131 / 241
【新妻編】
130 マッサージ?
しおりを挟む孝を酔い潰す為、酒を勧める家光だったのだが、そう上手く事が運ぶはずもなく……
「ああ……もう俺はいいよ。役に立たなくなったら困るだろ……?」
「役に立たないって……」
「……今夜はお前を喜ばせてやるために待ってたんだ。お前も忘れてもらったら困るからこれ以上飲むのは止めろ」
ひょい。と孝は家光の手から徳利と猪口を取り上げ、お盆に戻してしまう。
「っ……!?」
「…………お前、俺が怖くないのか……?」
「え」
孝が家光の手首を握り、自らの胸に引き寄せる。
家光は孝の胸に顔を埋める格好で抱き寄せられた。
「……家光……」
「っ……! 放し……(うわっ、身体勝手に震える~~!?)」
家光の頭上から孝の低音が降り、その腕は意外にも優しく ただ抱きしめるだけ。
彼の胸に手を当て抵抗すればすぐ逃れられるのだが、家光はそれをしなかった。
というか出来ずにいた。
孝に抱きしめられた途端、家光の身体は強張り勝手に震え出す。
一度襲われた相手だから無理もないだろう。
ただ、震えているのは家光だけではなかった。
――孝の奴……手、震えてる……?
家光を抱きしめる孝の手が震えている気がする。
「……あの時はごめん……」
孝が小さく囁く。
「っ……孝……?」
「……俺は、家の奴等にまんまと乗せられた。それでお前にあんなことを……お前を傷付けるつもりはなかったんだ……、許してもらえるかはわからないけど……」
孝の言葉に家光が恐る恐る顔を上げると、薄ぼんやりとだが赤い顔をし、眉を下げた孝と目が合った。
「…………反省……、してる……っていうの……?」
「はぁ……反省してる。もうあんなことはしない……こんなに震えて……。怖かったよな……?」
家光がたどたどしく訊ねると孝は静かに首を縦に下ろす。
そして、家光の頬に手を添えじっと見つめた。
「っ……あっ、あのねぇっ!! あんたの所為で私は……っ!」
家光の息が詰まる。
あの日は独りで泣いて何とか忘れることに努め、どうにかここまでやって来たのに。
――すっごい怖かったんだぞっ!!
正勝や風鳥にも迷惑掛けたし、京都に行く途中だってのにメンタルゴリゴリ削りやがって……!
あっさり謝るとか何なんだ!
それで許してもらえるとでも思っているのか!?
お前は私にトラウマばかり植え付ける嫌な奴でしかない。というかずっとそういう存在で居て無視してればいいじゃないか!
家光の心の中で色んな感情が渦巻く。
突然殊勝な態度で謝られた所で私が絆されるとでも思っているのか、と問いたくなる。
孝は口を開けば家光の神経を逆撫ですることばかり云う割りに、今はなんだ、捨てられた子犬のような顔をしているではないか。
「すまない家光……。どう償えばいいか俺なりに色々考えた。俺に出来ることはそう多くない。だから今日は俺に委ねて気持ち良くなってくれればと……」
家光が黙り込み孝を見上げていると、孝の手がするりと寝間着の袖から入り込んで来た。
「は……? ちょい待ちっ! ちょ、待っ」
「……大丈夫、俺、こっちはちょっと自信あるんだ」
「はっ!? いやっ、あのっ、この流れおかしくない!?」
すすす。と孝の手が家光の腕をなぞっていく。
「ンッ……!(何この触れ方~!!)」
手首から入り込んだ孝の指先は、触れたか触れないかくらいの絶妙な触れ方で、家光の腕を優しく往復した。
擽ったさに家光の唇から堪らず声が漏れ出る。
「……家光って……、感じやすい……?」
「っ!? いやっ、そんなん知らんけどっ!?」
孝の唇が にやりと歪んで、今度は家光の二の腕を揉み出した。
「……はぁー……、お前の肌すげーもち肌なのな……。気持ちいいわ……(触り心地が最高だ……)」
「っ……??」
ぷにぷにぷにぷに。
孝の瞳が優しく細められ、二の腕から前腕へと手が移動する。
「ぁ……、気持ちいい……」
程よい力加減で腕が揉み解され、家光はつい素直な気持ちを吐露してしまった。
「ふ。だろ……? ……肩揉んでやるよ」
「は……?(まさかこっちってマッサージが上手いってこと……?)」
「…………いいから後ろ向け」
孝に促されるものの、家光はまだ少し警戒中の為に動かず。
「……………………、わかった。俺が後ろに回る」
「っ……」
――背後を取られたくないんだけど……!?
