鞄を持って教室を出ていった。
僕も少し間を置いてそれに続く。
校門を出て昨日の住宅地にある公園に向かうと、同じ黒い大きなセダンが止まっていた。
後部座席に近づくと車の窓が下がり、中から羽川さんの「乗りなさい」という声がする。
僕は急いでドアを開けて車内に乗り込んだ。
「水本、出していいわ」
羽川さんがそう告げると、車は静かに動き出した。
「あの、羽川さ……沙耶、ちゃん。これからどこにいくの?」
「ふふ、そんなに緊張しなくていいわ、ユキ。これから向かうのは私の家よ」
「え!? に?」
「お屋敷」とは、この辺りに住む人間なら誰もが知る、羽川家の邸宅のことだ。市内の奥まった一帯にある高級住宅地に百年以上前からあるというその広大な屋敷は、大きな門と塀に囲われて中を窺うことはできないが、噂では文化財級の家屋と庭園があるらしい。
もちろん、関わりのないものには立ち入る事なんてできない場所だ。
そんなところに、いくら羽川さんに招かれたからといって僕なんかが入っていいのだろうか。
動悸が治まらないまま車は走り続け、やがて「お屋敷」の門が前方に見えてきた。
僕の緊張はさらに高まったが、意外にも車は門の前で右に曲がり、そのままお屋敷の塀沿いを走り続けた。

あれ? 門から出入りするわけじゃないのかな。

僕の疑問をよそに、車は結局止まることなくそのまま数分走った後、高級住宅地の一番奥まった山際にある屋敷の前で止まった。
「お屋敷」に比べれば規模は小さいのかもしれないが、それでも立派な門構えと塀の向こうに見える趣のある洋館風の建物は格式を感じさせた。
水本さんは車から降りて羽川さんのドアを開けると、そのまま門扉まで移動して重厚な扉を開く。
「さぁ、ユキ。行くわよ」
羽川さんは車を降りるとそのまま門をくぐった。
僕は慌ててその後に続く。
芝生と庭木がきれいに手入れされた庭を進み、玄関の前まで来ると扉が内側から開けられ、ひとりの女性が出てきた。
「お帰りなさいませ、沙耶様」
大きく開かれた扉の横に控えて、女性が洗練された仕草でお辞儀をする。
「ただいま。永田、今日は可愛いお客さまがいるの。に通して、紅茶を用意しておいて」
「かしこまりました」
永田と呼ばれた女性は羽川さんから鞄を預かると、僕の方に向き直り「どうぞこちらへ」と玄関の中に招き入れた。
羽川さんとも別れて、僕は屋敷の中を永田さんの後について進む。
永田さんは女性としては長身で、ピンと背筋が伸びた体にメイド服を身につけていた。メイド服といってもカフェにいるようなフワフワしたものではなく、イギリスの映画に出てくるような黒いシックなロングのワンピースだ。
年齢は30代半ばくらいだろうか。
結い上げた黒髪と少し影を帯びた目許が印象的な人だった。

「こちらでお待ちください」
案内されたのは、応接室のような部屋だった。
重厚で年季の入ったソファや調度品が並ぶ部屋にひとり残された僕は、所在なく部屋の中を行き来していた。
その時、ドアが開き羽川さんが部屋に入ってきた。
服が制服からノースリーブの白いワンピースに変わっている。
「何してるの?」
「その、落ち着かなくて……」
羽川さんはクスッと笑うと、自らソファに身を沈めた。
「座りなさい、そんなに緊張しなくていいって言ったでしょ。この家には私しかいないんだから。……ん、住み込みの永田もいれれば2人かしら」
「え? 羽川さんひとりで住んでるんだ?」
「な、ま、え、それに話し方」
「あ、ごめんなさい……。沙耶ちゃんは、ひとりでここに住んでるの?」
「そうよ。意外?」
「その、お父さんとお母さんとかは……」
僕の言葉に羽川さんは可笑しそうに笑う。
「興味あるの? いいわ、教えてあげる。でも、後でね」
その時、ドアをノックする音がして、永田さんがワゴンを押して部屋に入ってきた。
「まずはお茶にしましょう」
その後、しばらくはとりとめのない話が続いたような気がするが、よくは覚えていない。
永田さんは羽川さんの側に控えて、時折お茶を替えてくれた。

