碧ヶ岳の気まぐれな短編特集

不可解なピエロ

　サウンドミュージックが流れる。舞台へ躍り出たピエロは可笑しな曲芸を見せながらジャグリングしていった。一層、客の歓声が高まる。その中に、不安そうな顔をした五歳くらいの女の子が、ピエロの曲芸を眺めていた。

　出番も終わり、舞台裏。今は猛獣使いがステージでライオンに火が燃え移った輪をくぐらせている。

　男は、汗をタオルで拭いているピエロに声をかけた。

「今回も、大成功でしたね。」

　するとピエロは、不機嫌そうに男に目をやり、「あぁ、そうかもしれんな。」と、上の空で返事をした。

　不思議に思った男は、「何か曲芸で失敗したのですか。」と尋ねた。

「いいや。」

　きっぱり断ったピエロに、男はまたしても首を捻った。

「サーカスで、最前列に女の子。居ただろ。」

　どこか遠くをみているような目をしてピエロは話し始めた。

「ええ。居たような気もしなくもなくもなくもないような…」

「要するに、なんなんだ？」

　白々しい目を向けたピエロに、「いたような気もします！はっきり言うと覚えてません。」と男は答えた。

「あの子がさ、昔の僕に似ていたような気がするんだよ。」

　ピエロは想った。少しぼろいぬいぐるみを抱えたあの子を。お母さんはどうしたのか、なんて聞いても無駄な子供たちを。あの子を笑わせることができたら、どんなによかっただろうかー

　それとなく舞台をみると、あの女の子が爆笑していた。猛獣使いのライオンが何もないところでつまづいただけで。

　自分は、力不足なのか。

　ピエロは、大きく肩を落とした。