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真夜中

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フレデリク王子との確執はありながら、バルディオス皇帝とは友好的な関わりは持てた晩餐会が終わり、寝泊まりする城へと戻って来た。
ファビアンは用があると何処かに向かい、エドウィンも確認したい事があるとラティーフを連れ出してしまった。正室二人が不在とは言え、第二夜の舞踏会を前に城内は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

忙しい中でも、ルークとルキウスの様子がおかしいと使用人の噂が聞こえたり、チコがダンスの練習をし過ぎて倒れかけジレスが嗜めたりと…何だか忙しない様子である。
他にも色々と前日の準備も重なったのとチコの体調に気を取られ、アルフレッドは後ほど使用人の噂を聞き流した事を深く後悔するのだった。

転移門で移動して来た側室達と食事を終えて、寝泊まりしている部屋の寝台に寝転がる。普段感じる事の無い疲労も相まり、直ぐに眠りに落ちるだろうと思っていた。
ただ、誤算だったのは疲労感と共に湧き上がる性的な欲求。

すっげえムラムラする。え?抑制剤の効果いつもより薄いな…うーん、疲れてるからか?
不味いな…。ファビもエドウィンも居ないだろ。ラティーフもエドウィンが連れて出てるし、ジレスも明日舞踏会に参加する訳だから疲れさせられない。
チコは舞踏会に参加する以前に、夜の相手として未だ含んで居なかった。

トイレで一人寂しく処理するべきか、無理矢理寝てしまうか…強く目を閉じた時だった。
初めに感じたのは、お腹へ掛かる人一人分の重み。

『…サワグナ。』

仰向けに布団を被っていた身体の上に、跨り見下ろす人物を開けた目に移す。いつの間に入って来たのか、この一瞬でどうやって自分の上に乗ってきたのか疑問が浮かぶ暇も無い。

月夜を楽しむ為に開けていた窓から差し込む光に照らされた人物は、黒い髪、黒い布で口元を覆うが瞳は黒、4大国には存在しない艶やかな褐色の肌。身体を覆う漆黒のローブは、まるで闇に溶け込む様だ。

「………誰?」
『コエヲ出スナ。』

絞り出した質問へ、直ぐ様冷たい声音が落ちてくる。動きたくても動けないのは、相手の右手に握られた小刀が首元に当てられていたからだ。
暗殺者?…でも、何で?此処ってルキウスの居城だから警備厳重だったよな。

『今カラシツウォンスル、答エタラコロスナイ。』

聞き取りずらいバルディオス帝国語に、集中して耳を傾けながら慎重に頷く。何か聞きたいって事だよな。
じっと見下ろす氷の様に凍てつく瞳を見上げ、相手の感情を読み取ろうと観察を続けていく。

『…バルディオスノ城ハカクシ通路ハ何処ニアル?』
『隠し通路?え…いや、知らな…知りません!』
『…ウソツクナ、デイリーシテルオナエガシテルアタリナエ。』
『?!ま、待って待って、分からなかったから、もう一回言って下さい?!』

素直に答えた筈だが気に入らなかったのか、暗殺者の苛立ちに慌てて言葉を重ねる。怒らせて相手の手元が狂えばお陀仏だ。二度目の人生うっかり殺されましたじゃ溜まった物では無い。
相手の動きが止まり、一度呼吸を繰り返し落ち着きを取り戻した。

『オマエが、城ニ何度カデイリシテタワカル。ハヤク言エ。』
『…?…ええーっと、出入りして無いです。昨日バルディオスに初めて来た訳なんで。』
『ナニ?』

黒い瞳がゆらりと光を宿す。また声を荒げるかと身構えるが、何故かじっと顔を凝視してくる。首筋に当たる小刀はそのままで、反対側の手袋を着けた左手がアルフレッドの額に掛かる髪を払う。

『…チガウ。』
『え?』

髪に隠れた瞳が露わになり、暗殺者の瞳がカッと見開かれる。

『オマエ、ルーク・フェルナンド…チガウ?』

え?マジか。

『あー、俺はアルフレッド・シュタルトですけど。』
『……………………$€#∞≡▼∃⊆…』

首筋に当てられていた小刀が離れ、相手が聞き慣れない言語で呟く声が耳に入る。たぶん十中八九ルークと間違えられたと思うが、これからどうするつもりなのか。
相手の反応を待っていれば、左手に持っていた小刀が眼前へと突き付けられた。思わず唾を飲み込み、ドッと背中に汗が吹き出す。

『ダマテイラレエルカ?』
「?」

刃先を突き付けたまま、此方の心情など知らず暗殺者は淡々と続ける。

『今アッタコト、ゼンブナイ。黙テレバコロサナイ。』
『…わ、分かった!誰にも言わない。』

口先だけの約束で信じられるか?
アルフレッドにとって、今生き延びる方が先決である。相手が何者か?何故ルークが狙われたか、どうやって此処まで来たか等…考えられる余裕は無かった。

『ウソハ分カル。コレカラ見張リイル、ダレカニ言エバワカル。コロス。』
『…分かった、本当に秘密にする。俺がバルディオスに居るのは明後日までだし、その後は直ぐ学園まで帰る予定だよ。帰ってからも絶対口外しない。』

なるべくゆっくりと真剣な口調を心掛ける。見張りが付くのなら、本当に誰かに伝えるのは難しいらしい。大変な事になったが今は従うしかない。
眼前の刃先が離れ、小刀は暗殺者の懐に仕舞われる。安堵と共に息を吐き出し、普段と比べ体温が上がっているのを意識してしまう。

相手が寝台から降りたのを確認し、未だ緊張する上体をぎこちなく起こしてみた。ほんの一瞬瞬きをしただけで、室内には暗殺者の姿は見えなくなっている。

「………居な、い?」

寝台から降りて部屋を見渡してみると、やはり人の気配は感じない。だからと言って、安心は出来なかった。



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