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動乱の舞踏会
しおりを挟む床に転がりのたうつフレデリクを見下ろすアルフレッド。
騒然とする室内には、フレデリクの側室、アンリ、ジレス…他に、宮廷執事、休憩していたタチ数名。
フレデリクの正室どころか側室は、Sクラスのアルフレッドに割って入れる筈も無く固まって動けずに居た。
謝るなら許してやるか?
脇腹を押さえて荒い呼吸を繰り返す王子は、やっとの事で此方に顔を上げてくる。想像では怒りか憎しみかをぶつけてくると思うが、思っていたより情け無くも下がった眉が目に入る。
「…よ、くも!この僕に対して何たる無礼を!」
「あ?」
「…っひ?!」
頭上から手を振り上げる動作を見せるだけで、目を瞑って頭を庇い縮こまる。
この世界のタチに有りがちだが、基本甘やかされて育つ為、ネコに手を出すのに躊躇いは無いのに打たれ弱いのだ。
それでも立場の有るタチならば、しっかりと教育を受けているだろうが、この王子は元来の性格が大きいのかもしれない。
「悪いな。田舎者なので、手が早くてな。」
「…っこ、この様な他国の夜会で、問題を起こす気か?!」
え?自己紹介か?
フレデリクの発言は、見事なブーメランと言えるだろう。呆れて溜め息を漏らしそうだが、冷たい雰囲気を崩さず見下ろし続ける。
「そ、それに、ファビアンの父上に知られたら、お互いに困るだろう!」
無意識にその場にしゃがみ込み、目の前まで近付くと相手の頬を引っ叩いた。
パアンと小気味良い音が響く。ポカンと口を開けて固まるフレデリクに、続け様に反対側の頬を打った。
相手の側室の短い悲鳴が聞こえる。駆け寄って来て足元に縋り付いてくるが「離れろ」とジレスがあっさり引き剥がしてしまう。
…ごめんな、側室くん。君は悪く無いよ。
「…何、するんだよ!痛いだろ!あり得ない、顔を叩くなんて、気でも触れているんじゃないか!…っ」
大事に大事に育てられてきたタチだ。痛みと衝撃は計り知れない。
とうとう涙を浮かべて、頬を押さえながら鼻声で騒ぎ立てるが、一睨みで口を噤む姿に嘆息する。
「…何で叩いたのか分かるか?」
「っお前…シュ、シュタルト殿を蔑んだからか…?」
「おい、クソガキ。言葉遣いも改めろ。」
「………くっ、シュタルト殿を、蔑んだからですか?!」
やっべ。一応一国の王子に、クソガキって言っちまったわ。
フレデリクの言い方的に、先ほど「田舎者」と口走った事が原因だと思ったようだ。
自分としては、例え呼び捨てにされようと人としての敬意が有れば構わなかった。だが、この王子は最初から敵意しか無かった。
「まあ、確かに出身は小さな国だからな。その点はどちらでも良い。」
「…じゃあ、どうして叩いたんだよ!…まさか、昨日か?どうせバルディオス語が喋れないと言った事なのか…ですか?」
「それも、どうでも良いな。」
思い付いたのか表情を明るくする王子に、首を振って否定を返す。あっさりしたアルフレッドに反し、後ろに居るジレスとアンリから不穏な空気を感じる。
フレデリクの側室2人の前に仁王立つジレスはまだしも、身軽なアンリは苛立たしげに足踏みしていた。
「…あ、分かった!」
「ああ、言ってみろ。」
「僕が、ファビアンの伴侶になると言った事だな!」
「……後は?」
「…?え、あるのか…ですか?」
ダメだこいつ。
あーあ、手を出し損だったな。
やはり、自分以外のタチは根本的な部分が違う。
どれだけ聞いたとて『臣下であるアンリの気持ちを無視して、手を上げようとした』とは出て来ないのだろう。次いでにギー公爵と問題を起こした事…が、出て来ればマシだったけれど。
大げさに息を吐くと、ビクリと肩が跳ねる王子。此方を警戒する様になっただけ、今までに比べれば良いのか悪いのか。
「もう良い。フレデリク殿下、この件は仕舞いにする。だが、今後の振る舞いによっては此方も対応を考えさせて貰う。」
「なっ…「それと」…に」
相手の発言を遮り、更に言葉を被せる。まだ言い返そうとする元気があるならば、とことん心を折っておこう。
「王族として此方へ手を出した事への責任を求めるならば、俺も貴殿の無礼に対して抗議文を送る。S級として、ジルックェンドの国王陛下宛にだ。」
「……っ分かっ…りました。」
最後は力無く項垂れるフレデリクは、言葉も無いようだ。父親に告げ口されるのは嫌なのか、すっかり大人しくなってしまった。
理由を理解させられず反省は促せなかったが、とりあえず俺の溜飲は下がった。うん。
話を切り上げ、厳しい顔付きだったフィッツ兄弟に声を掛け部屋を出て行くのだった。
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