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びば学園生活7

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あー、俺って運悪いのか?

今日も今日とて図書室へと向かう道すがら、なんとなしに耳に入った声に足を止めた。

「……おい、奴隷。まだコション様のハレムに入れて頂いてるのー?」
「ねえ、ちょっと、流石に不味くない…?」
「大丈夫だってえ、こんだけ傷があればバレないでしょ。お前、絶対に私達がやったって言うなよな。」

………………嘘だろ。
自分のタイミングの良さに頬を掻き溜め息を吐く。偶然に護衛二人の授業が重なり、久しぶりの一人を満喫していたというのに。

そっと足を進め物陰から観察する。普通科のある棟の裏庭、ジャケットは羽織っていないがYシャツにネクタイ、スラックス姿の獣人は幾人かに囲まれ俯いている。
何処の世界も苛めって陰湿だよな。

背後から足元を蹴り飛ばされ膝を着く獣人は、それでも逃げたり反抗も出来ずにいる。一人が嫌な笑みを浮かべ、鋏を取り出すと獣人が目を見張って震え出す。

「…泣かないなんて生意気だよね。ほら、これでお耳をチョッキンしよっかな?」
「あ、それ賛成。右耳の方ちぎれそうだし。」

笑い合う姿に我慢なんて出来なかった。
足を一歩踏み出した瞬間、俺より先にその場に現れた者が居た。驚く生徒の一人に向かい、何の躊躇いも無くその頬に平手で打ち据えた。

バッチーンと小気味良い音が響き、殴られた生徒はその反動でしゃがみこみ、他の生徒も動けずに居る。驚いて固まる獣人の元に手を差し伸べ立たせると、生徒達に鋭い視線を送る。

「己よりも弱い者を集団で囲い、嘲笑い痛め付けるなど言語道断。貴様らは名高いケラフを貶め名を汚した。」
「す…すみませんでした!キャベンディッシュ様…。」
「申し訳ございません、お、お許し下さい!」

キャベンディッシュ、か。
生徒達が怒気に怯え、許しを乞う相手を見る。俺よりも背が高いが、ネクタイの色はネコ。綺麗な銀髪を高い場所で縛っていて、迫力はあるが中々の美形だ。年上?かな。
正義感というよりも、学園の名前を汚す下らない行為は止めろって言い方か。

「…貴様らの顔と名前は覚えた。私から風紀指導委員会に報告し、処罰が下されるだろう。」

項垂れて頷くのみの生徒達を冷たく一瞥し、獣人を支えてその場を去っていくキャベンディッシュ。

…かっちょいいー。痺れるわ。

振り下ろし所の無い拳をしまい、こっそりと後を追って様子を伺う。キャベンディッシュは、何か獣人へ話し掛けている。よく聞こえず少し距離を縮め、耳を澄ませた。

ええっと何々?私が話をつける?…え、どういう意味だ?

「……君はコション様のハレムから出るべきだ。」
「…っ無理です。ただの一人も出して頂けた者はいません。」
「私が話をつけよう。君は奴隷身分なのだから、言い値を払うと言えば考えて下さる筈だ。」

そんなうまくいくか?
アルフレッドの思いと同じなのか、獣人の表情は暗い。あれだけ痛め付けてなお、ハレムから出さない奴だろ?難しいと思う。

真っ直ぐに獣人を見つめ、微笑む姿は安心感を与える。キャベンディッシュは1年Ⅳ組の教室へと歩みを進めていく。跡をつけるアルフレッドには、不安しかない。





キャベンディッシュがⅣ組へと足を踏み入れた瞬間、教室内から騒ぎ声が聞こえてくる。教室の外から様子を伺っていると、彼がどれだけ有名なのかが知れた。
なるほど。二年で騎士科のトップなのか。それにバルディオス帝国の騎士団団長の子息?予想以上だな。

教室内の喧騒が収まり、次第に会話が聞こえてくる。

「…それで、僕の妾を買い取りたいと?」
「ええ。別邸で働かせる奴隷を増やしたいと思っておりまして、彼のように美しい奴隷はいませんので。勿論、金額はいかようにでも。」

最初に聞こえたのはコションか?何の変哲も無い話し方だな。むしろ、もっと気持ち悪かったり、感じの悪い声だと思っていたから。
キャベンディッシュの方は穏やかに、相手を立てる物言いをしており、先ほどが嘘のようだ。

「…そうだな。可愛い妾を売るんだから、ただとはいかない。僕の提案を受けてくれるなら考えよう。」
「承知致しました。…提案とは?」

すっげえ嫌な予感がする。
授業が終わったのか、護衛二人が少し離れた場所に控えている。少し不思議そうに見てくるが、説明する余裕は無い。

「エドウィン・キャベンディッシュ。あんたに僕のハレムに入って貰おう。そうしたらコイツを売っても良い。ああ、それと妾が減るのだから妾としてだ。」

教室内からさざめきすら聞こえない。騎士科のトップで、あれだけ美しい人に妾としてハレムに入れと言うのか。それも王族のハレムに入るのとは違う、普通科でD級のタチである。馬鹿にしきった発言、ハレムの者に対して行われた虐待に、何をされるか分かったものではない。

扉越しに見えた横顔は、決意に満ちた美しいものだった。一人の憐れな存在を救うためだけに、自分の人生を投げ打つ覚悟を決めた顔。
うん。惚れた。

「…その提案受け…………「はい、お邪魔するよー」…?!」

俺は扉を開け放ったのだ。


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