そんな綺麗なもんじゃない

思っていたより優しい世界でした

下腹部の痛みに目を覚ます。
目に入る見覚えのない景色に、みじろぎし体を起こそうとすると体に痛みが走る。

痛みに呻いていると、女性の声がした。
何を言っているのか理解できず、声のした方に頭だけ動かすと、ピンクの頭の女性が心配そうにこちらを見ていた。

・・・ピンク・・・、ショッキングピンクじゃなかっただけましか。

それから女性は何か話しかけてきていたけれど、全く理解できないままだった。
彼とのひと月近い生活で少し言葉が分かるようになってきたかもって思ってたけど、幻想だったことがよくわかった。全く何言っているのかニュアンスすら掴めない。

困惑した様子の私に、そこにいて、みたいな身振りをしてその女性は部屋を出て行った。

少し経った後、帰ってきた女性の後ろには薄紫色をした髪の真面目そうな顔の男性がいた。

「コンニチハ」

その男性の発した言葉に驚く。

「こんにち、は？」

久々の、日本語に、カタコトの日本語に涙が溢れる。

「コレ、ヨム。」

そう言って男性が差し出してきたのは一冊の薄い本。
表紙には『異世界のススメ』と書いてあった。

「異世界のススメ・・・？」


その本に書かれていたのは、ここが異世界であるということ。
この世界では魔法が使えること。
50年に1人くらいの割合で地球と思わしき場所から転移者が現れるということ。
転移者は特殊な能力や高い魔力を持つことが多いから、身の振り方に十分注意すること。

そして、少なくともこの本が書かれた時点では地球に帰る術は無い、こと。

・・・盛大なドッキリだと思いたいけれど、限られた空間とはいえ過ごしてきたひと月という期間が本当のことだと訴える。
それに、私みたいな一般人にこんな盛大なドッキリ誰得？


その本を読んだ後、ピンクの髪のお姉さんの診察を受けて、紫の髪のお兄さんがこの国のことなど説明してくれた。
あ、言葉に関しては本になんか呪文と魔法陣が書いてあって、魔法陣に手を乗っけて呪文を唱えると言葉が理解できるようになった。
先人の残してくれた知識に感謝しかない。


そして私の今後についてだけど、一旦国の預かりということになった。

この国は比較的転移者の権利とかが確立されているらしい。
だから自分でどうするか選ぶこともできるけど、判断するには情報量が少ない。

初めに保護してくれた人の元で過ごす、というのも一つの手らしいけど、彼はただいま絶賛勾留中らしくてその選択肢は取れない。
ので消去法で国預かりで知識などを詰め込んでから今後を決めることになった。



そう、勾留中なのだ。
勾留理由は転移者を保護したのに届出をしなかったこと、及び、転移者を軟禁し暴行を加えたこと。
ただし全部疑いと付くけれど。

私が気を失った後の話になる。
正気に戻った彼は破瓜とかでは説明できない量の出血をする私を見て驚き、シーツに包んでそのまま医者に診せに行った。
深夜に確実に診てくれる医者がいる場所としてとっさに駆け込んだのは彼の職場でもある警備隊の本部。医者に診せることはできたものの、当然事情を聞かれる。そこで私の身元が不明で言葉が通じないことも説明することになった。

そして、その事情を知った人の中に黒髪で言葉が通じない場合転移者の可能性があると気づいた人がいた。その人がそのまま国に報告し、彼は事情聴取と勾留をされてしまったのだった。

疑い、で止まっていたのは、私が意識を取り戻さない限り全ての事実が確認できないから。