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エドウィン・キャベンディッシュ視点II
しおりを挟むアルフレッド、ファビアンと別れ、案内された会場へと向かったエドウィンは気楽に足を進めていた。幼い頃から慣れ親しんだバルディオスの宮城の為、緊張や躊躇いは無い。
城内に配置された護衛騎士達は皆、騎士団長である産みの正室ははの部下ばかり。目が合えばお互いに会釈し、声を掛けてくる者も居る程だった。
「此方でございます…どうぞお入り下さいませキャベンディッシュ様。」
「ああ、ありがとう。」
従僕に案内され入場したのは、立食形式の会場であった。
各家代表のタチと付き添い一名が参加する皇帝主催の会場とは異なり、此方の人数は家によって異なる。第2正室以下に連れられた幼いタチや、老齢のタチと幾人かの正室や孫…服装や勲章で家柄は分かるが、組み合わせは一目で判別が難しいだろう。
とは言え、バルディオス上流出身のエドウィンにとって、たった一人での参加でも気後れは微塵も無かった。
執事から適当に飲み物を受け取り、主催者の入場を待つ間直ぐ様各所から挨拶の嵐に見舞われた。見知った騎士団の関係者、上流貴族との歓談、ハレムに入室した事への祝辞への返答であっという間に時間は経ってしまう。
会場内が温まって来た時、学園ケラフの同学年の生徒を見つけのんびりと会話を楽しんでいた。
「…あ、そういえば先ほど風紀委員長も見かけましたよ。」
「風紀…ライヒテントリット卿か。お会いしたら挨拶をしなければ。」
「うーん…。」
何処に居るかと会場内に目を向けていると、同級生の表情が曇るのに気付いた。
「何かあったのか?」
「いや、気のせいかもしれませんが…。何となく、普段よりも元気が無かったような?」
「…そうなのか?」
エドウィンの眉根が寄り、同級生は慌てて否定するかの様に顔の前で手を振る。
「あっ、でも、ただ緊張されていただけかもしれませんよ?考え過ぎだったかも。」
うんうんと頷く同級生の仕草は、何か少し態とらしくさえあった。やはり心配なので、会えたら様子を見てみようとエドウィンは思った。
持っていたグラスが空いたので近くに居た執事に目配せしようとするが、会場の入り口が騒がしく感じ手を止める。同級生もそれに気付いたようで目を向けると、何を思ったか無言でエドウィンの手を引いて柱の影へと連れて行く。
「…?どうかしたのか。」
「しー…。声を低めて下さい。嫌だなあ、あんな人達も来るのか。」
柱からそっと顔を出す同級生の後ろから、同じように顔を出す。10数名程の集団だろうか、大きな声を上げて笑ったり執事を怒鳴りつけて飲み物を催促している。入り口付近で立ち止まってままなので、後から来る参加者も困惑していたが、集団の中にタチが居る為注意しづらい様だった。
「…確か、新興貴族の一団か?」
「そうですね。流石に皇帝陛下主催には呼ばれ無かったようですけど、全く無視は出来なかったんですね。此処数年で勢いが増しましたから。」
金や裏の工作で地位は買えてしまう。それでも、正式な上流貴族のパーティーには呼ばれ無かった者達だ。だが、力をつけてきて第2会場の晩餐会には参加出来たらしい。
あまり気分は良く無いが、この調子ならば三日間姿を見ることになる筈だ。
「…あー、嫌だ嫌だ。とにかく目を付けられない様にしましょう。キャベンディッシュ卿はハレムに入っているから大丈夫ですが、見目の良い独り身は気をつけないと。」
流石に皇族主催の場で問題は無い筈だが、そうも言えないのが貴族社会の常識が通じない新興貴族達である。同級生に軽く同意し、柱の影でこそこそ話を続ける事にした。
新興貴族の集団から距離を取り会話に興じていると、会場の楽団が曲調を皇族用の物へと切り替えた。入り口から入場して来る麗しい面々は、バルディオス産の絹や宝飾をふんだんに身にまとった高貴な人々。
会場の中央まで着くと、側の執事が口を開く。それと共に、楽団の奏でる楽器はハープのみとなった。
「…初めに入場されました、バルディオス帝国第2正室…フォルクマー・バルディオス皇后殿下です。」
「次に…バルディオス帝国第6正室……~~殿下です。」
二人の皇帝正室が紹介されると、会場内のタチが頭を下げてネコは膝を落とした。新興貴族達が、横柄に小さく会釈したのをエドウィンは見逃さなかった。
正室二人の紹介が終わり、背後で待機していた皇子たちが前へと進み出た。
「続いて、バルディオス帝国第2皇子…メルヒオール・ガイウス・バルディオス皇子殿下です。」
美貌の皇子に会場の至る所から溜め息が聞こえる。バルディオス皇族の中で、フォルクマー皇后の産んだ皇子達は特に容貌が優れていると有名であったからだ。
「次に、バルディオス帝国第5皇子…マルケッロ・ガイウス・バルディオス皇子殿下です。」
続いて紹介された名前に、今度は会場内で2つの反応が起こった。驚愕と称賛だ。称賛は、天使の様な美少年ぶりへ。驚愕はと言うと…。
エドウィンの隣に居た同級生は、引き攣らせた口元を手を添えて隠していた。
「…マルケッロ殿下、とうとう公の場に出てしまいましたね。」
「年齢としては適齢だろう。…今日だとは思わなかったが。」
エドウィンも感情を押し殺すのを努力していた。
マルケッロ皇子は今年12歳。あと数年経てばバルディオス社交界の華となるだろう。容姿だけならば。
ただ、バルディオスでは皇族に近しい者は全員が知っていた。物凄く良い意味で腕白な悪戯っ子。マルケッロ皇子専属の教育係の変更三十名余り。バルディオス皇族一の問題児であった。
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