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五十九話
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毎日屋敷の外を走る父と、アリシア。二人の姿に、継母は遠い目をすることが増えた。
だがそれは私が学園に戻る前日、怒りに彩られるようになった。
「どうして私が……!」
怒りの矛先は、父。
私が学園を卒業してすぐに当主代理権を明け渡し、領地の片隅にある別宅に引っ込むことを決めたことを継母に告げた。
「……疲れた」
そうぼやくのは、毎日走ることにたいしてか、あるいは精神的なものなのか。数日前にアシュフィールド公から手紙を届き、それ以来気が抜けたようになっている。
なんにしても意思は固いようで、どれだけ継母が反発しようと彼女の言葉に同意することはなかった。
そしてアリシアも、二人と共に別宅に移るらしい。とはいっても、まだ学園に在籍中の身のため、ほとんどの時間を学園で過ごすことになる。
だが休暇中は別宅に戻るそうで、こちらに寄ることはほとんどなくなるそうだ。
「新婚夫婦のお家でお世話になるなんて肩身が狭いから、私はそれでいいわ」
意外にも、アリシアは父の決定に頷いた。
新婚夫婦というのは、シェリルとサイラスのことだ。学園を卒業したら準備が終わり次第式を挙げることになっている。
嘆く継母とそれを宥める父と、一人我関せずとばかりに学園に戻る準備をしているアリシア。
今から準備するのは遅すぎるのではないだろうか――そんな風に思わず目の前の光景から目を逸らしかけるシェリルの横で、サイラスが忙しなく瞳を動かしていた。
「そう、か。新婚……ということになるのか」
聞こえた呟きに、シェリルは本格的に目の前の光景から目を逸らし、サイラスのほうを向いた。
「むしろ、そうでなかったらなんだと思っていたのですか?」
「いや……何も考えていなかった」
もごもごと口を動かして、ものすごく言いにくそうに言うサイラスにシェリルは苦笑を漏らす。
「もうすぐ、夫婦になるのか……。実感はまだわかないが……今後は夫として、お前を守ると……これまで何もできなかったのも含めて、守ると誓おう」
「……そこは、幸せにする、だけでよろしいのですよ」
同じ家で過ごすようになったからか、シェリルは今では、自分の婚約者が尋常ではないほど言葉足らずで、変なところで生真面目で、斜め上に物事を考えるということを理解していた。
突飛な発想は、一式買うと宣言したことだけではない。父だけでなく、継母までも走らせようとしたりもした。
適度な運動は健康にはいいが、サイラスが行っているのは騎士向けの運動。継母に耐えられるはずがないと、シェリルが止めたことによって実現しなかったが、止めていなければ外を走る風景に継母が加わっていたことだろう。
それもあって、最初は父とアリシアが走ることに苦言を漏らしていた継母は、遠い目をするだけになったのだが。
「私もあなたを幸せにしますから」
自らを不幸だと嘆くほどではなく、だが愛してくれるはずの親からは掛け値なしの愛情は向けられず。
愛し愛されるという関係は母のほかには知らない。
だがそれでも、サイラスよりは――シェリルの婚約者になるためだけに育てられたサイラスよりは、愛し愛される関係について知っているだろう。
だからシェリルは、言葉足らずで、生真面目なくせに物事を斜めに考える婚約者に、幸せにしてあげる、と微笑んだ。
だがそれは私が学園に戻る前日、怒りに彩られるようになった。
「どうして私が……!」
怒りの矛先は、父。
私が学園を卒業してすぐに当主代理権を明け渡し、領地の片隅にある別宅に引っ込むことを決めたことを継母に告げた。
「……疲れた」
そうぼやくのは、毎日走ることにたいしてか、あるいは精神的なものなのか。数日前にアシュフィールド公から手紙を届き、それ以来気が抜けたようになっている。
なんにしても意思は固いようで、どれだけ継母が反発しようと彼女の言葉に同意することはなかった。
そしてアリシアも、二人と共に別宅に移るらしい。とはいっても、まだ学園に在籍中の身のため、ほとんどの時間を学園で過ごすことになる。
だが休暇中は別宅に戻るそうで、こちらに寄ることはほとんどなくなるそうだ。
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意外にも、アリシアは父の決定に頷いた。
新婚夫婦というのは、シェリルとサイラスのことだ。学園を卒業したら準備が終わり次第式を挙げることになっている。
嘆く継母とそれを宥める父と、一人我関せずとばかりに学園に戻る準備をしているアリシア。
今から準備するのは遅すぎるのではないだろうか――そんな風に思わず目の前の光景から目を逸らしかけるシェリルの横で、サイラスが忙しなく瞳を動かしていた。
「そう、か。新婚……ということになるのか」
聞こえた呟きに、シェリルは本格的に目の前の光景から目を逸らし、サイラスのほうを向いた。
「むしろ、そうでなかったらなんだと思っていたのですか?」
「いや……何も考えていなかった」
もごもごと口を動かして、ものすごく言いにくそうに言うサイラスにシェリルは苦笑を漏らす。
「もうすぐ、夫婦になるのか……。実感はまだわかないが……今後は夫として、お前を守ると……これまで何もできなかったのも含めて、守ると誓おう」
「……そこは、幸せにする、だけでよろしいのですよ」
同じ家で過ごすようになったからか、シェリルは今では、自分の婚約者が尋常ではないほど言葉足らずで、変なところで生真面目で、斜め上に物事を考えるということを理解していた。
突飛な発想は、一式買うと宣言したことだけではない。父だけでなく、継母までも走らせようとしたりもした。
適度な運動は健康にはいいが、サイラスが行っているのは騎士向けの運動。継母に耐えられるはずがないと、シェリルが止めたことによって実現しなかったが、止めていなければ外を走る風景に継母が加わっていたことだろう。
それもあって、最初は父とアリシアが走ることに苦言を漏らしていた継母は、遠い目をするだけになったのだが。
「私もあなたを幸せにしますから」
自らを不幸だと嘆くほどではなく、だが愛してくれるはずの親からは掛け値なしの愛情は向けられず。
愛し愛されるという関係は母のほかには知らない。
だがそれでも、サイラスよりは――シェリルの婚約者になるためだけに育てられたサイラスよりは、愛し愛される関係について知っているだろう。
だからシェリルは、言葉足らずで、生真面目なくせに物事を斜めに考える婚約者に、幸せにしてあげる、と微笑んだ。
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