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リオネル・チャップマン視点
しおりを挟む「兄さまー、リオネルの機嫌が悪すぎてうっとうしい。」
「…?昨日はあれだけ上機嫌だっただろ。」
「なんかさ、“シュタルト様"にまた側室が出来たんだって。」
「うわあ。それは残念だなあ、あの物語の王子様みたいな人なんだろ?そりゃリオネルじゃ無理無理。」
「だよね、リオネルって仕事は出来るけど、タチ運悪いじゃん。」
二人の兄弟らしい会話が続いていく。会話は緩い口調だというのに、手元にある羊皮紙に黙々と手元のペンで素早く書き付けている。室内には各国の地図や書籍が散乱し、わざわざ取り散らかした様にも見えるだろう。
「だからさあ、もう諦めなって。うちの一族の中でもクラスも高いし、顔は良いんだから良い相手見付かるって。」
「そうそう。元々は商売の為に人脈作りに入ったケラフなんだから、仕事に生きる運命じゃないかな。」
「あはは!だよねえ。」
好き勝手に談笑する二人には、寝台で丸くなる人物の表情は分からない。ふいに地を這う低い声が寝台の中から洩れて、顔を見合わせた二人は会話を止めた。
「………まれ…………」
「…何か言ってる?」
「何か言ってるな。ごめん、聞こえなかった。」
「っだまれって言ってんの!」
寝台から起き上がる人物の形相は凄まじい。流石に茶化していた二人組も黙り込み、わざとらしく仕事に勤しむ。チャップマン家では、兄弟間での暗黙の了解がある。
リオネルを本気で怒らせてはならないと。
…何故?アルフレッド様と最初に話したのは私だったのに…
まさか騎士科の護衛から、側室にして頂けるなんて!普通科の獣人の時は、お優しいから仕方ないか~なんて思ってたよ?
キャベンディッシュ卿やデルヴォー閣下だって、身分的には相応しい。シャヒーン様も分かる。
で・も!護衛はずるいでしょう!?1日を通して間近で姿を見られて、あまつさえ時々「お疲れ様」なんて声をかけて頂ける。それなのに、護衛の域から出て側室だなんてえ。
「羨まし過ぎて…気狂いそう。」
心の奥底から絞り出された怨嗟だが、兄弟二人の反応は対照的だった。「諦めも肝心だね」と弟が慈愛の笑みで返し、「そういう運命なんだろう」と兄が頷く。
睨み付けられる二人だが、同じ産みの親を持つ同士だと気にせず応じる。リオネルは一族内では仕事に関して優秀で、既に父から仕事を多く任されている。美しく聡明でそつなくこなす。
ただ、タチ運が無い。
5歳の時に気に入られハレムに誘われた相手は、70間近の老齢で財産は多かったが病持ち。
9歳の時に見初められたと思えば、ハレムに入れないが手付き人にしたいと言われる。
13歳の時には、異腹の兄に襲われかけたこともあった…。
自分には良いタチとの縁は無くて、一生仕事に生きるのだろう。学園ケラフに入り、人脈を作り仕事に励もう。そんな矢先のアルフレッド・シュタルトとの出会いだったのだ。
『そっか、よろしくリオ。……』
初めて向けられる損得の無いタチからの優しげな瞳に、普通ならば隠して育てられるだろう美しい人からの気安げな振る舞い。品のある身のこなし。
他の組にもタチはいらっしゃるが、一人は申し訳無いがハレムに入るのに不安しか残らない方。一人は貴族の出で、他者との関わりを拒んでいる方。そんな中での極上なタチの編入は、瞬く間に学園中の噂の的だった。
ハレムを持たない、物語の王子様の様な美しい御方。正直に言えば、側室か妾かで声が掛かると期待してしまっていた。
だが、一月も経たずに思い知らされたのは…自分は物語のヒロインでは無く、その他大勢だったらしい。
「…うう。悔しい…。」
「「…………」」
唇を噛みしめ寝台の上で身もだえるリオネルに、二人の兄弟は視線を交わし囁き声で何か言い合う。それから、お互いに一度頷くと寝台の側に寄りリオネルへ意味深な笑みを向けた。
「リオネル、もう最終手段しか無いよ。」
「…ああ、振り向かせるには努力をしないとな。」
兄の興味深い話し始めに、リオネルの表情に変化が灯る。「…最終手段?」と唇から不安と期待を込めた疑問が零れた。
「そう…」
「名付けて…」
「「邪魔者の居ない内に既成事実を作っちゃえ作戦!」」
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