91 / 104
続くな舞踏会
しおりを挟むセカンドダンスが終わり、少し時間を置いてからハレムに所属しないネコのみが参加するダンスがあるらしい。
頑張ったチコの為に、それまでは休憩をしようと東側のコーナーへ向かう。道すがら、何度も呼び止められては挨拶を交わすが、長々拘束される事は無かった。
話の内容で多いのは、タチは自己紹介と側室の紹介。ネコ同士は、セカンドダンスの演奏についてやお互いの衣装の事。
軽食を楽しむコーナーに着き、丸テーブルを囲み椅子に腰掛ける前に近くの執事が声を掛けてくる。食べられない物があるか、アルコールの有無などを確認された。
明日も参加する為、アルコールは無しに。ラティーフのみ肉を控える事を伝えると、直ぐに執事は下がって行く。
とりとめない会話を楽しんでいると、少しだがチコの緊張も解れてきたらしく笑顔も増えてきた。右隣にはラティーフ、左隣にはジレス、目の前にはチコが腰掛けている。
立たせたままのアンリに申し訳無く思うが「騎士科の訓練に比べればむしろ楽な位です」と良い笑顔が返ってきた。大きく頷くジレスを目にし、自分は騎士科に入れないなーと思う。相変らず、ザッハーは徹底して輪に加わって来ない。
何が運ばれてくるかなー。
自分達の出番を終えた事で、大分気を抜いていた。軽食の前に執事が目の前に置いた飲み物は、バルディオス産の香草が使われた紅茶。のんびりと香りを楽しむのに集中する。
「…失礼、ご挨拶をしてもよろしいですか?」
「……ええ。」
気を抜いていた為に反応が遅れてしまった。今までと同様に挨拶のみかと思い、立ち上がるのを止めて会釈する。
…うっわ。振り過ぎじゃないか。
鼻をつく強い香水の匂いに顔を顰めそうになる。タチが苦手なチコは目を伏せたままで、ラティーフとジレスは見事にポーカーフェイスを貫いていた。
「…先ほどは、アーベンライン伯爵が失礼をしたと聞きましてな。彼らは私の懇意の者達で、代わりに謝罪に参りました。申し訳無い。」
丁寧に頭を下げて来るタチに「いえ」と返事を返す。
アーベンライン伯爵…?ああ、あの新興貴族の代表者だよな。
このタチが、何で謝ってくるんだ?
謝罪の後に始まる自己紹介で、直ぐに疑問が解消される事になる。
「…私はバイロン・ギー。公爵位を賜っております。バルディオス帝国の出身ですので、どうぞよしなに。」
「此方こそ。」
公爵…あの一団より高い爵位だな。もしや、新興貴族達のトップとかか?
相手の雰囲気は品が良いとは決して言えない風貌だが、自信に満ちているように見える。理由は分からないが、此方の名乗りは無く終えてしまいたい。
そう思うほど、受け付けない何かを感じた。
年齢は50~60歳程度だろうか。熊の様に濃い髭、恰幅の良い体型に燕尾服が合っておらず、腹がはち切れそうだ。汗を掻きやすいのか、額はシャンデリアの光を受けて照りが目立つ。
アルフレッドにとって、相手の見目よりも後ろに控える側室達の暗い表情が気になっていた。
「…美しい方々ですね。閣下の側室ですか?」
「ああ、そうです。半分は使い古していますが、一番新しいのは具合は悪く無いでしょうが。」
おもむろに指を指して、まるで持ってきた玩具の内容を伝えているかの様だ。上流階級はもう少し物言いは上品だが、公爵の態度はタチとして珍しく無い。
だが、それとこれとは別だ。一言物申しても構わないだろ?
少々冷静さを欠いた発言をしようとした。…が、公爵との間に割り込んできた人物に遮られてしまった。
「っ何故会話を楽しんでいる?このタチは無礼にもファビアンに求婚したんだぞ!」
「…は?フレデリク…殿下?」
思っても居ない人物に、公爵に湧き上がっていた怒りが鎮まる。息を荒げ眦を吊り上げた、今日は関わらずに過ごせると思って居たジルックェンドの王子。
目を点にするが、現れた王子の発言を思い返す。
「ファビ…アンに求婚をしていた?ギー公爵が?」
「そうだ!それも知らずのうのうと会話に興じるとは、無知にも程がある。」
マジかよ。
突然クラスの高い者の会話を遮り暴言を吐かれたのだが、気にせず爆弾発言へ興味を向ける。フレデリクの登場に固まって居た公爵も、会話の内容に思案していたようだ。
「…ファビアン?……ああ、デルヴォー家の子息の。確か、正室への入室をデルヴォー家に願ったものの、ハレムに入ったからと断りを入れられましたな。仕方無いので、その弟君を貰い受ける予定ですが。」
「貴様の様に分不相応な者がデルヴォー家に、ましてファビアンを望むなど恥を知れ!」
「ふむ。もしや、貴殿はファビアン殿の夫君ですか?」
「…っ。いずれファビアンの伴侶となる者だ!」
いや、ちょっと待て。
色々と初耳だったが、とりあえず声を荒げる一国の王子は衆目を集め始めていた。
視界に映るジレスとアンリの驚きに混じる呆れた視線、チコがポカンと口を開ける姿、ラティーフはティーカップの柄を見つめる事に徹していた。
はーい。俺がファビアンの夫です。
フレデリク王子ー、国の代表だよな?何やってんだよ。
いや、お前の伴侶にさせねーわ。
つか、ジルックェンドの王子が夜会で他国の者に怒鳴るな、喧嘩売んな。
現実離れした状況に、頭を抱えるのだった。
11
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる