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第24泳

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 二階や三階建てのほか、地下を深く掘っている家もあるため、見た目で一軒の広さを推し量ることはできない。
ある小さな家の、これまた小さな窓からは、澄んだ歌声が漏れてきた。地下に観劇の広場があって、のど自慢の人魚たちが集って出し物に励んでいる。
「ふとくてほそい、なが、みじか」
 グリンはぎょっとして、広場に続く丸屋根の家をチラリと見ると、視線をまっすぐに戻して、尾の動きを少し早めた。

 人魚たちは大勢いる。誰もがそのへんでお喋りをしたり、食べていたり、行商人が持ってきた品物を見繕っている者もいるし、屋根の上で考え込んでいるのか、寝ているのか、動かない人魚もいる。
 女の声しかしないぞ、とリムは海藻をしっかりくわえながら、耳をそばだてていた。
「アゴでたオコゼ、ないまゆげ」
 歌声は小さくなったが、リムには聞こえていた。

 一行は、長い下り階段に行き当たった。
「はじめてみる、造りだな」
 降りながらグリンが唸ると、ユキが言った。
「人工物にこういうのがあるんだよ。これ、本物の人工物かな」
 人魚に階段など必要ないので、崖下に家を建てても一向に問題ないのだが、敷地を大幅に無駄遣いするデザインが大流行していた。斜面をギザギザに整地するための技術屋さえ存在する。

 下り階段の先には、楕円の上半分を切り取って付けたような、玄関ドアがあった。大小様々な真珠の粒が斜めに線を作り、ドアノブにはシャコガイの殻が取り付けられて、見るも上品な趣だ。
「うわ、緊張してきた。しっかりしなくちゃ」
 ユキは手櫛で黄金の髪を整え、植木鉢の海藻がねじれていないか気にして、指先でちょんといじった。それからグリンに、緑色の瞳を向けた。
「これでいい? おかしくない?」
「いいと思う」
 何も変わっていないのだが、というのがグリンの内心だったが、深い緑色の目にぐっと見入られて、心のまま答えられる人魚などいないだろう。

 ユキは目を見開いて、ドアの前で深呼吸する。鼻から吸って、口からふーっと出すのを真剣に数回やる。この乙女心の気が済むまでは、グリンは観察するのも声をかけるのも悪い気がして、ドアに斜めにはしる真珠を眺めるふりをしていた。
 ドアの向こうにユキのおかしな深呼吸の音が聞こえてもおかしくはなかったし、リムは実際、背中で海藻をくわえながら笑いをこらえてフルフルと震えはじめた。
 グリンは背に震えるものを感じてはじめて、口の端をほんの少し上げつつ、やっぱり何も言わずに待つのだった。

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