媚薬をアイツに試してみたら

万実

文字の大きさ
上 下
11 / 12

本番

しおりを挟む
「待って、これを見て」



そう言ってクリスは〖媚薬〗の小瓶のコルクを抜くと、くいっと一気に飲み干してしまった。

ちょっと!?なにやってるの!

〖媚薬〗は少量で十分効くのにそんなにたくさん飲んだら一体どうなることか。

クリスは深く息を吐いて私をじっと見つめる。

それでもクリスはいつもと変わらず冷静に見えた。



「あのクリス、大丈夫なの?」

「この〖媚薬〗全然効かないんだ」

「えっ!どういうこと?」



嘘!

そんなはずない。確かに私はクリスにメロメロになって大変だったんだから。



「何度試したと思う?五回以上はシルフィの前で使ったんだ」

「ちょっと待って?クリス、他人に使わずに自分に使ったの?」

「俺は素直じゃないからなかなか自分の気持ちを伝えられないんだ。いつも余計な一言を言ってお前を怒らせるだろう?だから〖媚薬〗の力を借りて告白しようと思ったんだ」



何てこと!

既に〖媚薬〗を試していたなんてね。しかも自分に使うなんて···。



「それで、〖媚薬〗の注意書きをよくよく読んだら稀に効果の出ない者もいると書いてあった」

「そんな事があるの?」

「ああ、相手の事を好きすぎると効果が出ないみたいだ。〖媚薬〗に頼れない事が分かった今、本気を出さないとどうにもならない。転勤前にお前にどうしても伝えなければと俺は覚悟を決めて色々と準備したんだ。そんな時、お前が〖媚薬〗を持って現れた。驚いたよ、まさかシルフィが俺の事を思っていたのかと内心凄く喜んだ」



や、違います。

ギャフンと言わせてやろうと思って薬を盛ったんです。

やましい気持ちのある私は、少しだけ視線を逸らせた。



「〖媚薬〗を飲んだお前を見て、この〖媚薬〗は本物だと確信した。その時のお前は、なんというか凄く可愛かったし、俺も本気でやるしかないなと腹を括った」

「やめて!その話はもういいから」



恥ずかしすぎるでしょ!

慌てて私は話を止めようとするけど、なぜかクリスはクスクスと笑ってギュっと私を抱き締めた。

ああ、頭がくらくらする。

なぜにこんな状態に?



「ってことで、これからが本番」



クリスは私の前にひざまずくと、改めて薔薇の花を一つ手に持ち私に差し出しながら囁いた。



「昔から、シルフィの事がずっと好きだった。そして、今もこれからも愛してる。ずっと俺の傍にいてくれないか?」



クリスはキラキラした笑顔で薔薇を目の前に差し出す。

跳ね上がった私の心臓。

ああ、この笑顔。

とても美しくて私の頬はまたも赤くなりドキドキはいつまでも止まらない。

〖媚薬〗の効果はとっくに切れているはずなのにあの時と同じ状況になっていることに驚く。

頭の中では鐘が鳴り響き、目の前の笑顔がとても眩しい。

ああ、これは〖媚薬〗のせいではない。

このドキドキと、ときめきは実際に起こっていることなんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

逃げる太陽【完結】

須木 水夏
恋愛
 黒田 陽日が、その人に出会ったのはまだ6歳の時だった。  近所にある湖の畔で、銀色の長い髪の男の人と出会い、ゆっくりと恋に落ちた。  湖へ近づいてはいけない、竜神に攫われてしまうよ。  そんな中、陽日に同い年の婚約者ができてしまう。   ✩°。⋆☆。.:*・゜  つたない文章です。 『身代わりの月』の姉、陽日のお話です。 ⭐️現代日本ぽいですが、似て非なるものになってます。 ⭐️16歳で成人します。 ⭐️古い伝承や言い伝えは、割と信じられている世界の設定です。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

処理中です...