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ファビアン・デルヴォー視点II
しおりを挟む愛されていると実感していた。第1正室にして頂けてから、毎日が夢のようで…いつか覚めてしまうのでは無いかと怖かった。
護衛達の噂で聞いたのは、シャヒーンがアルフレッド様と褥を共にしたということ。何故?私ではいけなかったのでしょうか?
アルフレッド様は、私が王族だと驚かれていた時があった…私の家柄を重荷で疎ましいと思われているのでしょうか。
そんな悩みも表に出さずに、日々を過ごしていく。めでたく指輪を贈られてから届いた父からの手紙には、S級のアルフレッド様との縁談を好意的に受け止めてくれていた。ギー公爵には、もう少し育ったら弟の一人を嫁がせると約束したという。
それを聞いて代わりとなった弟には心苦しく思うけれど、アルフレッド様から離れる気など僅かばかりも無い。美しく、優しく、賢く、逞しく、共に居ると自然と笑顔になる私の運命の人タチ。
魅力的なタチが、数多くのハレムを抱えるのは世の常識だと理解していたつもりだった。
それでも、キャベンディッシュ卿が第2正室になったと決まった時は、隠れて涙を堪えるのが難しかった。輝く銀色の髪を持つ美しい人物は、ネコの中でも憧れの的で、きっとアルフレッド様の寵も彼へと移っていくのだと察する。
こんな私を気遣ってくれたアルフレッド様は、一晩中私を抱き締めてくれた。第1正室は私だけだと仰ってくれたのだ。ああ、なんて幸せだと高鳴る胸音と共に訪れるのは忍び寄る不安…私を抱いて下さらないのは何故か、と。私には魅力が足りないのでしょうか。
愛している、と口付けを贈られる。二人きりになると他の者が居る時とは違う、気の緩めた笑みを見せてくれる。
「言うのが遅くなったんだけど、ジレスを側室に入れるね。」
「承知致しました。彼は真面目ですし、よく気も回りますので良い側室となるかと。」
相手の喜ぶ言葉を羅列していく。そう言うと「ありがとう、そう言って貰えて嬉しいよ」と素敵な笑顔が返される。
第1正室としての役割は、ハレムを纏め一族の責任を持ち行動する。嫉妬を露にし夫を困らせ、気を引こうと寵をねだるのは妾だけで十分。
ハレムの者が増える度、人知れずベッドの布団に潜り込み涙に濡れた。決して、私だけのアルフレッド様で居て下さらない。分かっている。分かっているつもりなのに。
そんなある日だった、アルフレッド様から街の散策に誘われたのは。
*
二人きりで色々な場所を巡っていった。生き生きとしたアルフレッド様に釣られ、此方の気分も高揚する。楽しい時間は瞬く間に過ぎて、次第に日も暮れていた。
寮へと戻るのかと思っていたが、夫から提案されたのは「宿に泊まってみたい」という物だった。それも、冒険者が泊まるという安宿らしい。
アルフレッド様の楽しそうな気分を害してしまうのは申し訳無いが、それでも、嫌われたとしても仕方ない。
「…ああいった場所になると、より危険も高まってしまいます。アルフレッド様を御守りする為には、どうか私の知る宿にさせて頂けませんか?」
内心緊張に汗が滲む手を知られぬ様に、柔らかい口調で提案してみる。嫌われたく無い、でも愛する人に危険な目に合って欲しくない。
「うん、分かったー。ありがとな、俺の事を考えてくれてて。」
「…いえ、申し訳ありません。差し出がましい真似を。」
拍子抜けするぐらいあっさりと提案に頷いてくれる相手に、やっと張っていた身体の力を抜いた。
自分の知る宿へと向かい、部屋を用意して貰う。こっそり部屋を一つにさせたのだが、アルフレッド様には気付かれず安堵する。二人で食事を終えて、それぞれお風呂から戻りベッドでのんびりと過ごす。
「うん、旨いな。」
「アルフレッド様は、何でも美味しそうに召し上がられますね。」
果実酒を口にするアルフレッド様は上機嫌だった。私の知るタチには、好きな物しか食さず偏った食生活の者が多い。アルフレッド様は違う。何でもよく食べ、よく飲み、作った相手に労いの言葉を掛ける。この方が私の夫だと思うと、胸に熱いものが込み上げてきた。
グラスがテーブル上へと戻された。お互いの会話が途切れ、向けられた眼差しに熱が籠る。優しく押し倒されたベッド、見上げた相手は溢れ出るフェロモンに湯上がりの色気が加わっていた。
やっと、やっとこの時が来たのだ。自然と上気する頬と潤む視界に、自身の期待が高まっていくのを感じる。
「…ずっと、待っておりました。」
「んー、待ってたの?」
手で頬に触れられ、額に口付けが落とされる。それだけで熱くなる身体は正直で、速まる鼓動が知られてしまうのが恥ずかしく思う。
「…はい、お待ちしておりました。いつか、触れて頂ける日が訪れると信じて…」
相手の瞳が見開かれたのを視界に映した直後、顔中に落とされるキス。耳朶を食まれ、首筋に舌を這わされれば、背中を走る何かに甘い声を上げてしまう。
手早く衣服を脱ぎ捨てる彼を、うっとりと見上げる。細身でありながら、タチらしく均整の取れた無駄な脂肪の無い美しい肉体。間近で輝く瞳の翡翠から目を離せず、薄く形の良い唇から放たれる睦言に身体は甘い痺れが流れる。
「…ファビ、ファビアン。愛しているよ。」
「っアルフレッド様…!」
瞳から流れる頬を伝う滴を舐め取られ、衣服を脱ぎ捨てた二人で強く抱き締め合う。重ねられた唇から舌を捩じ込まれ、必死に答えようと舌を動かし絡めていく。
ああ、幸せ。
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