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地味な花には毒がある(2)

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「あら、ローズ・ハルモニア伯爵令嬢じゃない。相変わらず地味で特徴のない顔ね。あまりに影が薄すぎて壁と同化しちゃっているじゃない。一瞬気付かなかったわ。ねぇ、あなたも今夜の舞踏会に来るの?」

「はい。宮殿舞踏会への出席は貴族令嬢の義務ですので」

「そうなの。あなた、まだ誰とも婚約していないわよね? どうせ踊る相手も見つからないでしょうに。よく行く気になれるわ。恥ずかしくないの?」

「……」

「あぁ、あまりに婚約者が見つからなくて焦っているのね。かわいそう。あなたみたいな凡庸な令嬢を拾ってくれる物好きな殿方が居れば良いわね」


――こういう輩は相手にしないのが一番ね。


 早口でまくし立てる相手の言葉を聞き流し、ローズは「それでは失礼いたします」と話を切り上げ、背を向ける。
 
 立ち去ろうと一歩足を踏み出した、その時――背後に三人の気配を感じた。

 直後、背中を急に強く押され、ローズは前につんのめる形で、その場にうつ伏せで倒れ込んだ。

 バタン――!という派手な音が大理石の玄関ホールに響き渡る。

「あら、そんな何もない所でつまづくなんて、相変わらず地味な上にドジなんて……あぁ、かわいそう。みんなもそう思わない?」

「ええ、本当にかわいそう」

「かわいそう」

 口元をおうぎで覆い、くすくすと楽しそうに笑う三人組。
 
 ローズの頭上から雨のように嘲笑ちょうしょうが降り注ぐ。

「あなたみたいな『残念令嬢』は床とダンスを踊っている方がお似合いね」

「そうそう。今夜のダンスパーティでもそうやって、床に這いつくばっていれば? 誰か手を差し伸べてくれるかもよ」

「こんな大きなゴミがホールに落ちていたら、皆様の邪魔になるわ。それじゃあ、私達はこれで。ご機嫌よう、憐れな憐れなローズ・ハルモニア残念令嬢」

 最後まで彼女たちは、実に愉快だと言わんばかりにローズを侮辱して去って行った。

 誰も居なくなった冷たいホールに一人きり。

 うつむき、しゃがみ込んでいたローズは涙を流し…………てなどいなかった。


 ここから、反撃開始だ――。
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