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四十二話 ※サイラス視点

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 アルフから教わるようになってから数日が経ったある日、サイラスは悩んでいた。
 シェリルから伝言があるとアリシアから告げられたのが二日前。内容は、月に一度の茶会をどうするかというものだった。
 それにたいしてシェリルが構わなければと返して、いつも通りでという返事を昨日もらったばかりだ。

 これまではシェリルと会う日が近づくたびに何を報告するかで悩んでいたのだが、今回はそれとは違う。

「……何を用意するべきか……」

 自分の選んだものがシェリルの好みから外れていると思っていた時は、焼き菓子などの無難なものを選んでいた。だが今回は、これまでとは話が違う。
 シェリルに好意を抱いていることを自覚したことや、先日泣かせてしまったことなどで、焼き菓子ではなくふさわしい謝罪の品を用意するべきなのではと、昨日からずっと悩み続けている。

 だが装飾品にも宝飾品にも興味を示さないことは、出かけた時に判明している。高価なものは受け取れないと面と向かって言われてもいるため、選べるものは限られる。

「やはり、花か……?」

 無難なものを選ぶのなら、花を贈るのが一番だろう。問題は、シェリルの好きな花がわからないということだ。
 前に贈った花束の感想を聞くことはできず、花の好みを聞いたとしても装飾品の時と同じように好みのものはないと答えるかもしれない。
 何かしらないのかと追及すれば、気負わせることになる。それに会う時に渡すのに、聞く暇はないし、聞くために会いにいけば本末転倒だ。

「アルフに聞いてみるか」

 悩みに悩んだ結果出た結論は、いたって単純だった。


 シェリルと友好関係にあるアルフであれば何かしら知っているだろうと思い、勉強の合間に聞いたのだが、返ってきた答えは「知らない」という簡潔なものだった。

「好きな花の話なんてわざわざしないよ」

 アルフとシェリルのやり取りは授業の内容がほとんどで、同級生の垣根を越えていると周囲に判断されそうな会話は、互いに避けていたのだと説明を受けた。


 頼みの綱だったアルフも知らないとなれば、もはや打てる手は限られた。
 サイラスが次に頼ったのは、同じ武術科生で婚約者のいる人たちだった。

「なんの花を贈るのがいいかって?」
「とりあえず食用の花はやめておけ。実用的すぎるって怒られるからな」
「食中花も怒られたな。虫が嫌いだからちょうどいいかと思ったんだが……花にそういうのは求めていないらしい」
「自分で摘んだやつは嬉しいけど、そうじゃないって言われた」
「香りの強すぎる花は置き場所に困るとも言われたな」
「花言葉も重要だぞ。好きな花だからって渡したら、ひどいって泣かれた」

 いったいどんな花言葉のある花だったのかは黙秘を貫かれたが、とりあえずわかったのは花は実用性で選んではいけなくて、置き場所に困らない程度のもので、花言葉も重視したほうがいいということだった。

 花言葉という新たな課題が追加され、サイラスの悩みはさらに増えた。

「とりあえずわからなかったら花屋に任せるといいよ。こめたい思いを言っておけば、良い感じのを仕上げてくれるだろうからね」

 そうして結局、ダニエルの助言により花屋に丸投げすることになった。


 月の終わりの週末、片手に持てるサイズの花束を持って、サイラスはいつも茶会を開いているテラスに向かった。
 下手を打たないように、花を渡す時に気負わせすぎないように、それから今日話す近況を――まで考えて、一番重要なことを忘れていたことに気づく。

「……何を話すか、考えていなかった」

 テラスに続く扉を前に、サイラスは思わず足を止める。だがいつまでも立ち止まっているわけにもいかず、頭の中で最近の出来事を必死に捻り出しながら、扉に手をかけた。
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