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いざバルディオス帝国XlV

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「…ルキウス皇子?」

今、抱いて欲しい…って言ったか?
色々重なってしまったのが理由だったが、ルークとの話し合いを後回しにしてはいけなかったようだ。

「えーっと?少し、落ち着こうか?」

そう言う自分自身が落ち着いていなかった。
内心の焦りを隠せ無いまま、ルキウスに近付く。辺りを見渡し、ベッドにある毛布を素早く取って相手の肩に掛けてやる。

「……抱いて、下さい。」

まつ毛を伏せて、もう一度同じ言葉を繰り返すルキウス。

「それは、君の意思?」
「…………。」

試しに問いかけるが、肯定とも否定とも取れる無言。
これが全く違った状況なら、身体を重ねるのもやぶさかでは無い。何と言っても、ルキウスはファビアンとも張れる程美人だ。泣き腫らした潤んだ瞳と唇は色香を放っている。

タチの性なのか、つい相手の胸元や見え隠れする太腿に目が行ってしまう。
待て待て、流石に他人ひとのネコに手を出せねーわ。

「…理由は知らないけど、朝にあんな話しが出た訳だ。ルークと何か拗れてるだけだよな?もう一度、2人で話してみたらどうかな。」
「話しは、もう終わったと仰ったのです。」
「え…?どういう…」
「…離縁するのは決定事項だと。私に、皇子なのだから良い伴侶が必要だろう…と。『アルフレッドは、一度関係を持てばその後も見捨てない。今すぐ、抱かれて来い』と。」

はあ?!何だそれ?
確かに、ラティーフの様に関係を持ってから始まった相手も居るが。ルークに対してふつふつと怒りが湧くが、直ぐにそれがスッと冷める。

ルキウスに対して悪感情があるなら、黙ってさっさと離縁すれば良い。それか、新しい正室を迎えて優遇すれば良い。態々俺の前で離縁する話しを持ち出したのと、ルキウスを送り込んで来た事。

座り込むルキウスの手元に目を落とす。薬指に光る指輪はそのままで、込み上げる涙を堪えるいじらしさ。抱きしめてあげたい程だ。
大方、俺がルキウスを哀れに思って相手をするのだと目論んだのだろうか。

…俺だって、弟のミカエルがハレムに入るとしたらルークなら安心出来ると思った。もしかしたら、ルークも似た様に考えたのかもしれない。

部屋の壁を意味無く見つめ、じっくりと思案する。
勢いのままルークに怒りをぶつけても、解決出来ない気がする。話し合いも朝のように逃げられたら終わりだ。ならば。

「…ルキウス皇子。」
「はい。」
「ルークの所に行こう。」
「え?」

此方の声掛けに覚悟を決めた表情が、一転驚きに変わる。「でも…」「あの」と戸惑う相手へ安心させる様笑みを浮かべた。

「少し試してみようと思う。上手くいかなかったら、また別の方法を考えるよ。何も言わずに付き合って欲しい。」
「はい。…お任せ致します。」

頷くルキウスを連れ、寝室を出ようとするが足を止める。ネグリジェ姿の皇子を振り返り、少し待ってくれと言い自分だけ部屋を出る。
寝室の前室に控えていた使用人を呼び寄せ、部屋と廊下の人払いをする。それと、呼んでほしい人物への声かけも頼む。

「お待たせ致しました、アルフレッド様。」
「来てくれてありがとう。助かったよ。」
「いえ、それで一体…」

時間も経たずにやって来たエドウィンに安堵する。ルークの部屋まで行くのに、ルキウスと2人きりは不味いと判断したまでだ。正室のどちらかと頼んだので、特にどちらでも構わなかった。

のんびりしてもいられないので、現在の状況を簡単に説明する。
エドウィンは寝室に居るルキウスの姿に驚いていたが、自分の着ていた羽織りを手渡し何か話し掛けていた。仕える国の皇子の悩ましい姿を見たのだから、冷静では居られないだろう。
反対に世話をされ慣れているらしいルキウスは、恥じらいも無く自然に受け入れていた。

「じゃあ、行こうか。」

部屋を出ると、人払いを済ませた廊下は最低限の護衛以外の姿は無く静かだ。
ルキウスの案内により、着いた部屋の扉を開ける。室内に見える従者を手招きし、室内から主人以外の人を出て行かせる様に伝える。

更に1人の護衛には「外で待機して、ルークが部屋から出たらどんな事でもして足止めしてくれ」と頼む。かなり怯んでいたが、俺の命令だと言うと最後は受け入れてくれた。

「失礼する。」

ノックもせずに少々乱暴に扉を開ける。
窓際に座るルークが此方に気付き、緩慢な動作で顔を向けて来た。

「…ああ、アルフレッド。終わったのか?」

朝方の彼と同様に、読めない表情だった。だが、僅かに下がる眉に悲しみを感じ取る。

…やっぱりな。ルキウスの事、諦められないんだろ?



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