家光の気持ちを察して、孝は彼女の背後へと移ると肩に手を置いた。
そして、優しく揉み解していく。
「……肩、凝ってるなぁ……」
「っ……ン……くっ……」
――何でこいつ、肩揉んでんの……!? 初夜だよ!?
やはりこっちとはマッサージのことなのだろうか。
孝の手の力加減は絶妙で、強くも弱くもなく丁度良い。
按摩でも食べていけるのでは……と思う程だ。
嫌な奴のいい所を見つけてしまい、複雑な気持ちになる家光だった。
「……俺はさ……、お前と仲良くしていきたいと思ってるんだ」
「んっ、ンン……。ぁぁ……(めっちゃ気持ちいい~)」
湯殿でやられたデトックス的強制マッサージとは違い、リラックスを目的とした孝の手腕に緊張していた身体が解れていく。
――このままだと溶けそう……。
「……可愛い声……。気持ちいい……?」
「ンン……、っ……ぁ……、そこ……(何、今なんて言ったの……?)」
「ここ……? わかった、ここな……」
孝が顔を近付け家光の耳元に囁くと、低音が耳奥、そして脳内に沁み渡っていく。
ただの肩揉みだというのに、身体全体が弛緩していく感じがした。
「……んっ、んっ、ンッ……」
「…………はぁ……、家光、お前可愛いな……」
不意に肩を揉んでいた手が止まる。
「ン……、…………え?」
「……お前は俺のものだよ……」
ぼぅっと目を細めていた家光は強引に身体を反転させられたかと思うと、顎を取られ顔を上げさせられた。
「ぁ……っ……ゃ…………(マズイ……!)」
ンンッ!
家光が不味いと思った時には既に唇は塞がれ、直ぐに孝の舌が唇を割って入り込んで来る。
大きな手で頭の後ろと顎を固定され、逃げられなかった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
せっかく美少女に転生したのに出会いが無いので悪役ご主人様に仕えます ー転生先は男女比が崩壊した男だけ美醜逆転ハーレム小説の世界だったー
静電池
恋愛
どうやらこの世界は、男性向けハーレム小説の世界らしい。
浅井萌はせっかく美少女に産まれたのに、男女比が1:30なせいで出会いが無い!
男性だけ美醜逆転の世界で、小説の悪役である不細工(前世ではイケメン)なご主人様のメイドになった萌が、気付かぬ内にご主人様から囲い込まれている話。
※エロは予告なく入ります。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
R18 はるかかなた〜催眠の愛〜
冬愛Labo
恋愛
突然神様の悪戯で異世界に召喚された主人公。
そこで拾われた男性に催眠を掛けられて部下に調教をされる。
従順になった主人公の催眠生活。
♡喘ぎ、モロ語、オノマトペ、催眠、調教、青姦、触手複数プレイ等が有りますのでご注意下さい。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R-18】イケメンな鬼にエッチなことがされたい
抹茶入りココア
恋愛
目を開けるとそこには美しい鬼がいた。
異世界に渡り、鬼に出会い、悩みながらも鬼に会いに行く。
そして、そこからエロエロな一妻多夫?生活が始まった。
ストーリーよりもエロ重視になります。タグなどを見て苦手かもと思われたら読まないことを推奨します。
*があるタイトルはエロ。
【※R-18】異世界のゲートをくぐり抜けたら、イケメン達に取り合いされる最強のチートキャラ人生が待っていた。
aika
恋愛
穂花は、彼氏とテーマパークでデート中、大喧嘩になり振られてしまう。
ショックで動けず閉園時間まで一人過ごしていると、テーマパークのシンボルとなっているお城のゲートが開いているのが見えた。
長身のイケメンがゲートをくぐり抜けていくのを目撃し、一目惚れした彼女は後に続いてゲートをくぐる。
そこにはテーマパークの動物達が獣人として暮らす、メルヘンな世界が広がっていた。
穂花は異世界に来てしまったことに気付く。そこは獣人と人間が共存する世界。
平和そのものに見える彼らの世界では、謎の熱病が流行り、「世界の終わり」が始まっていた。
熱病に罹ったものは、人格を失い、自らの能力が暴走してしまうらしい。
穂花は、彼らと交わることによって「暴走した力を無力化できる」というチート能力を持っていて・・・・
男だらけの異世界で、イケメン達から求められまくるオイシイ物語が、穂花を待っていた。
(※R-18描写あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる