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二十五話 ※サイラス視点

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 遡ること四週間前。
 喫茶店に一人残されたサイラスはこれからどうしたものかと頭を悩ませていた。

 平時であれば、鍛錬でもするかと切り替えていただろう。だがどうしてもそんな気分にはなれず、今さらというシェリルの言葉が頭から離れなかった。

 今さらだと言われてもしかたないことはサイラスもわかっていた。シェリルの状態に気づいた時に、自らの不甲斐なさを実感していたのだから。

「……とりあえず、出るか」

 空になった食器を前にサイラスは立ち上がり、店を出た。行くあてはないが、じっとしているよりは動いているほうが頭も働くだろうと、これといった目的もなく街中を歩く。
 そして目についたのが、豪華な花屋だった。店外を花が飾り、開けた店内にも色とりどりの花が飾られている。
 サイラスは花に興味はない。有事の際に使えるかもと食用の花を知っているぐらいだ。

「花束を一つ、作ってくれないか?」

 その程度の関心しか示していなかったというのにサイラスは花屋に足を踏み入れ、店員に声をかけた。
 それはひとえに、女性に何か贈り物をする時はとりあえず花がいいとダニエルが前に言っていたのを思い出したからだ。

「どのような花束をお作りいたしましょうか」

 にこやかに言う店員に、サイラスはこれまた頭を悩ませる。花束に種類があるのか、と。
 詳しく聞くと、贈る状況や行事に合わせたものにしたり、好きな花を入れたりするのだと説明を受け――サイラスは眉間に皺を寄せた。
 シェリルが好きな花を知らなかったからだ。

「……店にある花をすべて、一輪ずつ入れてくれ」
「え、それは……えーと、持てなくなると思いますので、ある程度はしぼられたほうがよろしいかと」

 何かしら好きな花に当たるだろうと考えての案を却下され、サイラスは再度悩んだ末に「持てる範囲で種類も色もばらけたものにしてくれ」と言った。
 店員はそれに微妙な表情を浮かべながらも頷くと、笑顔を浮かべた。
 
「メッセージカードを添えることもできますが、どうされますか?」

 サイラスの口が固く引き結ばれる。
 頭に浮かぶのは、喫茶店で見た疲れた顔のシェリル。そして彼女が疲れた原因が自分にあるのだということはわかっていた。
 だから、添えるとしたら謝罪の言葉だということもわかっている。

 だが先ほど告げられたばかりのシェリルの言葉と、ここ数週間で見たシェリルの姿がサイラスの脳裏によぎる。
 謝罪の言葉を添えたとしても気負わせるだけか、よりいっそう疲れさせるだけではないだろうかと、サイラスはまたも悩んだ。
 だが謝罪以外の言葉を綴ろうにも、他に適切な言葉が思いつかないまま悩むこと小一時間。
 店内には人が増え、店員がそわそわしだしたのを見て――サイラスは結局、なんの言葉も添えなかった。


 次の休みに送るようにと頼んでから学園に戻ったサイラスは、いまだ鍛錬場を利用していたダニエルとアリシアを見つけ、そちらに向かった。

「おー、おかえり」

 手を挙げて言うダニエルに、サイラスはアリシアを見ていてくれたことに対する感謝の言葉を告げる。

「もう、いいですよね!? 走らなくて……!」

 そしてそこで、息も切れ切れになったアリシアがサイラスとダニエルのもとに来て、切実な声で訴えた。
 サイラスは「ふむ」と小さく呟くと、アリシアに視線を向けた。

「そうだな。それよりも……聞きたいことがある」
「ちょ、ちょっと待ってください。その前に、少し休憩を……」

 シェリルの状況を改善させるためには、まず彼女がどういった状況に置かれているのかを正確に把握する必要がある。
 しかし、シェリル自身に聞いたとしても、答えてはくれないだろう。

 だが目の前にいるアリシアはシェリルの家族で、生活を共にしていた。しかも、シェリルを変えた原因である可能性が高い。

「走るか話すか、どちらがいい」

 ぐでっと地面に座りこむアリシアを見下ろしながら言うサイラスの耳に、ダニエルの乾いた笑いが聞こえてきた。
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