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第26泳

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 「ユキちゃん!」
 先ほどの赤い髪の人魚が、気風の良さそうな笑顔を窓から見せた。間延びしない呼びかけは、気風の良さを思わせる。もしくは、軍隊の上官だろうか。
「上がってきて」
「ハイ!」
 ユキは下っ端の兵隊風に戻り、緊張で口をむっと結んだあと、口角を上げて笑顔を作ろうとした。いつでも笑顔でいるようにと、有名人さん、ならぬマリンから習っていたのを思い出した。

 そして、グリンに向けて緑色の瞳をパチパチさせて、言う。
「うわ、うわ、うわ。ついにきたよ」
 グリンとリムも、つられてドキドキ、鼓動が早くなるのだった。

 マリンは読んでいた雑誌を閉じて、傍らの机の上にやさしく置いた。両手の指はグリンの右手に似て、探し物が得意な形をしていた。引っ張って伸ばされたような長い指に無数の指輪をはめているが、どれも細工が繊細という点で、同種の雰囲気を纏うよう気遣いが施されている。
 グリンは咎められることもなく、ユキに付いてマリンの前にやってきた。

「グリンじゃない?」
 マリンは、体をあずけていたハンモックから飛び上がって、顔いっぱいに驚きの色を浮かべている。グリンは沈黙してしまって、身じろぎもしないまま、顎を突き出して口を結んでいた。
「お知り合いですか」
 赤い髪を頭頂で不思議に結わえた人魚が、客人へのサービスにあたためた石を持ってきながら、にこりとした。
クッキーや紅茶などの食べ物類を摂りたがらない人魚もいるので、この街ではあたためた石をカイロ代わりに渡して、ハンモックでくつろいでもらうのが最大のもてなしである。

「従兄弟のグリンだわ。まあ、久しぶり」
 さっと寄ってきたマリンはグリンの顔をじいっと食い入るように見つめて、野ばらのように赤い唇から楽しそうな笑い声を漏らした。
「変わらないのねえ。びっくりすると固まるのも、そのままね」

 ユキは笑顔でいることも忘れて、しっかりと両腕に植木鉢を抱きしめたまま、ぽかんとマリンに見とれている。
 頬骨に沿って四つ並んだ宝石が、南国の海を閉じ込めたようだ。身の丈よりも長く伸ばした髪は熱帯魚みたいな色混じりの上、複雑に編み込まれて、まるでよくできた刺繍だ。首から上だけに限っても、美術館にいるのと変わらないほど、見るべきものがある。

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