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1章. 開かれた深淵の扉

3.放課後の痴態② 

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「それじゃ、始めなさい」

羽川さんの声に促され、僕は硬くなった自分の肉棒へ手を伸ばした。
肉棒を握ると、ゆっくりと前後に動かし始める。
僕は目を閉じた。
このまま羽川さんが視界の中にいると、怖さで萎えてしまいそうな気がしたからだ。
でも、目を閉じてもこの異常な状況はもう脳裏に焼き付いている。

ほんの2、3時間前までは生徒で賑やかだった教室で、僕は全裸になって同級生の女の子の前で自慰をしているのだ。
それでも僕は手を止めることもできず、むしろより強く快感を得ようとするように自然と手の動きが早まってくる。
「はぁ、あ」
呼吸が荒くなり、吐息が漏れる。
「左の手が留守になってるわ、乳首を触ってみなさい」
羽川さんの声がした。

乳首--?

僕は探るように胸の先端にある小さな突起に指を這わせた。
二本の指先で突起を摘まむと、コリッと刺激が走った。
「あっ」
思わず声が漏れてしまう。
同時に、突起が指の間で硬く膨れあがっていくのを感じた。
「あ、ああ」
僕は身をよじりながら、自分の乳首と肉棒を同時に責め続ける。
「乳首で感じているのね。思った通り、ふしだらな子だったわ。さあ、もっと声をあげなさい! どこが気持ちいいの?」
朦朧とした意識の中に、羽川さんの声が響く。
「はぁ、ああ、乳首と……アソコが、いいです」
「聞こえないわ」
「ああっ、乳首を、コリコリした乳首をいじるのが気持ちいいです! この肉棒と一緒にいじると、すごく感じます!」
「そうね、君が居る場所はどこかしら? どんな格好をしているの?」
「はぁ、はあ、僕は、学校で……皆が勉強する教室の中で、ああっ、全裸で自分の気持ちいいところを……いじっています!」
「酷いわね。学校でそんなことするなんて変態だわ。君は変態なの?」
「僕は、僕は……」
「はっきり言いなさい!」
「ああっ、僕は変態です! 同級生の前でオナニーをして興奮している変態です。あっ、あっ」
閉じていた目を開けると、先程と変わらず腕を組んだままの羽川さんがいた。
蔑みと嘲笑が合わさったような目で、僕を凝視している。

ああ、お願いです。そんな目で見ないでください……。
僕のこんな姿を、どうか、どうか--。

そんな思いとは反対に、僕のお尻から背中のあたりを、温かいお湯が湧き上がるような波が押し寄せてくる。
「あ、はぁあっ、も、もう!」
限界が近づいてきていた。

あ、あ、だめ、見ないで、見ないで。

「ああっ、出ちゃう、はぁっ」

叫ぶと同時に、僕は肉棒の先端から白濁した精液を放っていた。
肉棒は、大きく痙攣しながら二度、三度と精液を吐き出し続け、教室の床に幾つものシミをつける。
やがて、ようやく放出が収まると、僕は我に返って周りを見渡した。
幸い人の気配はない。
僕は急に気恥ずかしくなって、裸のまま机の間に身を隠すようにしゃがみこんでしまった。
その僕に、羽川さんが近づいてくる。
「うん、気に入った。君はやっぱり素質があるわ。先に玄関口に行ってるから服を着たら来なさい。あ、汚した床はきちんと拭いておくのよ」
それだけ言うと、羽川さんは教室から出て行った。
僕はよろめきながら脱いだものを身につけ始めた。

###

玄関口に着くと、羽川さんが靴箱にもたれるようにして立っていた。
僕の姿を認めると、なにも言わずにスッと歩きだす。
僕は慌てて靴を履き替えて羽川さんを追った。

羽川さんは校門を出ると、大通りのほうには向かわず反対側へ歩き始めた。
この道は学校周辺の住宅街に繋がる道で、大通りから大きく遠回りになるため、生徒にはほとんど利用されることのない道だった。
羽川さんの意図がわからないまま、僕はただ後ろについて歩く。
やがて住宅街の中の公園にさしかかった時、一台の黒い大きなセダンが止まっているのが見えた。
羽川さんが近づくと、運転席からネクタイを締めたガッシリとした中年の男の人が降りてきた。そして羽川さんに一礼すると、後部座席のドアを開ける。
羽川さんは、迷うことなく車に乗り込んだ。
呆気に取られて立ち尽くす僕に、車内から羽川さんの声がした。
「早く乗りなさい。送ってあげるわ」
僕は、戸惑いながらも車に乗り込んだ。
ドアが閉められ、中年の男の人が運転席に戻ってくる。
「君の家は、北町の方だったかしら?」
「は、はい。そうです」
「それじゃ水本、北町のほうに回ってくれる?」
水本と呼ばれた男の人は、かしこまりました、と答えると車を発車させた。
「あの、羽川さん……この車は?」
「見ての通りよ。うちの送り迎えの車」

ええ!? お嬢様なのは知っているけど、本当にこんなことってあるんだ。

「でも、それならどうして校門じゃなくてこんなところへ?」
「私、そこまで自己顕示欲強くないわよ。校門の前になんて乗り付けたら悪目立ちするだけでしょ」
「あれ? それじゃ昨日の朝、バスに乗っていたのは……」
「ただの気まぐれよ。時々そうしたくなるの」
羽川さんは興味なさそうに話していたが、不意に目を輝かせて身を乗り出した。
「そうそう水本、聞いて。この子素晴らしいの。私に言われるままに教室で全裸になって、自慰までして見せたのよ」
「ちょっ、羽川さん、お願いだからそんなこと話さないで」
「ああ、水本のこと? それなら平気よ」
水本さんは、バツクミラー越しに一瞬だけ僕のほうをチラッと見たが、何も言わずに視線を戻した。
「それより、私、君のこと気に入ったわ。だから君をにしたいの」
「え……それってどういうこと?」
「そのままの意味よ。君はこれから私の前では女の子になってもらうわ。そうね、君じゃ他人行儀だわ。うん、これからはユキと呼ぶことにするわね」
「ちょっと待って、そんなこと急に言われても--」
最後まで言う前に、羽川さんが僕の顔を両手で押さえつけた。
「私、男は嫌い。でも、ユキのことは気に入ってるの。だからユキには女の子になってほしいのよ。大丈夫、心配しなくても。私がユキをステキな女の子にしてあげるから」
羽川さんの瞳が、再び深い奈落のような色を帯びる。
「でも、僕は女の子になんて……」
「ダメでしょ? 女の子がなんて言ったら」
瞬きもせずに、羽川さんの口角がスーッと上がる。
「ごめんなさい……わたしが、間違って、いたわ」
「そう、それでいいのよ。それから、私のことも名前で呼んでね」
「うん、わかったわ。沙耶……ちゃん」
僕の答えに満足したのか、羽川さんはようやく手を離してくれた。
「ふふふ、退屈な学校生活が始まるかと思って憂鬱だったけど、ユキのおかげで楽しみになってきちゃった」
「そ、そう。わたしも、楽しみだわ……」

僕は、身を固くしてそう答えるのがやっとだった。

【開かれた深淵の扉 終】
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