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深夜
しおりを挟む時刻は深夜1時。
世界で一番長いと言われる海上橋を、たった一台の車が走っていた。
先程までの雨が嘘のような快晴。
濡れた路面は照明灯の光を反射して、その青色を霞ませながら真下にまっすぐのびている。
レガはこの光を見るたびに、雨の日だけ足下に特別な世界があるのではないかと想像していた。
「窓、開けてもいい?」
助手席のアルバが訊ねてきたが、彼女はそう言いながらもすでに開閉ハンドルを回しているようだった。
「どうぞ」と言った頃には半分ほど開いてしまっていたが、レガは別段気にすることもなく夜の風を迎え入れた。
彼女は窓から少し顔を出して、湿度の高い冷えた空気を胸いっぱいに吸い込んでいるようだ。
レガはそれを一瞥して「危ないよ」と言おうとしたが、それよりも先に彼女があっ、と声をたてた。
ルームミラーで確認すると、アルバはどうやら後方の沖に浮かぶ街のような灯りを見つけたらしい。
いつの間にか車内に顔を引っ込めていた彼女は不思議そうに「さっきまで無かったよ」と呟いた。
「工場船だね。」
海に浮かぶ巨大な工業施設。
海底を採掘するために開発された巨大船は、約数万人の作業員たちを乗せて昼夜関係なく航海している。
よく言う、『田舎から出稼ぎに来る若者たち』が真っ先に思い浮かべるのがこの船だ。
一年のうちたった数日しか陸に戻れないというが、何万人もの労働者たちは高い給料で夢を買うため、何日間も海の上で寝食を共にしている。
「夜中までご苦労な事で」
レガの物言いに、アルバが呆れた顔をしながら頬杖をついた。
「…レガは無職だから気楽でいいよね」
「失礼だな、ちゃんと仕事してたさ。この日のためにお金貯めてたんだよ。」
「嘘だ。慌てて出てきたの知ってるよ。」
一体誰のせいで…
とは言えなかった、この旅は自分の意思で動いている。
「貯金無くなったらどうするの?」
アルバが悪戯を思いついた子供のようにクスクスと笑いながら問いかけると
彼は「そうだな」と言って片手で顎の髭を触る。
「ドロボーでもしようか。」
当然嘘だが、彼女は大袈裟に両手を上げて「嫌だよ、そんな下らない理由で君と刑務所なんて。」とまた先ほどのように呆れた顔をしていた。
レガは可笑しくて、笑いながら「嘘だよ。」と答えると彼女もつられて「嘘じゃないと困るよ」と言って笑っていた。
車が照明灯の下を通過するたびに、窓から差し込む光はサーチライトのように2人を照らしていく。
まだ対岸は見えない。
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