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続く舞踏会
しおりを挟むクラシカルな円舞曲に合わせ、タチとネコが優雅に舞う様は夜会を美しく彩った。
特に人々の目を引いたのは、
セリアルの国章が描かれたマントを羽織った若き王子、
バルディオスの青き宝石と称えられる第1皇子と夫君の一対、
見目麗しいSクラスのタチとフォーラン出身と分かるストールを身に付けた美少年。
最後の彼らが目を引いたのは、タチに微笑を向けられるネコの表情だった。神聖国家フォーラン出身であるシャヒーンの子息は、たった今恋に落ちた様に夫を見つめ返していた。
上流階級の観衆達は、品を崩さないまま密やかに囁き合う。
(…素敵な組み合わせですね)
(シュタルト様…でしたね。あんなタチの御方なら、あの様になってしまうのも無理も無い。)
(子息を紹介しなくて良かった…。側室達を見たか?そこらのネコじゃ入室が難しそうだ。)
(…私がですか?いえいえ、分不相応です。)
だが、新興貴族と呼ばれる一団は少し反応が異なっていた。
(…ほう、Sクラスだが貴族じゃないと聞いたぞ?)
(我が家の七男なら一族で一番の美人だからな、気に入られそうだ。)
(流石に王族に声は掛けられんが、あのSクラスの優男ならいけるんじゃないか。)
(お父様、僕あの方とお話ししてみたいです!)
どの家でも、ネコの子息をハレムに入れてやりたいと思うのは同じだ。だが、国の公式夜会で相手を見つけようと思うのは、社交の場に慣れた者ほど控える事なのだ。
様々な声が含まれた周囲の騒めきなど知らず、アルフレッドは割とダンスを楽しんでいた。足を踏んでしまう心配など一瞬で、身体は勝手に曲に合わせて相手をリードしている。自分の今世での器用さに、今が最も感謝した瞬間かもしれない。
頬を染めて此方を見上げてくる瞳は熱が籠もり、何とも愛らしい側室。
「…ラティーフ、それじゃあいくよ!」
曲の盛り上がりに合わせ、相手の両脇に手を入れて持ち上げくるりと一回転をする。わあっと観衆からの歓声が耳に心地よい。パートナーのネコ達の衣装が翻り、華やかな場面となっただろう。
降ろしてから、最後のステップを踏み出す。確か、曲が終わったらタチがネコの手を取って甲に口付けて、お互いに一礼して終了…だったよな。
「…旦那様。」
「うん?」
宮廷楽団の演奏が小さくなりやがて止む。観衆の盛大な拍手と共に、タチがパートナーへと距離を縮める。
「…心臓が、おかしいんです。」
「え?もしかして、疲れた?大丈…」
「…だって、旦那様を見ていると、息が出来ない…。」
相手の手を取り掛けて離し右手で頬に手を添え、反対の腕で腰を引き寄せる。顔を傾けて、瞳を見開くラティーフの唇に自身を優しく重ねた。
意識の外で若いネコ達の黄色い悲鳴が聞こえ、冷静になって離れた時には少しだけ後悔する。
雰囲気に流されてしまったが、4大国の上流階級勢揃いの場所だった。一人だけ別の動きをしてしまい、相手に恥をかかせたかとラティーフをそっと見下ろす。
おっと…?
首元まで真っ赤に染まり、両手で口元を抑え小さく震えるネコ。
「…えっと、ごめんな?」
「っ!だ…い、じょうぶ…で、す。」
声を掛けると、ビクリと上がる肩と勢い良く頭を横に振られる。腕を差し出すと、俯きがちに手を回される。いつも涼やかで張り詰めた美しさのラティーフが、緊張と困惑を滲ませる姿に申し訳無く思う。
調子に乗って、公衆の面前でキスしてすみませんでした!
側室を困らせてしまったかと内心焦りつつ、自分を待つだろうハレムの居る方向に行く前に立ち止まる。
「…あの、飲み物貰ってくるから待ってて。」
「はい…。」
ネコのみが行うセカンドダンスが始まるまで、少し準備時間がある。ぎこちなく頷くラティーフには先に他の子と合流するように告げてから、近くのバーカウンターに足を向ける。
すれ違う若いネコに熱い眼差しを送られては笑みを送り、知り合った上流階級のタチに声を掛けられ軽く挨拶を交わす。
セカンドダンスの準備で人の少ないバーカウンターに着く頃には、一つ息を吐き頭は冷えてきていた。
戻ったらラティーフにちゃんと謝ろう。うん。いや、まずはセカンドダンスのチコの応援だな。そろそろ始まるし。
飲み物を頼もうとバーテンダーに近付くが、思っていない状況に足踏みさせられた。
知らない内に自分を囲む一団。
「初めまして、ご挨拶させて頂いてもよろしいですかな?」
「…ええ、構いませんが。」
少し離れた場所のバルディオス近衛兵が、此方を訝しげに見つめている。にこやかに手を差し出してくる目の前の壮年の男性は、特に階級や特別な装束では無いので一般の貴族に見えた。
社交場に慣れないアルフレッドの側に、チコ以外のハレムの者が居れば直ぐ様距離を取っただろう。
バルディオス帝国第1皇子の学友であり、その夫君の友人。若いタチで、煌びやかなハレムを引き連れて来た唯一のSクラス。上流貴族でも気楽に接するのは躊躇われる存在。
普通ならば、折を見て人伝に挨拶を交わす程度に留めるだろう。まして、大人数で囲んで下卑た笑みを向けるなど到底理解し得ない状態なのだ。
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