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びば学園生活6
しおりを挟む学園生活もやっと最初の休みに入った。この世界では10日学校に通い、5日休みという周期だ。仕事をするようになれば、また職業によって変わるだろう。
「…どう、痛くない?」
「はい、丁度良いです。」
幸せそうに、自身の薬指に嵌めた指輪を見つめるファビアンに安堵する。場所は学生寮の俺の部屋。スイートルーム並みで最初は落ち着かなかったが慣れたものだ。
ファビアンに告白して三日目に指輪のサイズを図りに来てもらい、届いたのが休みに入った今日だった。タチである俺には国から補助金があるので、ちょっとお高めの指輪を用意出来る。
父もお金を出してくれると言ったが、流石に断っておいた。
初めての正室、それも相手は王族だ。生半可なものは用意出来ない。正直彼が普段身に付けているピアスやブレスレットのが何倍も高いと思うので、渡す時は緊張したものだ。
窓辺で手を取って薬指に嵌めて、指輪に口付けてから、そっと唇を重ねる。
『愛しているよ、俺の正室として一生側に居て欲しい。』
『…はい。喜んで。』
喜びの涙を流すファビアンが愛しくて、もう一度深い口付けを交わしたのだ。
これで本人同士の誓いは終わり、この日より正式に俺の第1正室となったファビアン。だからといって、ファビアンのファミリーネームが直ぐに変わるわけでも、生活が変わるわけでも無い。
これから大変になるのは家の方だ。まずは父同士が手紙をやりとりする。次に、デルヴォー家から第1正室と産みの親がシュタルト家に赴き話し合いをする。終えたら、シュタルト家から第1正室と産みの親がデルヴォー家へ行き話し合いをする。
それらが終わった頃、本人同士とお互いの父との顔合わせだ。今は学生なので、卒業したら本格的に戸籍名の変更や、俺とハレムの住む屋敷を建てる事になる。
ファビアンは正室なので手間がかかるが、側室や妾ならもう少し簡単に済むらしい。その上、なんと言っても王族で、本人も所領を持つ伯爵なのだ。何も無いわけにいかない。
ファビアンの父上は、勝手に息子をハレムに入れられて怒ってないかな?俺の家、貴族ですら無いし。いつか会うのこわ。あ、いや、大丈夫な筈。父さんの正室二人は資産家と貴族だった。
「…アルフレッド様、昼食はどうされます?」
「あー、うん。部屋で食べようかな。」
考えに耽っていると、ソファーで隣に座るファビアンから声がかかる。なんとなく外に出る気分では無いため答えると、扉の側に控えていた従者に命じて手配してくれる。
それに応えて部屋に併設されたキッチンで、呼ばれた料理人が食事を作り始めた。
なんて出来た正室つまだ。美人で優しくて性格良くて教養があって、なんといっても可愛い!俺なんてラフな格好でソファーに寝転がってるだけだぞ。ほら、目があった護衛達も呆れて顔を背けてる。
ソファーに戻ってきて座り直したファビアンをチラリと見て、一度体を起こすとその膝に頭を乗せる。顔を見上げると、動きを止めたかと思えば盛大に顔を赤くしあわあわと手を動かしている。
男の膝なのにめっちゃ柔らかい!…え、天国か?
「…重く無い?」
「っはい、大丈夫です…。」
顔を手で覆って隙間から此方を見下ろす仕草は、くるものがある。手を伸ばしてファビアンの顔から眼鏡を奪い、自身の唇をトントンと指で指すと、意図が伝わったのか相手の瞳が潤む。
緊張に震える唇は少し湿っていて甘く感じる。
「よく出来ました」と眼鏡を返して、手を伸ばして頭を撫でた。寝室に連れ去りたい気持ちを我慢した俺を誰か誉めてくれ。
眠い訳では無いが目を閉じると、ファビアンの囁きと直ぐに俺に毛布がかけられる。家に居た時以上に上げ膳据え膳状態に戸惑いつつ、今後を考える。
学園内のタチの横暴。ルークに然り気無く鎌をかけた所、気にかけてはいない様だ。だが、コションの所業を話すと、苦々しそうに顔を歪めていた。タチがネコを粗略に扱うのは、ままあるがコションの行いは度を過ぎているらしい。
だが、一度ハレムに入れた以上そのハレム内の問題という認識だ。
奴隷の話題には、ルークは少し驚いていた。学園都市ケラフに生徒として入るならば、奴隷の身分では難しいらしい。学園の中で生徒では無く、汚い仕事を行う奴隷は居るが。
考えられるのは、後ろ楯の無いクラスの低い子を妾にしてから、理由をつけて奴隷身分に落としたのか…。
それに思い至った時、俺とルークは暫くお互い声を発せなかった。自分の気まぐれで、人としての身分を捨てさせられた。その上、その原因からは逃げられない。ハレムから出られたとして、奴隷身分となったネコが学園生活を続けられるのか?
鼻腔を擽る美味しそうな香りに目を開けて、ファビアンの膝から起き上がる。テーブルに整えられた食事、穏やかに微笑むファビアンを見て思う。仮にネコに産まれていたら、こんな人生は無かった。
なら、俺の手が届く人には出来る限りのことをしよう。
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