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シュタルト家の1日
しおりを挟む「…お父さん、アルくんの奥さんの使者さんがきたよー。」
「またか?!今度は一体何処からだ?」
とある小国の田舎町。過疎地域であり、どちからといえば、年寄りが多く若者は少ない場所である。広い土地を所有し、この町に似合わない屋敷に住むのはシュタルトの姓を持つ一族だ。
16年前にタチが産まれてしまった為、警備上頑強な屋敷に建て直す必要があったからである。
若いタチは世界において重要な財産だ。家の者が自由に生きさせたいと思っても、国からの圧力に抗うには限度がある。
シュタルト家末っ子からの言伝てに頭を抱える当主は、げんなりした様子で次の言葉を待つ。
「うんとねー、さいしょがデルヴォー家、つぎがキャベンディッシュ家、3日まえがシャヒーン家だったよね。今きてるのがフィッツ家だって。どこが一番すごいの?」
全部だよ、と当主は項垂れる。確かに唯一のタチである息子はS級であったが、まさか学園都市ケラフに編入したてでハレムを作り出すとは思わなかった。柔らかい雰囲気に反して大人びた性格ではあったが、田舎育ちだから貴族には好かれないと思い込んでいた。
使者の対応はひとまず第1正室が行っていると聞き、使者から受け取ったという手紙を読んで返事を書こうと椅子に腰掛ける。
シュタルト家は、正室4人、側室7人、妾は5人という少人数のハレムからなる一族だ。上の子3名は既に仕事に就いてハレムに入っている。4番目のアルフレッドは、学園都市ケラフに通い寮で暮らす。5番目~13番目は、家に居て近くの学校に通いながら生活している。
今は落ち着いたが、アルフレッドが家に居た時は大変だった。近隣諸国からひっきりなしに「アルフレッド様と是非お話しさせて下さい」と客人が訪れていた。仕方なく第1正室と第3正室の家の力を使い、追い払っていた日々。やっと静かに暮らせると思えば、今度は名家からの使者が連日訪れてきている。
…デルヴォー家と言えば、大国の王族だったな。キャベンディッシュ家は名門の武官一家。シャヒーン家は、神聖国家の大貴族。新たなフィッツ家は、あのフィッツ騎士団だろ。
そんな家達と親戚になると分かった時、本気で胃を痛めて暫く寝込んだものだ。自分の夢は静かに生きて、緑豊かな場所で人生を終えること。
正直、義息子になる者達との顔合わせをしたくないのが本音である。
*
「…それでグレイ、何処の家と言っていたの?」
「フィッツ家って言ってたよ。」
子ども部屋で積木を始めた13男のグレイソンは、5番目の兄の質問にのんびりと答える。末弟の返事に「げえ」と苦々しい表情を浮かべるのは五男のミカエルだ。アルフレッドと同じ産みの親を持ち、似た容姿を持っている。勿論、ネコらしい愛らしさは兼ね備えており、年齢は二つ下だ。
「絶対絶対無理~!何でアルフレッド兄さんてば、名門の人ばっかりハレムに入れてるの?会っても何話して良いか分からないでしょ。」
「そうなのー?きんちょうするから?」
緊張するというか、S級で容姿の良いアルフレッドだから許されることとか、自然と品良く見えてしまうこともあるが、他の兄弟はそうもいかない。
ミカエルはネコのB級。絶対名門の人と食事会とかお茶会なんかに参加したら、田舎育ちが露呈して馬鹿にされるに決まってる。
「んーと、でもミカちゃん。ケラフに行くって言ってなかった?」
「…そうだよ。兄さんが部屋に置いてある本を送って欲しいって言って、学園都市ケラフに行ってみたいから直接行くって言っちゃったんだよ!」
仲の良い一族であり、大好きな兄に会いたいと思い言ってしまった自分に後悔してしまう。
デルヴォー家って王族でしょ?私みたいな一般人、きっと無視されて終わりだよ。キャベンディッシュ家は騎士が多いから、すっごく怖そう。無礼、って思われたら切りつけられるんじゃないの。
「…そうだ。グレイ、一緒に行こう!」
「ぼくもケラフに?」
「うん、小さい子も一緒なら許されそうな気がする。ね、ほら、ケラフってすっごい広いし、楽しそうだよ?」
何とか末弟も道連れにすべく、言葉を重ねる。知られたら第1正室に怒られそうだが、なりふり構っていられない。だって、行くの怖いから。グレイソンはまだ5歳だから、色々と誤魔化すには丁度良い。
「うん。ぼくもアルくんとこに行きたい。」
ミカエルはぐっと両手を握り、涙目で安堵する。これで生き残れるかもしれない、と。
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