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フレデリク・フォンテーヌ視点
しおりを挟む「勝手に口を開くなよ。」
「承知致しました。」
12歳の歳に、父王に無理矢理ハレムに入れられた第2正室を睨み付ける。15歳の現在も正室1人と側室2人のみ、タチの王族としてはハレムの人数が庶民以下である。
夜の営みの際には、キスもしない。愛を囁かない、声を出させない、うつ伏せにさせて顔を見せない様にしていた。
そんな調子なので、側室の1人は伏せる事が増えてしまった。だがそれを、フレデリク自身は意に介さない。
バルディオス帝国で建国を祝う夜会では、ジルックェンド国からの代表を務める事になった。最初は次期国王の兄が行く予定だったが、どうしても自分が行きたいとごねて実現出来たのだ。
理由は一つ、最愛の従兄弟であるファビアンが夫と共に参加する事。
ファビアン・デルヴォーは、一つ年上の美貌の従兄弟。物心ついた時には、大人になったら一緒に暮らすのだと決めていた。第1正室にファビアンを戴いて、他はファビアンの体調が良くない時の替えにする。いっそ二人きりになりたい…。
従兄弟同士での婚姻は不可能だが、自分が王位を継いで法を変えてしまえば良い。
そんな中、ひと月前にファビアンのハレム入り予定が耳に入った。相手はバルディオス帝国の新興貴族だと言う。年配で正室を甚振り殺してしまったタチ…最悪だ、ファビアンを救わないと。
父へと言上し、ファビアンの父であるデルヴォー侯爵にも何度も会いに行った。自分が王位を継いだら、第1正室に迎えるから待って欲しい…と。
返って来たのは、父王の呆れ顔に叔父上の冷笑のみ。特に叔父上の「子どもの遊びに付き合えん。」と言う声はあまりに硬かった。他の兄弟と比べ、何故か叔父上からあまり好かれて居ないと思っていたが…。
それでもファビアンのハレム入りを止めようと模索し続け、連れて逃げ出そうかとも考えていた日々。
晴天の良い日だった。兄が晩餐を伝える様にあっさりと口にしたのは、絶望的な一言。
『ファビアンがハレムに入ったそうだが、フレディは知っていたのか?』
『はい……?』
そこからは1日記憶が無かった。
口に何を詰め込んだのか、周囲と何を話していたのか…。
その翌日には、デルヴォー侯爵邸へ馬を走らせていた。少し前に会った叔父上は、普段の姿が幻だと思う程晴れやかな表情だった。
『ああ、フレデリク王子か。君も祝いに駆け付けてくれたのか?嬉しい限りだ。』
ファビアンの夫となったのは同じ歳のアルフレッド・シュタルト。今年から学園都市ケラフへと入学し、今までハレムを持たずファビアンは初めての正室となったらしい。
何よりクラスはS級。クラスが高ければ、産まれる子のクラスに大きな影響が現れる。ファビアンと年若い内から過ごせば、タチが産まれる確率は高くなるだろう。
既にハレムへと入室し、両家の父親からの承諾を受けた。何より本人同士の関係も良好だそうで、付け入る隙など無かった。
それでも、フレデリクの胸中には沸々と怒りが込み上げる。
ふざけるな!…よくも、僕のファビアンを勝手に奪いやがって…!ちょっとクラスは高いだろうが、ハレムを持って無かった位だ…どれだけ醜男か想像出来る。田舎育ちで無教養な塵に、ファビアンは無理矢理手篭めにされたんだろう。
僕の人生はファビアンの為に、ファビアンを手に入れる為だけに捧げて来たのに!何も努力せずあっさり、クラスが高いだけで、従兄弟じゃないだけで…くそっ!
怒りで沸騰する頭で城に帰り、自室にある物を手当たり次第に破壊し尽くす。様子を見に来た側室を乱暴に引き摺り倒し、激情のまま犯し夜を明けた頃には恐ろしい程頭の中は冴えていた。
ファビアンを奪ったタチをこの目で見て、不釣り合いならば相応の処置をしてやろう。
*
目的は、ファビアンのハレムの主人と会う事。
バルディオスの夜会に出席し、案内されるまま会場へと向かう。晩餐会には慣れているが、一国の代表として参加するのは初めてだった。
通されたのは、高位の貴族や諸国の王族が集まるテーブル席。遠くからでも直ぐに最愛の相手を見つけ、視界の中に捉えて置く。どんな場所でも輝く至高の宝石、ネコの中でファビアンより惹かれる者には二度と会えない。
ふと、ファビアンの視線が隣に座る人物に送られる。その視線を受ける人物は、直ぐに顔を向けて何か囁き返す。それに応じるファビアンの瞳が蕩け、幸せそうに微笑んだ。
あまりに美しい表情は、フレデリクの15年の記憶には一度も無い。
もしも、自分のハレムにファビアンが入ったとして、あんな笑顔をさせられただろうか。
動揺のまま席に着くと、隣に座る他国の賓客から声が掛かる。騒がしい心臓の音は周囲に知られて居ないというのに、気分が悪くなる。
ユミルと名乗る相手から、今は同じ空間に居る事も躊躇われるタチの紹介を受ける。
アルフレッド・シュタルト。最悪な事に知性の浮かぶ瞳に、口角を上げる口元にも品がある。年齢に比べて高い身長、恐ろしく整った容姿に反した気安い雰囲気。会場に居る年頃のネコ達からの視線は、必ずこのタチを経由していた。
こんな奴が存在する訳ない!どうにかして、化けの皮を剥いで…ファビアンの前で恥をかかしてやりたい。
「…へえ。デルヴォー伯爵の夫になったと言うのに、従兄弟である私の名前すら知らなかったと言うのか?」
「ご不快にさせた事、お詫び致します。第1正室の従兄弟ならば、私にとって家族も同然。どうか、今後とも親しくさせて頂きたいものです。」
誘発した負の感情は全く見られない。
くそ、何だよコイツ…!僕なんか相手にするまでも無いのかよ…馬鹿にしやがって!
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