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三話

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 シェリルがぱちくりと瞬きを繰り返しているのに気付いたのだろう。サイラスは咳払いをすると、居住まいを正した。

「……つまり、俺が言いたいのは……お前にも言い分があるだろう、ということだ」
「いえ、ですから――」
「それを聞かずして婚約を破棄するのは、一方的すぎる。互いに意見を交わし、相互理解を深めてようやく、婚約を破棄すべきだろう」

 それは破棄と言うのだろうか、とシェリルの頭の中に疑問符が浮かぶ。
 相互理解を深めてからなされる婚約破棄など聞いたことがない。

「相互理解も何も――」
「だから、次の休みまでに言い分を用意しておけ」

 そう言い切ると、サイラスはシェリルの返事を待つことなく席を立ち、足早に立ち去った。
 一人残されたシェリルは、テーブルの上にあるカップを眺めながら首を傾げる。

「……来週も会う、ということかしら」

 月に一度の茶会は終わった。なのに次の休みに、ということは義務の茶会ではなく、個人的に会うということになる。
 テーブルの片付けを学園で雇われている使用人に告げると、シェリルは疑問を抱きながら部屋に戻った。


「あ、姉さま。おかえりなさい」

 そこで待っていたのは、妹のアリシアだった。にこにこと機嫌良く笑う彼女に、シェリルは「来ていたのね」と短く返す。

「今日はサイラス様とのお茶会だったでしょう? どうだったのか聞こうと思ったの」
「婚約を破棄したいと言われたわ」

 昔、アリシアにサイラスとの茶会ではどんな話をするのかと聞かれた時、シェリルは個人的なことだから、と断ったことがある。
 だがその結果、家族に隠し事をするなんて――と責められるだけに終わった。
 だからシェリルは隠すことなく淡々と告げた。すると、アリシアの目がきらきらと輝いた。

「やっぱり、そうなのね。……でもそうなると、姉さまに申し訳ないわ」

 伏し目がちに申し訳なさを演出しているが、口元がにやついているため、効果はあまり出ていない。
 シェリルからすれば見慣れた光景で、アリシアの言動にも挙動にも追及することなく「明日の支度をするから」と断りを入れる。
 アリシアも話は済んだと思ったのだろう。にこにこと笑いながら部屋を出ていった。

「言い分と言われても……どうすればいいのかしら」

 アリシアの言動や挙動よりも、今日のサイラスの言動や挙動のほうが、シェリルの頭を悩ませていた。
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