25 / 40
ティアドロップ
しおりを挟む
「フィン、何が目的だ。ここまでするからには何かあるんだろう?」
アレクの問にフィンさんは目を細め、頷いた。
「取引をしようじゃないか」
「·····」
「この女と、お前のその首に下げているペンダント、交換だ」
「やはりな、それがお前の目的か」
ペンダント?
えっ?それって、もしかして。
アレクの持っているペンダントって、私のティアドロップよね。
フィンさんがそんなものを欲しがるはずがない。
狙いはアレクの青銀色のリングだろう。
それは今、私が首に下げている。
アレクが大事にしているペンダントは、誰かに狙われるほどの価値があるということなんだ。
青銀色の金属なんて見たこともないからね。
余程のものなんだろうとは思っていたけど。
そして、フィンさんは勘違いをしている。
私のペンダントとアレクのペンダント。
二つは入れ代わってるんだけど、ペンダントのチェーン部分だけを見れば、どちらも同じものに見えるから、ペンダントトップさえ隠れていれば区別はつかない。
その事実をフィンさんは知らないんだ。
私はアレクに目で訴えると、彼は本当に小さく、私だけがわかる程度に頷いた。
アレクは首からペンダントを外した。
もちろん、フィンさんに見えないようにペンダントトップを手で握りしめている。
「さあ、ペンダントを渡すから早くティア·フローレンスを開放してくれ」
「···やけに物わかりがいいな。そう簡単に応じるとは思っていなかったんだが」
フィンさんは訝しみながらアレクを睨んだ。
「いいか、僕にはティア·フローレンス以上に大切なものなんてないんだ。こんなペンダントの一つや二つ、お前にやったって惜しくはないし、後悔はしない」
「おい、嘘だろ?お前、【媚薬】を飲んで本当におかしくなったんじゃないのか」
「なんとでも言え」
アレクはとても冷静で、妙に堂々としている。
うーん。
もしかしたら、アレクはフィンさんを油断させるために演技をしているんじゃないだろうか。
そんな気がしてならない。
先程の女神だの美しいだの、そんな歯の浮くような、耳を塞ぎたくなるようなセリフもそうであって欲しいものだ·····。
「交換方法は?」
アレクの問にフィンさんは、この部屋をぐるっと見回し、そして私を一瞥して答えた。
「そうだな。まずは窓際の椅子にこの女を座らせる。いいか、事が終わるまで絶対に動くんじゃない」
そう言うと、フィンさんは私を椅子に座らせ、両足首に足枷を嵌め鍵をかけて、自由に動けないようにした。
足枷まで持ち出すなんて、フィンさんの用意周到さに息を呑む。
私は両足と右手が利かなくなってしまった。
右手首は紫色に変色し腫れ上がり、ズキズキと痛みが走る。
情けなさと痛みとで、涙が浮かんでくる。
なるべくアレクの負担になりたくないけど、動けない以上どうしようもない。
椅子に座る私の傍らに立ったフィンさんは、アレクを牽制するため、足枷の鍵を目の前にかざした。
「この足枷の鍵とお前の持つペンダントを交換する。アレク、お前はその位置から動くな」
ちょうど三階の階段の手前にいるアレクは、右手に持つペンダントを握りしめて、フィンさんが来るのを待つ。
この交換は私達にとっては不利だ。
なぜなら、動けない私がいるから。
私と自身の安全を確保しつつ、足枷を外さなければならないアレクと、ただペンダントを受け取るだけのフィンさん。
足枷を外す間に何かを仕掛けられたら、アレクも私もひとたまりもない。
それに、フィンさんは階段の手前に陣取る訳だから、逃げ道も封じられている。
大丈夫なのだろうか?
不安に苛まれ、私はそんなアレクをじっと見つめる。
アレクは一瞬目を見開き、私に何かを訴えかけた。
あっ!!
何かする気だ。
形勢を逆転するための考えが、彼にはあるようだ。
それが何なのか、わからないけれど。
今の私には、アレクの為に出来ることは何もない。
ただ、大人しく椅子に座り、アレクを信じて待つより他はない。
フィンさんはゆっくりと歩を進め、アレクのすぐ近くに立った。
お互いが右手に交換するためのアイテムを持っている。
ペンダントと足枷の鍵。
そして動きが止まり、フィンさんはアレクを誘導する。
「いいか、三つカウントして、お互いの左手に同時に置く。では開始する」
「いち」
「に」
「さん」
そして、ペンダントと足枷の鍵がそれぞれの左手に置かれた。
左手に足枷の鍵が置かれるやいなや、アレクは走り出した。
そして、フィンさんはというと。
自分の左手に置かれたペンダントを目の前に提げ、恍惚の表情でそれを眺めている。
その手にあるのは青銀色のリングのペンダント。
えっ?!
どういう事?
青銀色のリングは私が持っていて、あれは私のティアドロップのはずなんだけど。
「これが、後継者のリングか!!」
フィンさんは歓喜の声を上げ、更に高くそのペンダントを掲げた瞬間、変化が起こった。
リングが光輝き、その光がサラサラと下方へ流れ落ちるように見えた。
そして、そのペンダントは真実の姿を現した。
「なっ?!」
フィンさんは、驚愕して叫んだ。
その手に掲げたペンダントは、やはり私のティアドロップだった。
アレクの問にフィンさんは目を細め、頷いた。
「取引をしようじゃないか」
「·····」
「この女と、お前のその首に下げているペンダント、交換だ」
「やはりな、それがお前の目的か」
ペンダント?