「--さあ、そろそろ始めようかしら」
ティーカップを受け皿に戻して羽川さんが笑った。
「えと、何を……?」
「ユキには女の子になってほしい、って言ったでしょ。でも、よく考えてみたら急に女の子になれっていわれてもユキも困るよね?」
「え、ええ」
「だからね、ユキが自分から女の子になりたくなるようにしてあげようと思ったの」
「自分、から?」
「そう、自分から」
羽川さんはとても楽しそうに笑っている。
僕の脳裏に昨日の事がよみがえり、鼓動が早まった。

「ユキ、服を脱いで。全部よ。ここで裸になりなさい」

再び、無情な宣告が下された。
「ここで? でも……」
僕はチラッと永田さんの様子をうかがった。
永田さんは、表情を変えることなくその場に起立している。
「永田のことなら気にしなくていいわ。そもそも、ユキはこれから永田にシモのお世話をしてもらうんだから、恥ずかしがってちゃだめよ」
「え? それってどういう--」
「すぐにわかるわ。いいから早く脱ぎなさい。私グズグズされるの嫌いなの」
羽川さんの大きな黒い瞳がジワリと広がったようにみえた。
「は、はいっ」
僕はソファから立ち上がると、おぼつかない手つきで服を脱いでいく。
最後の一枚を取り去ると、僕は絶望的な気持ちで2人の前に立った。
「それじゃ永田、連れて行ってあげて」
永田さんは「かしこまりました」と応えると、ドアを開けて僕を待った。
僕は仕方なく永田さんについて廊下に出た。
人気のない屋敷の中を、永田さん、裸の僕、羽川さんの順に屋敷の奥の方へと進んでいく。
やがて、永田さんが一つのドアの前で止まり、そのドアを開けた。
中は二畳ほどのスペースの先にガラス戸があり、永田さんが壁のスイッチを押してガラス戸を開いた。
一瞬遅れて明かりがつくと、そこはこの屋敷には似つかわしくない打ち放しのコンクリートに囲まれた、六畳ほどの広さの場所だった。
僕たちが入ってきた正面の壁には大きな鏡が埋め込まれており、右手の壁にはシャワーのホースと、蛇口のようなものがあった。
「ここは……お風呂?」
「そんなわけないでしょ。私は『洗い場』って呼んでるけど。永田、用意して」
永田さんは小さく御辞儀をすると、洗い場の隅から大きめの洗面器のようなものを持ってきた。洗面器の中には、大きな注射器のような器具が見えた。
「さや、ちゃん。これは……」
「ユキが『女の子になりたい』って思うようにするには、女の子の気持ちよさを覚えてもらうのがいいと思うの。でもその前に、大事なところをキレイにするのは、エチケットとして必要でしょう?」
「え、待って--」
「ほら、そこの鏡に手をついて。お尻を突き出すようにね」
僕の横では、永田さんが手際よく洗面器にお湯を張り、大きな注射器のようなものを洗浄していた。
「お願いです、それだけは--」
「早くしなさい!」
羽川さんの鋭い声に、体が反射的にいわれた通りの姿勢をとってしまう。
羽川さんは入口のガラス戸の前に立って、永田さんを待っていた。
「沙耶様、用意が整いました」
「そう。永田、ユキのはどうかしら」
「はい、無毛でキレイです」
「よかった、毛なんてあったら興醒めだもの」
「始めますか?」
「ええ、構わないわ」
永田さんが僕の背後に立った。
突き出したお尻のすぼまった所に、何かヌルッとしたものが塗られた。
そして、僕の閉じられた肉の穴を異物がゆっくりと潜り込んでくる。

「あっ」

僕の口から、小さな声が漏れた。
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