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びば学園生活26
しおりを挟む「フィッツさんをハレムに入れる時期を検討中だからですか?」
「あー、うんうん。確かにそれも考えてはいるかな…え。」
え?
え?え?
え?え?え?
フィッツさんをハレムに入れる時期を検討中だからですか?
リオネルから放たれた疑問が、脳内で繰り返し再生される。
何で俺もそれに肯定してんの?うん?アンリをハレムに入れようかな~とか、頭の端っこにあるにはあったけど、流石に今すぐは有り得ないよな…と直ぐ頭の引き出しに仕舞い込んだよな。
リオネルの言い方が自然過ぎたのと、ただのお見舞いだと思って気を抜いてたのが招いた事故とも言えた。
頭の整理が追いつかず思わず噤んだ口を手で覆うと、此方を真っ直ぐ見つめる相手と視線が重なる。
「…やはり、なんですね……。」
「えっと…」
何を言うべきか思案するアルフレッドの様子に、離れて見守る従者が訝しむ。何か異常を感じたら、二人の間に割って入るのも厭わないだろう。従者のその様な雰囲気を察して、平静を保とうと心掛けた。
「…でしたら、ご協力させて頂けませんか?」
「え?」
リオネルの口から転がり出した内容は、全くこれっぽっちも想像していない物だった。目の前で片手を胸に当てて、目を細める表情には含みは無く柔らかい。勿論、タチがネコの心情を本当の意味で探るのは困難だろうが。
「い、いや…。気持ちは嬉しいけど、自分で解決しないとだからさ。」
親切心からだろう申し入れに、他者を巻き込めないと丁寧に断りを入れる。すると、呆気無いほど「承知しました。」と頷くリオネルの顔に視線を送ると、嫋やかな微笑みが俯きがちとなる。
うわ!不味い…ちょっと冷たかったかな?
慰める言葉を探すアルフレッドは、深い意味は無く相手の肩に手を置くと、頼りない細肩と上目に向いた瞳に目を奪われる。控えめに向けられる瞳は露を含み、瞬きと共に一筋の線を描く。
「…っご迷惑でしたよね?…私、少しでもシュタルト様のお手伝いが出来たらって…。」
次々に流れていく涙を指で拭う仕草は、相手の心を揺さぶるには充分だった。慌てて懐から手巾を出すアルフレッドは、リオネルの目元の水滴を優しく拭う。
「迷惑じゃないよ。その、自分自身で整理出来ていない部分もあったから…いや、それでも人を傷つけるのは駄目だよな。」
「…っ!?」
どうにか誠意を見せたいと、リオネルを抱き寄せ背中を撫でる。胸に抱き寄せ、耳元で優しく語りかけながら落ち着かせようとする。泣き止ませようと集中するアルフレッドには、相手の呼吸が深くなったのも、その片手が強く握り拳を作ったのも気付かない。
ネコは可愛くて自分よりも力が弱くて社会的地位も低いので、自分が守ってあげる儚くて可憐な存在。前世の男女平等の叫ばれた時代で、逞しい女性を知るアルフレッドにとって、この世界のネコの見せる姿は頼りなげな存在に映っていた。しかし、数多くのネコ社会で生きるのに、優しく可愛らしいだけで生きていけるのだろうか?
現代的な感性を持つとは言え、ネコの本質をやはり本当の意味で理解するのはタチにとって難しいと言えた。
リオネルの様子に疑問を持たないアルフレッドの離れた場所で、直ぐに異変に気付いた従者達。泣く『ふり』で主人の夫にしなだれかかる部外者のネコに、無言で目配せする。
名家の従者たるもの、タチの前で醜態を晒せない。顳顬に青筋が浮かぼうが、手元が震えようが、唇を噛み締めかけるが、相当な努力で堪える。もしも心情を吐露していたなら「おいおい、てめえ何さらしとんじゃ、泥棒猫がよお」である。
ただ、泣いているネコを慰めているだけ…ならば、止めに入るのは不自然なのだ。一人の従者は気付かれぬように少しずつ距離を縮め、リオネルへ無言の威圧を繰り出してみる。他の従者はただ強く祈る。ファビアン様、ジレス様、いいや、この際誰でも良いからどなたか部屋に訪れて下さい…と。
思いが通じたか否か、部屋の外に居た護衛から従者へと声が掛かり、直ぐに従者からアルフレッドへ妙に弾んだ声音が掛かった。
「っシュタルト様!第一御正室がお見えです。」
「あ、うん。ありがとう…リオ、大丈夫?」
従者からの言伝に、リオネルの顔を覗いて声を掛けると、そっと身体が離される。
「はい…申し訳ありません。あの、ありがとうございました。」
「いや、リオは俺の事を思ってくれたんだよな。俺こそありがとう、もし君に手伝って欲しい事があったら相談させてくれ。」
是非…と微笑む明るい姿に安堵し、開かれた扉を振り返る。
「アルフレッド様、お加減はいかがでしょうか。」
入室する愛する正室に笑顔を送り、片手を上げて「大丈夫だよ」と返す。その時には素早くソファから立ち上がっていたリオネルが、ファビアンへと丁寧に挨拶をする。
「ご機嫌麗しく存じ上げます。シュタルト様へお見舞いさせて頂きました。ご尊顔も拝見出来ましたので、これで失礼させて頂きます。」
「そうですか。…ハレムの者も不在で申し訳なかったですね、今度は必ず誰かは同席させますね。」
妙に固く緊張感の漂うリオネルの態度も、口元だけで笑うファビアンの表情も、違和感はアルフレッドには届かない。
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