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五話

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 次の日、休みが明けて学園にて授業を受けていたシェリルだが、頭の中では次の休みのことでいっぱいだった。
 恒例の茶会ではないので、時間も場所も定かではない。サイラスとは学舎が違うので、時間と場所のすりあわせをするのも難しい。
 一人で会いに行けば、男子生徒の多い武術科で目立ってしまう。かといって、サイラスがこちらに来るのも、それはそれで目立つ。

 シェリルがサイラスの婚約者であることは周知の事実だが、二人が仲睦まじく過ごすことはなかったので、誰もが政略によるものだと理解していた。
 その中で定期的に行われている茶会以外で会っていたとなると、それだけで話題に上ってしまうだろう。

 アリシアのこともそうだが、シェリルは学園ではできるだけ穏やかに、静かに過ごしていたいと思っている。

「……どうしようかしら」

 授業の合間の休み時間で、シェリルは小さく溜息を落とす。昨日から何度溜息を零したのかわからないほどだ。

「どうしたの?」

 するとそこで、横からシェリルに声をかける人物がいた。
 シェリルが視線を巡らせると、そこには明るい茶髪をした男子生徒が一人。
 女子の多い学術科ではあるが、男子生徒がまったくいないわけではない。武術を習う必要がなかったり、体が弱く学べるだけの技量がない者は、学術科で知識を蓄えるのが一般的だ。
 シェリルに話しかけてきたのもそんな一人で、体が弱いのが理由で武術科ではなく学術科に進学していた。

「……そういえば、次は歴史の授業だったわね」

 とはいえ、他の女子生徒と同じ科目を学んでいるわけではない。刺繍などの淑女の嗜みとされている授業は取っておらず、シェリルと被っているのは自国や友好国の文化と歴史の科目のみだった。

「なんか上の空だね。なんかあった?」

 気安い態度で話しかけてくる彼の名前はアルフ。エイトケン侯爵家の三男で、シェリルとは一年生の頃に歴史の授業で席が隣になって以来の知人だ。
 友人、とまでいかないのは、シェリルが彼を知人として認識しているからだ。

「サイラス様に婚約を破棄したいと言われたわ」

 自らの内情をあっさりと晒すのは、どうせアリシアが今日か明日にでも言いふらすと思ったからだ。
 すぐに広まることなら、いつ誰に言ったところで支障はない。

「サイラスって、君の婚約者だよね」
「婚約者じゃない人に婚約を破棄したいとは言わないでしょうね」
「いや、まあ、そうだけど」

 アルフはぱちぱちと瞬きを繰り返し、シェリルの横に腰を下ろした。

「それで、君はどうしたの?」
「構わないと言ったわ。だけど、何故か受け入れてくれなかったのよね」

 今考えてみても、サイラスの言い分は無茶苦茶だ。
 婚約を破棄したいと言ったのなら、シェリルが快諾した時点で受け入れればいい。それなのに、あっさりと引き下がるなと声を張り上げ、理解を深めると言い出した。

「何がしたいのかしら」

 シェリルが思わずそうぼやいてしまうのも、しかたないだろう。
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