逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【新妻編】

117 剃毛

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 ――御休息之間に着き、今日はもう身体を休める様にと云われ、家光は褥に寝かされていた。


「明日は早くから湯殿へ行き、準備に取り掛かります。朝餉は湯殿にて剃毛が終了した後になり、その後白無垢に……」


 ぽんぽんと春日局は家光の掛布団を叩きあやしながら、明日の過程を説明しだした。


「っ、て、ていもう……!? 剃るのっ!?」


 話の途中だったが、家光はつい訊ねる。


「身嗜みですよ、家光様。家光様は剃毛の必要がない程きめ細かいお肌ですが、明日は白粉を塗りますから。それに、初夜の事も御座います」


 春日局は“お顔全体に首回り、腕と脚、あとは下……”と剃る箇所を教えてくれるのだが、家光は気になることがあって再び訊ねた。


「ふえぇ……。マジかぁ……、それって湯殿番がするの?」


 湯殿番て、男の人じゃん。
 剃毛してもらうの、恥ずかしいんだけど……。

 封印の解けた今、羞恥心を知った私に剃毛プレイはまだ早い気がするわ……。


 家光は眉をハの字に下げて春日局を見上げる。


「いえ、明日は婚礼の儀故、男子禁制となっております。女性のみで行いますのでご安心下さい」

「そうなんだ……良かった……」


 春日局の言葉に家光は安堵し、ふぅと小さく息を吐いた。


「……お休みなさいませ、家光様」

「おやすみなさい、福。また明日ね」

「ええ、また明日」


 春日局が目を細め家光の頭を優しく撫でると、家光はうとうとと瞬きを数度繰り返してから目を閉じる。

 今日は城に戻ったばかりだというのに朝から晩まで忙しくしていたから疲れたのだろう、然程時間を掛けることなく家光は意識を手放したのだった。









 ――……次の日。

 まだ夜も明けきらない朝焼けが空に映える頃――。
 中奥、将軍専用の湯殿では家光の叫び声が響いていた。


「いたーい!! ひぃっ! 痛いってばっ!! そこっ!」


 家光は全裸で湯殿脱衣所にて寝かされ、手足を拘束されながら顔と首、腕の産毛の処理を複数の女性達(手足を拘束する者が四名、処理を施す者五名の総勢九名)に施されているのだが、それだけではなく、脚や脇、腹、遂には女の茂みにまで処理が及んでいたのだった。

 産毛の処理は剃刀かみそりで進んでいたのだが、女の茂みの処理はなんと石で行う。
 軽石のような薄く平たい石を二つ重ね合わせ擦り切るのである。
 一本一本丁寧に係の女性が擦り切ってくれるのだが、引っ張られるために痛みが伴う。そのため家光はさっきからひぃひぃと呻いているのだった。


「家光様、もう少しです。頑張りましょう!」


 今日の為に呼び出された処理係の見目麗しい女性(責任者らしい)が笑顔で家光にエールを送ってくれるのだが、家光は……。


「っ、ひぃっ! だから痛いんだってばっ!!(引っ張らないでよぉっ!)」

「こちら、先を焼き切って柔らかく仕上げておきますから、初夜も安心ですよ。御台様も柔らかさに喜ばれることでしょう」


 女性の手に線香が握られており、擦り切った毛先を燃やしているのか、毛の燃える厭な臭いが脱衣所に充満していた。


「あのねぇっ! あいつにそんな気遣い必要ないんだけどっ!? ってか熱っ」


 手足を放してよっ! 将軍の身体に何してくれてんのっ!?
 不敬じゃないっ!?


 家光は目で訴えるのだが、係の女性は見透かすようににっこりと穏やかに笑みを浮かべる。
 その間にも身体の隅々を剃刀が動き、産毛が剃り落されていった。


「家光様、私共は秀忠様、並びに春日局様よりの御依頼でここにおります。家光様の御身体を隅々まで磨き上げましたら、解放致しますのでそれまで御辛抱下さいませ」


 見た目と言葉は優しく美しい美女が、容赦なく家光の女の茂みを擦り切っては焼き、擦り切っては焼きを繰り返していく。
 その手付きは手馴れており、普段もこういった仕事をしているのだろう、手際よく仕事をこなすエキスパートのように思えて来た。


「ふぇぇ……」


 お母様と福の依頼って……断れないやつじゃん……!


 家光は涙目ながら、女性達になすがままに身体のあちこちを剃られ、そして……。






「あぁ……極楽極楽……」


 全身のムダ毛というムダ毛を処理された家光は、一度湯浴みをした後で今度はうつ伏せでマッサージを受けていたのだった。


 エステか何かと思えばいいか、まさか江戸時代でエステを受けることになるとは思わなかったな。
 私エステ初めてなんだよね……(※エステではない)。

 にしても気持ちいいわ……。


 家光は自分の腕を何となく上げて見てみる。
 その腕の表面はきらきらと光っていた。
 先程何かしらクリームのようなものが塗られていたっけなと、ついでに反対の腕も見てみる。


 ……ピッカピカね!


 気付けば身体はつるつると輝き、触るときゅっという音がしそうな程磨かれていた。


「家光様、少々肩が張っておいでですね。解しておきますね」

「ああ、そこそこそこぉ……」


 家光はご満悦とばかりにうっとりと瞳を伏せる。

 先程までの痛みはどこへやら。
 家光は女性に肩や背中を揉み解され、天にも昇る気持ちでうとうとし始めてしまうのだった。


「家光様、全身を磨いてとても御綺麗ですよ。私共は婚礼の儀に参席出来ませんが、今宵御台様が喜ばれる御姿が目に浮かびます。どうぞ御幸せに……」

「ん……、うん……、ありがとうね」


 あ~~……気持ちいい~~……!


 孝の為にやってるんじゃないけどねっ! と思いつつ、全身が弛緩する感覚を覚えて、家光は女性の手技に逆らえずただ頷く。
 今は孝の事などどうでもいい、ただ気持ちがいい……。その一心のようであった。


「勿体無い御言葉、痛み入ります。またいつでも私共を御呼び立て下さいませ」


 女性は暫くの間、家光の凝りを解してから他の者達を引き連れ下がって行った。

 その中で家光は途中から夢の中へと旅立ち、


「う~ん……むにゃむにゃ……。たまにはゆっくり寝ていたいなぁ……」


 涎を垂らし寝言を呟く。
 それは春日局がやって来るまで続いた。





「まったく……、もうすぐ婚礼の儀だというのに眠ってしまうとは何事ですか……。呼びに来たというのにこれではまたお顔を洗わねば…………(可愛らしい寝顔……、真、美しくなられたな……)」


 春日局は眠る家光を起こす前にほんの僅かの間だけ、優しい眼差しで見下ろしたのだった……。
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