えっ?それって、もしかして。
アレクの持っているペンダントって、私のティアドロップよね。
フィンさんがそんなものを欲しがるはずがない。
狙いはアレクの青銀色のリングだろう。
それは今、私が首に下げている。
アレクが大事にしているペンダントは、誰かに狙われるほどの価値があるということなんだ。
青銀色の金属なんて見たこともないからね。
余程のものなんだろうとは思っていたけど。
そして、フィンさんは勘違いをしている。
私のペンダントとアレクのペンダント。
二つは入れ代わってるんだけど、ペンダントのチェーン部分だけを見れば、どちらも同じものに見えるから、ペンダントトップさえ隠れていれば区別はつかない。
その事実をフィンさんは知らないんだ。
私はアレクに目で訴えると、彼は本当に小さく、私だけがわかる程度に頷いた。
アレクは首からペンダントを外した。
もちろん、フィンさんに見えないようにペンダントトップを手で握りしめている。
「さあ、ペンダントを渡すから早くティア·フローレンスを開放してくれ」
「···やけに物わかりがいいな。そう簡単に応じるとは思っていなかったんだが」
フィンさんは訝しみながらアレクを睨んだ。
「いいか、僕にはティア·フローレンス以上に大切なものなんてないんだ。こんなペンダントの一つや二つ、お前にやったって惜しくはないし、後悔はしない」
「おい、嘘だろ?お前、【媚薬】を飲んで本当におかしくなったんじゃないのか」
「なんとでも言え」
アレクはとても冷静で、妙に堂々としている。
うーん。
もしかしたら、アレクはフィンさんを油断させるために演技をしているんじゃないだろうか。
そんな気がしてならない。
先程の女神だの美しいだの、そんな歯の浮くような、耳を塞ぎたくなるようなセリフもそうであって欲しいものだ·····。
「交換方法は?」
アレクの問にフィンさんは、この部屋をぐるっと見回し、そして私を一瞥して答えた。
「そうだな。まずは窓際の椅子にこの女を座らせる。いいか、事が終わるまで絶対に動くんじゃない」
そう言うと、フィンさんは私を椅子に座らせ、両足首に足枷を嵌め鍵をかけて、自由に動けないようにした。
足枷まで持ち出すなんて、フィンさんの用意周到さに息を呑む。
私は両足と右手が利かなくなってしまった。
右手首は紫色に変色し腫れ上がり、ズキズキと痛みが走る。
情けなさと痛みとで、涙が浮かんでくる。
なるべくアレクの負担になりたくないけど、動けない以上どうしようもない。
椅子に座る私の傍らに立ったフィンさんは、アレクを牽制するため、足枷の鍵を目の前にかざした。
「この足枷の鍵とお前の持つペンダントを交換する。アレク、お前はその位置から動くな」
ちょうど三階の階段の手前にいるアレクは、右手に持つペンダントを握りしめて、フィンさんが来るのを待つ。
この交換は私達にとっては不利だ。
なぜなら、動けない私がいるから。
私と自身の安全を確保しつつ、足枷を外さなければならないアレクと、ただペンダントを受け取るだけのフィンさん。
足枷を外す間に何かを仕掛けられたら、アレクも私もひとたまりもない。
それに、フィンさんは階段の手前に陣取る訳だから、逃げ道も封じられている。
大丈夫なのだろうか?
不安に苛まれ、私はそんなアレクをじっと見つめる。
アレクは一瞬目を見開き、私に何かを訴えかけた。
あっ!!
何かする気だ。
形勢を逆転するための考えが、彼にはあるようだ。
それが何なのか、わからないけれど。
今の私には、アレクの為に出来ることは何もない。
ただ、大人しく椅子に座り、アレクを信じて待つより他はない。
フィンさんはゆっくりと歩を進め、アレクのすぐ近くに立った。
お互いが右手に交換するためのアイテムを持っている。
ペンダントと足枷の鍵。
そして動きが止まり、フィンさんはアレクを誘導する。
「いいか、三つカウントして、お互いの左手に同時に置く。では開始する」
「いち」
「に」
「さん」
そして、ペンダントと足枷の鍵がそれぞれの左手に置かれた。
左手に足枷の鍵が置かれるやいなや、アレクは走り出した。
そして、フィンさんはというと。
自分の左手に置かれたペンダントを目の前に提げ、恍惚の表情でそれを眺めている。
その手にあるのは青銀色のリングのペンダント。
えっ?!
どういう事?
青銀色のリングは私が持っていて、あれは私のティアドロップのはずなんだけど。
「これが、後継者のリングか!!」
フィンさんは歓喜の声を上げ、更に高くそのペンダントを掲げた瞬間、変化が起こった。
リングが光輝き、その光がサラサラと下方へ流れ落ちるように見えた。
そして、そのペンダントは真実の姿を現した。
「なっ?!」
フィンさんは、驚愕して叫んだ。
その手に掲げたペンダントは、やはり私のティアドロップだった。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活
束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。
初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。
ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。
それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる