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いざバルディオス帝国III

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…良かったー。いやー、まさか本物の王子様に会えるなんてビックリしたなあ。

王位継承順位が低いのだと言うユミルは、謙虚に微笑む。爵位も持たない家柄としては中流以下のアルフレッドにとって、本物の上流階級のタチ…それも同世代と関わるのは初めてだった。
勿論学園生活ではルークと知り合っているが、彼自身は小国の中流貴族だと笑っていたので4大国出身者とはまた印象が違う。

そういえば…。ユミル王子って、普通に人間に見えるな。獣人とか亜人の多い国じゃなかったか?まあ、流石に聞くのは失礼過ぎるか。

会場内の席も大方埋まってきており、晩餐会の開始も近い事だろう。ユミルとの会話は少しずつ砕けた内容になり、通りすがりに挨拶を受ける度にアルフレッドを紹介してくれた。
来客の比率としては、ハレムの主人と第1正室・ハレムの主人と子息タチ・ハレムの主人と子息ネコ…と、タチとネコの一対のみだが組み合わせはバラエティに富んでいた。

「ほう。ルキウス殿下の夫君とご学友でしたか。」
「デルヴォー伯爵閣下の夫君なのですね!」
「…実は、私の四男がハレムに入らず困っておりまして。周囲からは聡明で見目も良いと言われているのですが…。」
「おや、ご正室がお二人…?シュタルト殿のクラスならば、まだまだ正室が必要では無いでしょうか?いやいや、そういえば…」

ユミル経由で紹介される人々は、挨拶を交わすだけで終える者も居たが、ネコの子息を連れている親の場合、遠回しに入室を仄めかす者が多い。若くクラスの高いタチと知り合える機会等日常では中々無い、子を持つ親は必死なのだろう。
それでも隣に座るファビアンを見た途端、一様にそそくさと去っていくので不思議に思うアルフレッドだった。

カタリ…と空いていた斜め前の椅子が引かれた。
年は同じ位だろうか、金髪碧眼の高位貴族らしい容貌の少年である。先に反応したのはその隣に座るユミルだった。

「初めまして、ご挨拶してもよろしいですか?」
「ええ、構いませんけど。」

ユミルをチラリと見た少年だったが、何故か落ち着かなげにアルフレッドへ視線を向けていた。

ん?何だ?あれ、見てるの俺じゃなくて、ファビ?

確かめようと思うが、ユミルとの会話が続き様子を見ている事に決める。

「私はセリアル国代表のユミル・パパドプロスと申します。共に参りましたのは正室のカーリン、国では商家を営んでおります。」
「そうでしたか。私はフレデリク・フォンテーヌ、ジルックェンド連合国国王の六男で王位継承順位2位です。本日共に参ったのは第2正室のマルグリッド、男爵です。パパドプロス殿は初めてお会いしますが、今回どなたかの代役ですか?」
「…いえ、誰かの代わりでは無く…。」

ユミルと挨拶を交わすフレデリクと名乗る相手は、妙に棘の含まれる物言いであった。
相手がセリアル国の王族だと知らないとしか思えない言動だが、わざわざ訂正する性格でも無いユミルの表情は微妙そうだ。ファビアンが何か言おうとする気配に気付き、さりげなく手の平を向けて制する。

ネコよりタチが口を挟む方が良いと思っての判断だが、この時アルフレッドは失念していた。ファビアンはジルックェンド連合国の王族なので、フレデリクと呼ばれる少年は親戚では無いかと。

「ユミル殿下、私もよろしければご紹介下さいませんか?」
「…!はい。フレデリク殿下、此方はアルフレッド・シュタルト殿でバルディオス帝国第1皇子殿下の夫君とご学友だそうです。」
「………………存じています。」

アルフレッドのユミルへの敬称に目を丸くするフレデリクだったが、直ぐにその眼差しが冷たい光を放つ。
戸惑うアルフレッドに反して、ユミルは変化に気付かないのか笑みを浮かべる。

「ご存知だったのですね?もしや、お知り合いでしたか。」
「え?いや…何処かでお会い致しましたか?」

アルフレッドにとって、自らの家から出て人間関係が花開いたのは学園に入学してから…。他国のタチ、更に王族と知り合えるのも本日初めてだったのだ。
フレデリクの表情は更に固い物となり、苛立ちさえ浮かんでいた。

「…へえ。デルヴォー伯爵の夫になったと言うのに、従兄弟である私の名前すら知らなかったと言うのか?」

おっと……?確かに、ファビはジルックェンドの王族だったっけ。なるほどー、親戚筋なのに覚えてなかったからムカついたのか?うーん、でもなあ。

憎しみすら感じる視線には、大した心当たりが無い。社交界に通じていないアルフレッドに、名前を知らないからとそこまで怒りを向けてくるのだろうか。

「ご不快にさせた事、お詫び致します。第1正室の従兄弟ならば、私にとって家族も同然。どうか、今後とも親しくさせて頂きたいものです。」

誠心誠意の謝罪後、心からの笑顔を向ける。相手の怒りも憎しみも介さず、ただ親しみを込めた物だ。

「…お断りだ!」

……?!



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