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番外編✳︎ありし日の12歳
しおりを挟む【アルフレッド・シュタルト】
「…ええ。では、本日は世界についてですね。4大国と言えば?」
「はい。ええと、ジルックウェンド連合国、バルディオス帝国、セリアル国、神聖国家フォーランです。」
「その通り、ですが…少々発音が異なりましたね?ジルッ(クェ)ンドです。」
「…あー。すみません。」
「構いませんよ。他の発音に問題はありません、ゆっくりでよろしいのですから。」
緑豊かな領地の中、落ち着いた佇まいの屋敷が一軒。昼食を終えた昼下がり、一人の少年が家庭教師から勉学の指南を受けていた。
優しげな風貌の教師は、決して急かすことはせず相手が理解出来るまで学ばせていた。とは言え、生徒である少年は大変勘が良く利発で、タチだと言うのに礼儀正しく真面目で優秀である。他に教えてきたタチの生徒とは大分…いや、全く異なる性質だった。
家庭教師にとっては、最近は通うのも楽しい一時となっていた。内容としても、既に都市部ならば中等部レベルと言っても差し支え無いだろう。
「…それでは、言語について復習しましょう。前にお教えした所は何処までだったでしょう…。」
「ああ、共通語についてです。…確か、ジルック…ェンドとバルディオスは母国語と共通語を使用していて、セリアル国やフォーランだと共通語が通じない地域があるんですよね。」
よく覚えていましたね、と教師が微笑む。
家庭教師の師事する項目の中には、他国の言語についても入れてある。少年…アルフレッドは、既にジルックェンド連合国の言語の聞き取りは出来るようになっていた。
「先生、学園都市ケラフだと何語を使っていますか?」
「ケラフですか?…ああ、高等部から編入されるのでしたね。」
「そうなんです。何か、色々な国から来るって聞いたから、言葉通じるのかなって。」
時折浮かべる大人びた苦笑に、教師は気付かぬ振りで相槌を打つ。
シュタルト家の第3正室の友人である教師は、10歳からアルフレッドの師事を任されていた。勘の良さとその場の空気を読む姿は、どう見ても十を過ぎた子どもとはかけ離れていた。
だが、あくまで自分が教えられるのは一般教養と勉学のみ。
「…ケラフで講師をしておりましたが、ほとんどの生徒は共通語を使用していましたので大丈夫ですよ。」
願わくば、この子が年相応に過ごせるようになりますように。
【ファビアン・デルヴォー】
「ねえ、ファビアン…ファビアン!聞いてるのか!無視するなよ!」
「…はあ。読書をしていたんだよ、フレデリク殿下。」
年の改まるある日、ジルックェンド連合国の宮殿には王族に連なる者が宮殿へと集っていた。一通りの挨拶が済み、大人は各々の付き合いに、自然と子ども達は休息を摂り好きなように寛いでいた。
「…殿下なんて他人行儀はやめろよ。せっかく久しぶりに会えたのに、何で本ばかり読んでるんだよ。」
「そう言われても。…それに、敬称は仕方ないよ。君は王位継承権を持つタチの王子、私はネコで私の父は臣下に降っているのだから。」
妙に懐いてくる1つ年下の王子を穏やかに嗜める。幼い頃からよく知る従弟だが、王家に産まれて立場を与えられた以上は弁えなければならない。
「うう…そんなの分かってる。ファビアンが僕を殿下って呼ぶのが駄目なんだ。だって、僕の正室にするんだから!」
「…まだ言っていたのかい。」
半泣きにすらなる年下の従弟に溜め息を堪える。室内で控えている護衛の騎士や側仕えは顔に出さずとも、内心呆れている事だろう。
ハレムに入るのは、従兄弟までは禁止されておりせいぜい再従兄弟までだ。その上、ファビアンの父は他国との縁を繋げたいと考えているので、ジルックェンドでの婚姻は無い筈だ。
「…っ僕が王になったら、法を変えてファビアンを正室にするんだ、絶対に。」
兄王子が居るから無理だろうし、そんな私欲まみれの王は嫌だな…というか、君にタチとしての魅力は感じない。
ファビアン・デルヴォーは、全てを呑み込み曖昧に笑って置いた。
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