魔王様のお気に召すまま

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勇者?いいえ魔王補佐です

勇者のせいで世界がやばい

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「えー本日はお日柄よく、お忙しいところお集まり頂きありがとうございます。」

ニコニコと笑顔を浮かべながら魔王陛下の隣に立ち司会をする金髪の、無駄に爽やかな男に魔族立ちは胡乱げな眼差しを向ける。
それを心配そうに(ぱっと見無表情で)見つめる魔王に爽男__元勇者が悶えているのを知るのは本人と四天王だけである。

本日__暗雲立ちこめる魔王城で魔族の中で有力と謳われる魔族達と、四天王と魔王による世界征服会議が行われた。
散々自領を荒らしてくれた勇者の姿を一目見ようと、或いは嫌味の一つでも言おうとやってきた魔族達はその余りの爽やかっぷりに毒気を抜かれた。

「まず、私が考えてきた案を説明させて頂きます。お手元の資料をご確認下さい。」

資料、と言われた紙を真っ先に手に取ったのは魔族領の東側を治める四天王、東公だった。

「……これは、人間の棲息分布図か?」

低い、温度を感じさせない声に魔族達の背は自然と伸びる。それに物怖じせず勇者はにっこりと微笑んだ。

「いかにも。みてのとおり、人間達は『国』を作り、その中心に集まる性質があります。」

性質って、と心の中でツッコミを魔族達は入れつつ勇者を冷めた目で見つめる。こいつ、自分の種族なのに他人事すぎる。

「中心には国の権力者も勿論集まっています。しかし、大事なのはそこではありません。赤線で囲んでいるところをご確認ください。」

「……人は、余り集まっていないようだが。」

「そこは穀倉地帯__食料の生産を一手に受ける土地です。ここに、毒を仕込みます。」

さらりと告げられた言葉にギョッとしたのは北方を守護する北公のドライアドだった。それもその筈、ドライアドは大地から直接魔力を吸収することで生きる一族であり、その際に様々な栄養も吸収する。
__毒など仕込まれたら、たまったものではない。

「ああ、勿論毒というのは比喩です。正確には魔族には聞かない疫病、或いは人間においてのみ重大な事態に発展する疫病を仕込みます。__話を戻しましょう。」

ニコニコと訂正を入れながらも強引にそれかけた空気を戻し、勇者はなおも続ける。

「穀倉地帯発症の疫病はじきに中央に流れ、ジワジワと人間を追いつめます。首都が落ちたらもう後は簡単です。まず皇帝は事態を打破しようとありとあらゆる国に応援を要請し、治癒魔術師や研究者を集めるでしょう。それを、叩きます。」

タン、と机におかれたビショップの駒を指で軽くついて倒しながら勇者は楽しげに嘯き続ける。

「あらゆる国の頭脳を潰した後は勝手に疫病が広がるのを待ちます。そして少しずつ人間の里を襲っていき、残り少ない食料をも奪います。いつしか飢餓感と絶望感から民衆は勝手に王家に対して憎しみを抱き反乱を起こすでしょう。後は勝手に疲弊していくのを待って程よい頃に__」

一瞬、時が止まった。
ニコニコと笑っていた勇者の顔が崩れ、表情が消える。冷たい、けれども仄暗い炎を瞳に宿しながら勇者は地の底を這うかのような声で囁いた。

「__魔王軍で総攻撃をしかけます。」

ビリビリと、恐怖が伝播する。勇者の殺気は魔族にとって毒そのもの。まともに浴びたら下級の魔族など一瞬にして消滅する。
幸いにも、ここにいるのは全て上級魔族か高位魔族。消滅こそしないものの、恐怖の余りガタガタと身体が震えるのを、魔族達は止めることが出来ない。

「長い飢えに苦しんだ民衆は反抗する気力も無いでしょうし、神に対しての祈りなどもあるはずありません。簡単に掌握出来ると思いますが、いかがでしょうか。」

「……割り切り方えげつないな……。」

東公の漏らした言葉にそうでしょうか?と軽く返して勇者は嗤う。

「私は魔王の補佐ですよ?なぜ人間に肩入れしなくてはならないのです?」

その言葉に、先ほどまで無言を貫いていた影がゆっくりと動き出した。

「……補佐いい。そこまでしなくて。」

「陛下……!?」

冗談抜きで暫く聞いてなかった魔王の声に魔族達は色めき立つ。それにほんの少しだけ眉を顰め、魔王は淡々と呟いた。

「一応、補佐が上げた案もあるがとりあえずはそこまでやるつもりはない。先ずは帝国を潰す手段を皆考えるように。……我は別に人間を殺戮したいわけではない。」

「申し訳……ありません……。」

シューンと頭を垂れた勇者に東公はひっそりと頭を抱えた。
__魔王より積極的に人類を滅ぼそうとする勇者ってなんなんだ。

心の中で湧き上がる疑問にそっと蓋をして、四天王達はそれぞれ遠いどこかをそろってみつめた。

__今日も魔王城は平和です。
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