なあ、一目惚れって信じる?

万実

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まさか!

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ケジメをつけるために陽貴先輩に会いに来た。
そして、全てを話すからとユズには待ってもらっている。

なのに、何一つ上手く行かなかった。
ユズになんて言えばいいの?
こんなんじゃ、帰れないよ。

スマホを片手に持ち、とぼとぼと歩きながら思案に暮れる。
ユズに迎えに来てもらわないと、家には帰れないのは確かだ。
でも、ユズにどう説明したら良いのか、さっぱり分からないのだ。

うう。
情けなさ過ぎて、涙が出てくる。
なんで私はいつもこうなのか?

もうこうなったら、ありのままを正直に話すしかない。
よし、ユズに電話しよう。


意を決してスマホを目の前にしたとき、いきなり着信音が鳴った。

「うわっ!」

思わず叫んでしまったけど、落ち着いて私。
ドキドキして画面を見ると、ユズからだった。

自分でかけるつもりでいたけど、このタイミングでかかってくるなんてね。
ああ、緊張するな。
そう思いながら電話に出る。

「はい」

「美結。こんなに遅い時間までどうした?なにか困ってる?」

「あ···ユズ」

ユズの声があまりにも優しくて、私は声を詰まらせた。
気がつけば、ボロボロと涙を零してしゃくりあげて、心配させてはいけないのに、止まらなくなってしまった。

「美結、今どこにいる?すぐ迎えに行くから待ってて」

「···うん」

私は嗚咽交じりに、今いる場所の説明をし、電話を切った。

ああ。

ユズが来るまでの間に、この泣き顔をなんとかしておかないとならない。

とは思うものの、笑顔を作ろうとしてもなかなかできるものではなくて。

はあ、とため息をついたとき走りくる足音が聞こえ、私は顔を上げた。

「美結!」

ユズが私の名を呼び駆けてくる。
目の前に来た彼は、息を整えながら心配そうに覗き込んだ。
その顔を見て安心した私は、また涙が浮かんで来てしまった。

「ユズ···」

ユズは何も言わずに私を抱きしめた。
私はすっかり安心して、ユズの胸で泣きたいだけ泣いた。

暫くして、私が落ち着いたのを見計らい、ユズは私の頭をぽんぽんと優しく撫でる。

「美結、ひとまず帰ろう。落ち着いて、話せるようなら話してくればいいから。無理はするな」

「うん」

手を引かれて、夕闇の中を二人で歩く。
その手からユズの温かさが伝わってきて、私の中の不安な気持ちを溶かしていくよう。

家に帰り着き、部屋に入り着替えを済ませ、キッチンへと向かう。

全てユズに話そう。
そう決心して、私はユズの待つキッチンの扉を開こうとしたその時、『ピンポーン』と来客を告げるドアフォンの音が響いた。

誰だろう?

私は踵を返し玄関へと向かった。

ガチャっと玄関を開け、扉の前に立つ相手を見るや、私は驚いて後ずさった。

「陽貴先輩!!」

なんで陽貴先輩がここにいるの?!

って、よく考えたら、ユズと陽貴先輩は親友なんだから、家に来ることだってあるはずだ。
想定してなかった出来事に、私は動揺する。

陽貴先輩は目を見開いて私を凝視している。
まさか、ユズの家に私がいるなんて思いもしなかったのだろう。

「美結、なんで?!」

陽貴先輩はそう言うと、素早く動いて私の腕を掴んだ。

「先輩!離して」

先程の記憶が脳裏をかすめる。
にわかに出てきた恐怖心が、私の体を縛る。

「待ってくれ!少しだけ、話をさせてくれないか?」

「······」

だめだ。
この流れだと、また陽貴先輩のペースだ。
私は必死に抵抗するけど、力で勝るはずもなく陽貴先輩に引き寄せられた。

「ユズ!」

私は思わず大声で叫んだ。

「美結、どうした?」

キッチンの扉からユズが顔を出し、陽貴先輩に引き寄せられた私を見るや、ユズの表情が激変した。

一瞬のうちに、その場の空気が凍てついたんじゃないだろうか。
殺気がみなぎっていると言っても過言ではない。

ズンズンと無言で近づいてくるユズ。
こんなに怒っている彼は見たことがない。

その空気に慄いた陽貴先輩は、ゴクリと息を呑み、その雰囲気に飲まれまいと拳に力を入れた。
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