社会不適合

きのせ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

第1話:社会不適合

しおりを挟む
 2055年 3月25日。僕は、社会に出る為に必要な社会適合試験を受けた。
一ヶ月後結果の通知があったが予想どうりの内容だった。予想していたとはいえ、やはり目の前に現実を突きつけられるのは、気分の良いものじゃなかった。通知書には、こう書かれていた。
「社会不適合」
と。


 一度、不適合の烙印を押されてしまうと、社会に出て貢献する事ができない。不適合の烙印は、社会によって全て否定される。だから、僕は、社会適合教育学校に行く事にした。テレビや新聞では、社適学校なんて呼ばれるが、若者達の間では、プリズンと呼ばれていたりする。コミュニケーションが取れない、挨拶が出来ない、ルールが護れない、対人恐怖症など、社会に適応できない者達が集まっていく更生教育機関。社会に出て、国に貢献するには、それしか方法がなかった。

 一人の女性。歳は、30代前半。髪を後ろでキュと括り、小さなポニーテール。
顔つきは、鋭く、吊り上った目は、きつそうな性格を想像させる。分厚い唇は、まるで男を挑発しているようだった。そんな女性がクラスの教室にズカズカと入ってきた。教卓の前に立ち、不安な表情を浮かべ座っている生徒達を眺めた。
「私の名前は、三枝京子だ! 今日から、このクラスの担任になる。いいか、この名前を忘れるな! この名前は、お前達の命を預かる名前だ」
担任である三枝京子が初めて僕達の前で言った言葉がそれだった。
「お前達は、社会の屑だ! ここは、お前達のような屑が集まってくる場所だ! コミュニュケーションが取れない者、挨拶が出来ない者、社会のルールが守れない者、大人しい者、声が小さい者、笑顔を作れない者。お前達は、社会に役に立たない。役立たずは、死ね! これが社会の理念だ。しかし、安心しろ! お前達には、1つのチャンスが与えられた。更生するチャンスだ! だが、チャンスがそう何度もあるとは、思うな! お前達にとっては、最後のチャンスかもしれないからな」
そんな三枝先生の言葉をクラスの同級生達は、歯を食いしばりながら聞いていた。
そして、直ぐにクラスの自己紹介が始まった。
「あの……その……」
一人の気の弱そうな女生徒が声を詰まらせながら、オロオロと周りを見渡す。緊張しているのだろう。女生徒は、自身を自己紹介する言葉を忘れてしまった様子で同じ言葉を繰り返し言っていた。
「あの……その」
「なんだ? お前は、自己紹介も出来ない屑なのか? まあ、いいい。次!!」
三枝先生は、遅々して進まない自己紹介に苛立った様子でそう叫んだ。すると、その女生徒の後ろの席に座って居た男子生徒が立ち上がった。そんな事がありながら、ついに僕の順番が廻ってきた。
「僕の名前は、星崎弘と言います。この学園に来た理由は、社会適合試験に落ちたからです」
僕がそう言うと三枝先生は、手元の書類をパラパラとめくり出した。
「ほう、すると君は、何か。逸脱者か?」
「はい」
僕がそううなずくと三枝先生は、興味深そうに僕の顔と手元の資料を見比べた。おそらく、その書類には、僕の過去の経歴でも書かれているのだろう。
「フン、君は、とても特殊な逸脱者だな。よかろう、君は、特別に厳しく教育してやろう」
資料を見て納得した様子で三枝先生は、そう言ってのけた。

 逸脱者。この社会は、出ない杭は、下から叩かれるが・・・出すぎた杭も叩かれる。現在社会が抱えている大きな問題は、人口爆発である。地球上の人口は、90億人を超え、もはや地球にある資源では、全ての人間を養う事ができないでいた。 地球の残り少ない資源を諦め、宇宙にそれを求める計画もあるが。そんな技術が確立されるのは、ずっと先の事だ。その間、人間達は、地球の上を這いずり回りお互いの首を絞めあう結果となってしまった。この問題を解決する為に我が国が選択したのは、問題の先延ばしだった。宇宙開発技術が確立するまでの間、できるだけ今の文明を維持する方法を考えだした。それは、徹底した効率化である。エネルギー効率は、もちろん。政治、経済までもが効率化が推し進められ、仕事の効率、人間関係の効率に至るまで、徹底した高効率化された社会が出来上がっていた。そう、社会不適合の僕達は、効率化の枠から外れた社会の役立たずなのである。社会が求めているのは、標準的な能力をもったバランスのよい人材であり、能力が足りない者、能力が偏っている者、能力が飛びぬけて居る者そう言った人間は、社会にとって非効率な存在なのである。いくら、飛びぬけた能力を持っていても一人では、たいした事は、できない。大きな仕事をするには、幾人もの人と連携をとりながら作業をすすめなければならない。少人数の能力がずば抜けた者のグループよりも、大人数の標準的なグループの方がより大きく、正確な仕事が可能だと言うのだ。これが効率化された社会の中で逸脱者が不要とされた理由である。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...