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彼 Side 結局容貌に見合う末路ってものがある

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・・・一瞬でもこの時が永遠になればいいだなんて、身分不相応に思ってしまった。
馬鹿みたいに、結局それを壊してしまったのは、自分自身の手によって、だった。

もう、絶望に身を沈めることすら自分には許されていないのだ。



落ち着いて話してみると、彼女は言葉が通じないことが分かった。
今まで聞き取れなかったのは、きちんと聞いていなかったからくらいに思っていたのだがその程度の問題ではなかった。

彼女も意思の疎通を図ろうと、頑張っていたようだがお互いの言葉が通じることはなかった。
落ち込みを隠せない彼女の様子にどうしようかと思ったが、いい考えは浮かばず、もう外が暗いことを言い訳に風呂とトイレにつれていき使い方を教えて今日は寝てしまうことにした。

ベッドを彼女に明け渡し、居間のラグに体を横たえると、そういえばこの二日はまともに寝ていないしその前は野営、体は休みを欲していたのだろうあっという間に眠りに落ちていった。


目覚めたのはいつもと同じ時間。
いつもと同じ朝のルーティーンをこなしながら、彼女をどうすればいいのか考える。

しかし、いい案など思い浮かぶはずもなく、結局は信頼のおける上司に相談する程度の答えしか出てこなかった。

目覚めてきた彼女は心なしか顔色がよくなっている気がする。
少しほっとした。

一緒に朝食を取った後、仕事に行く準備をする。
そして準備が完了した後に、冷えても食べられる食事を用意し、すぐに出て行っても彼女が困らないようにいくばくかのお金をテーブルの上に置いて仕事に出発した。


職場に着いていろいろな引き継ぎ事項を確認、やはり黒髪の女性を問い合わせた人物はいないようだった。

「おう、お前何かあったか?」

話しかけるタイミングを図っていると、こちらから話を振る前に上司である隊長から声を掛けられた。

「え、あ・・・、昨日の肉はどうでした?」

彼女のことを相談しようと思っていたはずなのに、口を動かそうとした時に浮かんだのは昨日の彼女の笑顔で、口を吐いて出てきたのは世間話で。
そのまま、彼女のことを相談できずにいるままにタイムリミットがやってきた。

「まあ、言えるようになったら気兼ねなく言え。」

最後に目をしっかりと合わせて掛けてもらったのはそんな優しさ。


何故、と自分に問いかければあっさりと答えが出た。

訳ありの彼女のことを相談したら隊長に迷惑がかかるかもしれない。
彼女を危険に晒してしまうかもしれない。

そんな上辺だけの、取り繕った理由に隠しきれない自分勝手な願い。

自分に向けられたあの笑顔を手元に置いていたかった。


手に入るだなんて奇跡を信じられるほど、愚かじゃない。
それでも、少しの期間だけでいいから笑顔を向けていて欲しかった。
家に帰ればもうすでに無くなってしまっているかもしれないけれど。


そんな自分勝手な思いを抱えたまま、家に帰り着く。

そこに彼女はいて、何を言っているのか相変わらず分からないけれど、この俺を笑顔で迎えてくれた。


そのまま上司に相談できずに、彼女との同居生活を続けた。

言葉が分からなくて、どうすればいいか分からないから。
とか色々なそれらしい理由を並べ立て、自分の願いの自分勝手さに複雑な思いを抱えながら、日々過ごして行った。


彼女はお嬢様だろうから何もできないだろうという予想はあっという間に裏切られた。
最初こそ戸惑っているようで何もできずにいたが、使い方などを理解するとあっという間に使いこなすようになった。
まずは部屋がきれいになり、料理がおいしくなった。
どちらも蔑ろにしてきたつもりではないが、俺一人であるからどちらも問題なければいいと手を加えるようなことも無かったのも事実。

少しずつ、言葉が通じないなりに意思疎通ができるようになってきて、意地でも明け渡していたベッドを彼女のストライキに根負けして一緒に使うようになる頃にはひと月近い時間が経過していた。


そして明日が休みというその日、帰り際に飲みに誘われた。
正直ベッドを彼女と一緒に使うようになってからは寝不足が続いていて早く帰って休みたかったが、先輩たちの誘いを断りきれず、付き合うことに。
家で待つ彼女を心配しつつも、久々の酒に勢いが止まらずいつの間にか酒に呑まれてしまっていた。


記憶は2軒目辺りで途切れて、正気に戻った時には家に居た。


寝室のベッドの上で激しく脈打つ心臓に、上がってしまっている息。

そして俺の下には、意識を失いながらも苦痛に顔をしかめる彼女が居た。

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みんなの感想(2件)

ざと
2021.03.03 ざと

こんにちは。
楽しくて一気に読んでしまい続きが読みたくて読みたくて感想欄を開いてしまいました。
お忙しいとは思いますがぜひ、顔の怖いいい人がどうなったか知りたいです。
更新よろしくお願いします。

解除
ちび
2020.06.29 ちび

(*´ω`*)はじめまして!とっても面白くて毎回更新が楽しみです!

登場人物の名前がまだでてこなくて、早く言葉が通じて自己紹介しないかなぁとぼんやり思いました(笑)

緑色の髪のクマさんがとても高感度大です( ꈍᴗꈍ)
主人公ちゃんが襲われても他人事みたいで笑っちゃいました。
これからどうなってしまうのか楽しみで仕方ありません!応援しておりますっ♪

解除

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